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32話 一押し

『さて、残る挑戦者は六名! この中から次にゴールするのは一体誰なのでしょうか!』


 森を模したスタジオ内で第二試練が始まった。


 スタジオの床一面を占める巨大なベルトコンベアは激しく回転し、上に乗る物を最後方にある奈落へと運び込んでいく。


 ゲームの挑戦者達は目の前にある豪華な扉を目指し、ベルトコンベアの上を全力で駆け抜ける。


「はぁ……はぁ……!」

「くそっ……! 前に進める気がしねぇ……!」


 第二試練を受ける違反者達は、必死な形相でひたすら走り続けている。

 ただでさえ速度の速いベルトコンベアに加え、時折流れてくる障害物にだいぶ苦しめられている様子だ。


「天井の枝も利用できます! 頑張ってくださーいっ!」


 一足先に第二試練をクリアし安全地帯に陣取るのは、見た目ゆるふわな治療特化魔法使い女性。

 彼女は仲間達を大声で鼓舞しながら、天井に垂れ下がる枝を指差す。


 動き続けるベルトコンベアの床とは違い、天井の枝は停止したままだ。

 運動神経に自信のある人間なら、天井にぶら下がる枝葉のセットを伝ってゴールまで到達できるだろう。


「天井の枝って……! 届くわけ……ないっ……!」


 しかし、運動神経もなく身軽でもない人間では天井にぶら下がることすらままならないだろう。


「くっ……そらっ!」


 機会をずっと伺っていた弓使いは、目の前に流れてきた障害物に飛び乗り、そこから天井の枝に飛び移った。


「はぁ……はぁ……よしっ!」


 弓使いも息を切らしながらも何とか枝から枝へと移動し、ゴールへと到達。


「よしっ!」


 剣士のフォレスは全速力でベルトコンベアの上を駆け抜け、障害物や障害物を排出する段差を飛び越えて強引にゴールへと到達した。


『挑戦者達は次々とゴールに到達していきます! さて残るはあと四名! 果たして全員無事にゴールできるのでしょうか!』


「……上ルートは流石に無理そうだな……」

「でも、私達なら直進でゴールまで辿り着ける。けれど……」


 アッシュとミリアは前方の道を見つめ、後方にいる魔法使い二人組に視線を向けた。


 一人は古風な魔法使い男性、もう一人は生意気そうな雰囲気の攻撃特化魔法使い女性。

 男性はまだ平気そうだが、女性は体力が限界に近付いているのか非常に息苦しそうだ。


「……ここは何としてでも、私達が道を開くしかないようね」

「分かった。ライ、グレイ、聞いてくれ」


 アッシュは後方に向かって声を掛ける。


「俺とミリアがなるべく障害物を排除しながら先に進む。二人は俺達の後を進むんだ。俺が合図を取るから、合図をしたらとにかく全力で走ってくれ」

「貴方達の持つ杖に魔力は残ってる? それを身体強化に回せば、この場面は何とかなるはず」

「わっ、分かった……!」

「……尽力する」


 アッシュとミリアの言葉に魔法使い二人は杖を手に頷いた。


「では……行くぞっ!」


 やがて意を決したアッシュは、掛け声と共に前へと駆け出した。


 少し遅れてミリアもベルトコンベアの道を進む。

 二人は手にした剣で、ベルトコンベアに流れてくる枝や岩を他所に転がしながら先へと進んでいく。


「ひいっ……! ひいっ……!」


 魔法使い男性と攻撃特化魔法使いは最後の気力を振り絞り、アッシュとミリアが作り出した障害物の薄い道を追いかけていく。


「ひっ……! ひぃ……!」


「二人とも頑張れ!」

「あと少しだ!」


 アッシュとミリアのおかげで道はマシになった。道を全力で駆け抜け、もう少しでゴールに到達する。


「ライさん! 杖の魔力を使ってください!」

「……っ!」


 治療特化魔法使いのレフは、杖の魔力を攻撃特化魔法使いのライに飛ばす。

 ライは受け取った魔力と自身の持つ杖の魔力を身体強化の魔法に回し、更に加速していく。残り僅かの距離を驚異的な身体能力で駆け抜ける。


「もう少しだ!」

「頑張って!」


 何とかゴールに到着したアッシュとミリアは、必死に駆けてくる魔法使いライに手を伸ばす。ライも手を伸ばすが……


「ああっ!?」


『あーっと! 魔法使いの魔力がゴール寸前で切れたっ! ゴールまでギリギリ届かないっ!』


 アッシュとミリアの手を取る寸前でまさかの魔力切れ。ライの伸ばした手は虚しく空を切った。


 


「諦めるな」


 限界寸前のライの身体に僅かな魔力が届いた。ライは慌てて後方を確認すると、そこには杖を構えた魔法使いグレイの姿があった。


「……!」


「今だ! 走れ!」


「ゔぅ……ゔあああっ!」


 グレイに発破をかけられ、ライは苦しそうな雄叫びを上げながら僅かな体力で全力疾走。


 伸ばした手はミリアの手をしっかり掴み、ライはついにゴールへと辿り着いた。


「はぁ……はぁ……!」


「グレイ!」


 ライは必死に息を整えるが、アッシュの声に思わず後方を振り返る。


「えっ……!?」


「何してんだ! 走れっ!」


 先程まで全力疾走していたグレイは足を止め、その場に佇んでいた。

 ベルトコンベアは容赦なく回転し、グレイを後方へと流していく。


「グレイ何してんだ!」

「グレイさん流されてますっ!」

「早く……こっちに……!」


「…………辿り着く先は全て同じ」


「なっ、何言ってんだよ……!」


 動く廊下の上に佇んでいた魔法使いグレイは一言だけ呟くと、突然、その場から飛び上がった。



 グレイが飛び退いた先は無限に広がる奈落。



「……!」


「グレイッ!」


 グレイは何の抵抗もなく飛んでいき、奈落に向かって落下していった。


「そんな……!」


『なんと! 最後の一名は自ら落下! 奈落の底へと一直線!』


 ベルトコンベアは音を立てて停止し、スタジオにMCの実況が響き渡る。


『これにより第二試練は終了となります! このステージでは挑戦者一名が脱落し、残り挑戦者の数は六名となりました!』

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