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29話 的を狙うなら正確に

『これで残る的の数は三十九、この試練では確実に一人は失格となってしまいます!』


「!?」


 的は破壊しなければポイントとして加算されない上に、割れた的は的としての効果を失ってしまう。

 つまり全員無事に第一試練を突破するには、的の中心を確実にど真ん中で仕留めなければならないわけだ。


 だが的はダンジョンサイズの施設内にランダムで配置されているので何処にあるかは分からない。このゲームでは、挑戦者の探索力と武器の命中率か肝となってくるのだ。


「くそっ! どうやら悪魔は、俺達の仲をとことん険悪にしたいらしい……」

「…………」


 アッシュは憎らしげに呟く。そんな中、弓使いのエレキは静かに顔を下げる。少し様子がおかしいようだ。


「エレキ、大丈夫か……」


「うゎあああああ!!」


「あっ!?」

「ちょっと!?」


 アッシュが声を掛けたその瞬間、弓使いエレキは突然悲鳴を上げ、その場から駆け出した。


「待て!」

「うわあっ!?」


 だが、完全に離れる前にアッシュが弓使いの腕を掴んで強引に停止させた。


「ちょっとエレキ! まさかアンタ抜け駆けするつもりじゃないでしょうね!?」

「するに決まってんだろ!? 的の数は有限で、しかも一人がヘマして的の数を一つ減らしたんだ!!」


 攻撃特化魔法使いは強気に咎めるが、弓使いエレキは大声で反論する。その言葉を聞いた治療師は気まずそうに顔を歪める。


「確実に一人脱落して、脱落した奴は二度と魔力は戻らない! 貴族様なら魔力無くても隠居するなりして何とか生きてけるだろうがなぁ! 一般庶民の俺が魔力無くしたらもう詰みなんだよ!」

「…………」

「ただでさえ魔力無しは差別されるんだ! 家族からも仲間からも絶縁されて……! 俺に一人寂しく野垂れ死ねってのかよ!」


 弓使いの心からの叫びに、その場にいる殆どの仲間は口を閉ざした。


 因みに、魔力は完全に奪うつもりは無いので、多少の魔力で最低限普通の生活は送れるだろうとルートは発言していた。

 そもそもルートは人間憎しという訳では無いので、罰を受け魔力を失った冒険者にはある程度のアフターケアを施す予定だそうだ。


 魔力が少なくても暮らしやすい土地に移したり、次の職場を斡旋したりと、ゲームで弄んだ分ある程度の面倒は見るとのこと。



「俺は絶対に脱落したくねぇ!!」

「それでもせめて一旦落ち着け! 的を撃ち損じたら合格できる人数が減るんだぞ!」


 だが、そんなアフターケアなぞ知らぬ存ぜぬの違反者達は少し荒れ始めている様子。


「早い者勝ちだとしても、せめて一旦落ち着いて。この場にいる全員が合格できなくなってもいいの?」

「ミリアの言う通りよ! それと、もしこれ以上暴れて仲間に迷惑かけるつもりなら、使い物にならなくなったアンタをこの場でふん縛って脱落者の一人にするわよ! それでもいいの!?」

「……! わ、分かった……! 一旦落ち着くから……! 脱落するのだけは……!」


 攻撃特化魔法使いの言葉で我に返った弓使いエレキは、顔を青くして身動きを止め、何度も頷いた。


「よし、とりあえず二組に分かれて的の探索だ。時間制限もあるようだから、こうなったら早い者勝ちで動くことにしよう。だがユース」


 アッシュは治療師ユースに身体を向ける。


「的を一枚破壊し損じた責任は取ってもらう。今回の脱落候補はユース、お前だ」

「…………」

「とにかく一人でも多くの仲間が合格できるよう、的の破壊をやめて大人しくしてほしい」


 アッシュの言葉に、治療師ユースは口を閉ざす。


「……心配するなユース。脱落候補に選んでしまった俺が責任を取り、ユースが表で生活できるようある程度の手助けをする。それでいいな?」

「わ、分かった……的を割れなかった僕にも責任があるし、それでいいよ……」

「それと皆んな、もし的を正確に破壊できず二枚以上割ってしまったら、より多くの的を割ってしまった者を次の脱落者候補とする。それでいいな?」


 アッシュの取り決めに、この場にいる冒険者は無言のまま頷いた。どうやら荒れかけた現場を上手く収めることが出来たようだ。


「では組む相手を少し変え、即座に探索を開始しよう」


 アッシュと弓使いと男性治療師、剣士と攻撃特化魔法使い女性と男性魔法使い、ミリアと治療特化魔法使い女性で計三つのグループとなり、三手に分かれてついにダンジョン内の探索を開始した。


「それっ!」

「やあっ!」


 治療師以外の挑戦者達は次々に的を発見し、的の中心を狙い完璧に破壊していく。流石はそこそこベテランの冒険者だ。


『どうやら挑戦者は一人を見捨てる選択をとったようです! これにより的の発見は容易になり、時間短縮にもなるでしょう! 実に賢い選択、流石は冒険者!』


 時折流れる実況に挑戦者達は少し顔を顰めながらも、ついに治療師以外の七名は五点を獲得したのだった。

 ここまで探索力も技術もあるなら、何も無ければ全員で無事にクリアできたことだろう。




「悪い、ユース……」

「いや、的をしっかり狙えなかった僕のせいだから……文句は言えないよ」


 しばらくして、挑戦者八名は制限時間内に出入り口に集まった。弓使いが後悔の念を出す中、治療師は諦めたように首を横に振っている。


「じゃあ、外に出るぞ」

「時間制限もあるものね」


 合格者七名は輝く出口から外へと出た。出た先は森の中を模したスタジオで、木の作り物があちこちに配置されていた。


「……やっぱ出られないか」


 治療師は木造りの出口に向かって手を伸ばすが、透明な壁に阻まれた。


「ユース……」

「皆んな、僕の分まで頑張って。一人でも多く生き残ってよ、じゃないと僕が許さないからね」

「……ああ、分かった」

「……みんな、じゃあね」


 治療師は外に出た仲間達に向かって寂しそうに手を振る。


(なんかいい人っぽく振る舞ってるけど、あの人も魂を容赦なく消費してたからなぁ……)


 彼も罪のない天使、悪魔、死神を嬉々として討伐した違反者だ。


『終了ー!』


 やがて何処からともなくMCの声が響き辺る。ゲーム終了の合図だ。


『五ポイント獲得者が全員脱出したところで第一試練は終了となります! 皆様、お疲れ様でした!』


 MCが労いの言葉を述べたところで、ダンジョンの出入り口付近の床が競り上がり、通路は完全に閉じてしまった。


「ユース!」


 入り口は跡形もなく消え、治療師の姿は完全に見えなくなってしまった。


「お疲れ様でした〜!」

「皆んな、すっごく頑張ってたねぇ! お見事だよぉ!」


 ここで再び私とマルは挑戦者達の前に姿を現した。作り物の木に付けられた高台から挑戦者に元気よく手を振る。


「悪魔共……!」

「はいはい、とりあえず皆んな静かにねぇ〜」

「バランさんのアナウンスが入ります! 皆さんお静かにお願いします!」


 この場にいる挑戦者達は全員何か言いたそうにしていたが、マルと私が言葉で制して止めた。

 私達の発言により皆が押し黙ったところで、森を模したスタジオ内にMCの音声が響き渡った。


『第一試練の結果を発表します! 合格者は七名! そして残った治療師ユースさんは、残念ながらここで敗退となります!』

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