5話 解放された悪魔マル
「私は君達に特に恨みはないけど……この悪魔は、三人に言いたい事が色々とありそうだよね」
異空間にされた大広間にて。私は悪魔狩り三人に、悪魔が閉じ込められている水色のチャームを見せびらかした。
赤と黒のチャームの力は弱いが、水色のチャームはやけに力が強い。どうやら水色チャームに閉じ込められている悪魔はまだ元気な様子だ。
封印こそされているものの、力を込めて踏んづければ封印は呆気なく解除されることだろう。
「君達の処分はこの悪魔に決めてもらおうかな〜ってね!」
「そっ、それだけはやめろっ!」
「待って! やめて!」
「頼む……! 望む物があるなら何でも差し出す! だから……!」
三人は焦り必死に声を張り上げるが、私はそれに構わず水色チャームを地面に叩きつけた。
「やめろーっ!」
「お願いやめてっ!」
三人が必死の形相で叫ぶ中、私は脚に力を込め、思い切りチャームを踏みつけた。
バキン!
チャームは音を立てて割れ、それと同時に私の足元から煙のような闇が発生した。
「や、やりやがった……!」
「封印が……!」
三人が動揺する中、闇は煙のようにどんどん膨れ上がる。
やがて闇が晴れ、一体の悪魔が姿を現した。
「おぉ……」
ピエロの衣装に似た、多少派手だがセンスのある衣類を身につけた美しい男性の悪魔が、地面にうつ伏せに倒れていた。
二対の見事なツノが生えた彼の頭には、私の足跡が見事に刻まれている。
「そういう感じで出るんだ!? ごめん!」
私は慌てて倒れている悪魔に手を差し伸べた。
「助けてもらった御恩に比べればこれくらい大したことないさ! あたた……」
ピエロに似た美しい悪魔は私の手を取りながら地面から起き上がり、化粧が施された綺麗な顔を私に向けた。
「封印を解いてくれてありがとう! えーっと……」
「あ、私のことはジギって呼んでね。よろしく」
「ジギちゃんだね、ヨロシク!」
悪魔は私に気さくに挨拶を返す。
「それにしても君って強いんだねぇ、あの悪魔狩り三人を返り討ちにするなんて! ジギちゃんには感謝しても仕切れないなぁ! 本当にありがとう!」
「ど、どういたしまして……」
綺麗な見た目の割にやけに陽気な彼は、私に感謝の言葉を述べながら元気な拍手を見せる。
「あ、僕のことはマルって呼んでね!」
「分かった、マル宜しく!」
「ヨロシク! さてと……」
陽気な悪魔のマルは、首を180℃回転させて悪魔狩り三名を見つめた。悪魔狩り三名はビクリと肩を振るわせる。
「君、僕の力を無断で使用したね」
「あ、あぅう……」
「契約違反したら、こっちも流石にお行儀良くするわけにはいかないよねぇ〜」
マルは魔法使いの可愛らしい顔面をじっと見つめる。魔法使いは床に座り込んだままガタガタと震えている。
「うぅ……うゎあああああ!!」
魔法使いは頭に乗せていた大きな帽子を掴み、帽子の中から綺麗な宝石を取り出した。
そして魔法使いが石に魔力を送ると、石は緑色に輝き出した。
「僕に近寄るなぁあああ!」
魔法使いがそう叫んだ瞬間、魔法使いの帽子がグンと膨らみ、中から無数の太いツタが飛び出した。
「うわっ!? 何あれ!?」
「植物を操れる精霊の力だよ! あの魔法使い、帽子に植物の種を入れてたんだ! アレの存在すっかり忘れてた!」
私とマルは、瞬時に伸びてくる頑丈で大きなツタをとにかく避ける。
「あーもうしつこいなぁ! それっ!」
「あっ! ジギちゃん切るのはやめた方がいいよ!」
私は伸びてくるツタを、腕から生やした翼を用いて回転しながら切断した。腕の回転に巻き込まれ、幾つも切られたツタが宙に舞う。
「……ん?」
切られたツタが膨らんでいる。
「ジギちゃん避けて!」
「!?」
切られて細切れになったツタはなんと急成長し、あっという間に立派な太いツタに成長してしまった。
「うわっ!? 嘘でしょ!?」
新たに発生した太いツタの群れが、私を目掛けて飛んでくる。私はその場から飛んで避け、ツタから距離を置いた。
「それそれっ!」
マルは派手な衣装を身につけたまま見事なアクロバットでツタを避けていく。
ツタを片手で掴んで身体を持ち上げ、足にツタを引っ掛けて半回転して飛び、ツタを足場に別のツタへと飛ぶ。見事な曲芸だ。
だが、見事にツタを避けていく私達を目にした魔法使いは、目に見えて絶望し怯えていく。
「ひいっ!? どっ、どっか行けーっ!!」
魔法使いの叫びに呼応するかのように、周囲のツタがさらに急成長していく。
「うわっ!?」
丸太のように成長したツタは悪魔狩り三人を飲み込み、捻れて重なり大きくなり、姿を変えていく。
『ギャオオオオオーーッ!!』
「こ、これって……」
やがてツタは、頭を幾つも持つ龍「ヒュドラ」のような化け物に変化してしまった。