33話 一難去って……
「えっ? グレイ、奈落の底に自ら飛び降りたの?」
「そうだ」
牢屋が備え付けられた敗者室にて。真っ先に敗退していた治療師ユースは、新たに敗者室に運ばれてきた魔法使いグレイと敗者のやり取りをしていた。
「あのゲームを全てこなし、最後まで生き残れたとしても、無事に返してもらえるとは思えなかった」
「……だから途中で離脱したの? 魔力を全部投げ捨ててまで?」
「なるべく苦しまない方法で離脱したいと思案していた」
「僕の最後を目撃しといて、それでも自ら脱落できるなんて……すごい神経してるね」
「……呆れられたか」
ユースは紙皿に盛られた大福片手に、グレイとゆるい会話をする。
「……あ、そうそう。なんか僕ら、地獄に送られるんだって」
「話は既に悪魔から聞いた。悪魔の棲家に送られ、魔神装備から魂の復元ができる装置を用いて魂を剥がす作業をさせられるのだと」
グレイは手元に視線を落とし、言葉を続ける。
「……人間は仲間を殺されれば相手を憎む。それは魔神も同じだったということだ。我々は魔神の法律を破った、だから魔神の法に則り罰を下されるのだろう」
「まあ、そう言われたらほんの少しくらいは納得はするかな……納得するだけで罰受けるのは嫌だけど。それで、グレイは奴らの罰を受け入れるつもりなんだね」
「彼等の言い分は最もだと……む」
そんなやり取りをしていると、敗者室の扉に唐突にノックが入る。
「お待たせいたしました」
扉が開き、敗者の部屋に悪魔のルートが入室してきた。
彼の持つ紙皿には、謎の綺麗な物体が山のように乗せられていた。
「グレイ様。こちら、落雁でございます」
「ラクガン……?」
「地球でよく食べられているポピュラーな菓子でございます。どうぞお召し上がりください」
「…………私に差し入れてくれるのか」
ルートは魔法使いグレイに落雁の紙皿を手渡そうと手を伸ばす。
「とりあえず貰っとけば?」
眼前に出された菓子に困惑しているグレイに対し、ユースは大福を片手に呑気に一言告げる。
「なんか地獄に行くまでの間は色々とサービスするとかで、できる範囲で食べ物や娯楽を提供してくれるんだってさ」
「何?」
「意外でしょ、あんな意地悪なゲームしといて後でこんな優しくするなんてさ。でもあいつ、敵意が一切感じられなくてさ」
治療師ユースは呑気に語りながら手元にある本を見せつける。
「ほら見てよコレ。この悪魔、最新の小説とか取り寄せてくれたんだよ? しかも僕にくれるんだってさ」
「新品の本を賜ったのか」
「うん。別にペナルティも無いらしいし、貰い得だってこの悪魔も言ってたよ。そのお菓子もとりあえず貰っとけば?」
「そうか……では、ありがたく頂こう……」
ユースの言葉を聞いた魔法使いグレイは、丁寧に落雁の紙皿を受け取った。
「グレイ様、あともう一つお渡ししたいものが」
「ん?」
「どうぞこちらを」
ルートはグレイに一封の封筒を手渡した。
それを見たユースは数分前に貰った謎の手紙を思い出し、思わず顔を顰めた。
「話は以上です。では、私はこれで……」
ルートが部屋から退散した後、グレイは静かに封筒を開いて中身を見つめる。
「ふむ……」
恐らく彼も怪文書の書かれた手紙を貰ったのだろうとユースは推測した。
それでも治療師ユースは一応、手紙の内容についてこっそり尋ねた。
「……グレイ、どんな変な手紙貰ったの?」
それに対して魔法使いグレイは、手紙を片手に不思議そうにユースの方を見つめた。
「変な手紙……? 私が賜ったのは、罰を受けた後の処遇に関する情報が記載された手紙だ」
「えっ?」
「手紙と、私の新たな配属先となる職場の資料が封入されていた。だいぶ待遇のいい職場に移してくれるそうだ」
「何なんだよもう!」
治療師ユースは叫び声を上げて紙皿を勢いよく床に叩きつけた。ユースが投げた紙皿は優雅に空を舞い、やがて魔法使いグレイの頭に見事に着地したのだった。
一方。荒れ果てた森スタジオに残された冒険者の挑戦者達は……
『これにより第二試練は終了となります! このステージでは挑戦者一名が脱落し、残り挑戦者の数は六名となりました!』
「グレイ……!」
ベルトコンベアは音を立てて停止し、スタジオにMCの実況が響き渡る。
剣士フォレスを除いた挑戦者六名は、グレイが落下していった奈落に目を向けていた。
「なんでこんなことを……!」
「何なんだよ……! 俺達が何をしたっていうんだ……!」
「天使や悪魔を散々討伐しておいて今更何をおっしゃるのですか!」
ゲームが終了したところで、私とマルは再び姿を現した。ゴール付近に発生した簡素な足場に降り立った私達は、下にいる挑戦者達をじっと見つめる。
「おい悪魔! グレイはどうなったんだ!」
「とりあえず彼について一言ご説明します」
「今回、彼は自ら脱落しました。罰を受け入れたと解釈し、彼の態度を鑑みた結果、今回の彼への罰ゲームは無しとさせていただきます」
「こんな大穴に落としておいて何が罰ゲーム無しだよ!」
私の説明に弓使いが吠える。だが、無駄話をしている暇はない。
「ほら、立ち止まっている暇はありませんよ! 次のステージに進んでくださーい!」
「そうだよ! 早く行かないとオバケに食べられちゃうよ!」
「オバケ……?」
マルの言葉に反応した挑戦者は辺りを見回す。
スタジオが次第に暗くなり、さながら夜のような雰囲気を醸し出し始める。天井には星が瞬き、風の音に乗って虫の音も聞こえてくる。
「あっ! 穴の底からなんか出てきます!」
「げっ……!」
奈落の底からゆっくりと謎の物体が昇ってくる。
「魔物だ!」
物体の正体はマジックゴースト。ゴール手前にいる挑戦者達を視野にとらえ、挑戦者達を目掛けてゆっくりと移動してくる。
「まともな武器も持たない今は、とにかく従う他ないか……! 行くぞ!」
「おう!」
「くそっ!」
挑戦者達は豪華な扉を開けると、ゴーストから逃げるように第二試練のステージから退散したのだった。
「はぁ……はぁ……」
「ここは……」
ゴーストから何とか逃れた挑戦者のアッシュ達が次に訪れたのは、内装が滅茶苦茶になった屋敷の中だった。
床にはシャンデリアが生え、壁や天井に家具がくっ付いている。家具と家具が合体したような妙な物が辺りに転がっている。
「まさかこれって、ダンジョン化現象により変化した屋敷か……?」
「シチュエーションのご説明をします! 貴方達はダンジョンの崩壊から何とか免れましたが、気がつけば日も暮れて夜になってしまいました」
挑戦者達の反応なぞ特に気にせず、私は簡単な説明をする。
「魔物だらけの森の中を彷徨っていると、貴方達の前に綺麗な屋敷が現れました。皆さんはとりあえず朝になるまで屋敷で過ごそうと考えてましたが……」
「なんと! 屋敷の中はダンジョンだったんだよぉ!」
「ダンジョンに気付いたものの既に手遅れ。出入り口は閉じ、挑戦者達は外に出られなくなってしまいました!」
「閉じ込められたのか……」
アッシュは出入り口を軽く確認する。先程まで簡単に開いた扉は、今は押せども引けどもびくともしない。
「と、いうわけで! 第三試練『脱出せよ! 屋敷ダンジョン』の開幕です! これから皆さんには、このダンジョン内を探索し、出口を開ける為に必要なドアの鍵を発見していただきます!」
「鍵一つにつき一人外に出られるよ! 鍵は人数分あるから安心して探してねぇ!」




