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27話 おいでませい! 冒険者テストセンター

「うぅ……」


 床の上にうつ伏せで倒れていた冒険者のアッシュは、突如謎の光源に照らされ、呻き声を上げながら目を覚ました。


「ここは……うっ、身体が重い……」


 全身がやけに重い。それでもアッシュは両腕を使い、何とか上半身を起こして辺りを見回した。


 天上から眩い光が降り注ぐ。しかし見えるのは降り注ぐ光の範囲内のみ。辺り一面はどこを見ても暗闇で覆われていた。


「力が出ない……魔法の気配も感じない……まさか、体内の魔力が枯れてるのか……?」


 アッシュはなんとか立ち上がり全身を見つめる。気絶する前までは魔神装備を着ていたのだが、今はただの布製の衣類を身につけているだけだった。

 真っ赤で派手なアッシュの衣装は、どこか勇者を彷彿とさせる。


「まさか装備まで盗られているとは……」


 アッシュが何とか立ち上がると、目の前に一筋の光が刺した。さながら真っ白な道のように伸びる光の先には、床に突き刺さる一本の剣。


「…………」


 何者かに導かれている。アッシュは頭でそう確信を持つものの、身体は何故か剣の方へ歩みを進めていく。



 あの剣を拾い上げなければならない気がする。



 漠然と頭に浮かんだ思考は、アッシュを剣の方へと誘った。


 光の道をゆっくりと歩き、ついに剣の前に立ったアッシュは、地面に突き刺さる剣の柄を片手で握りしめて上へと持ち上げた。


「これは……普通のロングソードか……」


 アッシュが剣をまじまじと見つめて調べていると、「カン!」とスイッチの入るような音がして真上からスポットライトのような光が差し込んだ。


「あっ!」


 アッシュの両隣に差し込んだ光は、アッシュの仲間を照らし出した。

 右側には弓使い、剣士、魔法使い、そして……


「ミリアッ!」


 左側にはミリアと仲間の魔法使い二名も、スポットライトの下に立っていた。

 アッシュ以外の仲間も、アッシュ同様にそれぞれの得意武器を握っていた。弓使いは弓、アッシュとミリアと剣士は剣、魔法使い達は杖。


「アッシュ……!」

「大丈夫かミリアッ!」

 

 アッシュとミリアはお互いの方へと駆け寄るが、二人の間に頑丈なガラスの壁があり辿り着くことは叶わなかった。

 

「くそっ! 何なんだこの空間は……!」

「どうやら四方を壁で囲まれてるようだな……」

「さっきまで歩いていた道が塞がってる! いつの間に……!?」


 アッシュは目の前にある頑丈なガラスに向かって剣を振り下ろすが、ガラスに傷一つ付かない。


「はあっ!」

「ふんっ!」


 ミリアや剣士もガラスに攻撃を入れるが、分厚いガラスはビクともしない。


「駄目だ……今の私達の力ではどうすることもできない……」

「我々に一体何をするつもりだ……?」


 剣士が天を見つめながら一言呟いたその瞬間、前方に一際大きなスポットライトの光が降り注いだ。

 冒険者達は一斉に前方を見つめる。視線の先には、実に愉快そうに微笑む二人の人影が。


「皆んな〜こんにちは〜!」

「元気ぃ〜?」


 一人はどこかの制服を身につけた女性、もう一人は派手なピエロの衣装を着た元気な男性。

 二人の頭にはツノが生えており、素人でも見た目でなんとなく悪魔だと判断できるだろう。


(まあ、冒険者は私と面識あるからすぐ分かるだろうけども……)


「あっ! あいつは……!」

「我々の前に現れた騒々しい悪魔!」


 その通り。制服を身につけた女性悪魔はこの私、ジギタリスである。


「皆さん! 改めましてこんにちは!」


 私は改めて、目の前にいる冒険者達に向けて丁寧な挨拶を投げかけた。


「私は冒険者テストセンターに勤務している、案内係のジギタリスです! そして隣にいるのは……」


「冒険者テストセンターのマスコット、マルマだよ〜!」


「「皆んな! 冒険者テストセンターへようこそ〜!」」


「「「「「「「「…………」」」」」」」」


 私とマルは満面の笑顔で違反者達に挨拶を投げかけるが、違反者達から返事が来る気配は一切ない。

 目の前の違反者達は私達を悪魔だと理解しているようだが、力も装備も無いまま悪魔に立ち向かうような無謀な真似はしないようだ。


「さて……改めて此処、冒険者テストセンターについてご紹介しましょう!」


 相手から返事は来ないが、それでも私は冒険者に向けてアナウンスを続ける。


「この施設では、現世を生きながら非常に重い罪を背負ってしまった、いわゆる札付ふだつきの違反冒険者達を集め、更生させる……それがこの冒険者テストセンターのお仕事でございます!」


「つまり此処はねっ! 現世でとんでもない失態……つまり、悪さをしてしまった違反者達を、ゲームを通して真人間に戻す為の建物なんだよっ!」


「失態だと……?」


 私とマルの言葉に冒険者が反応する。


「まるで私達を犯罪者のように扱うのね」

「我々は犯罪に手を染めた覚えはない!」

「そうよ! そもそも、悪魔の一方的な考えで決めつけた善悪なんか参考にならないわよ!」

「悪意の塊のような魔物に言われたってねぇ〜」


 ミリアを筆頭に、魔法使い達は次々と文句を垂れ流していく。


「誠に残念ですが、何もしていない天使や悪魔を討伐したり、人間の魂を無断で持ち去るような人は、この星のあの世では重罪とされるんですよ」

「あの世だぁ?」

「魔神共の巣窟を仰々しく言い換えただけに過ぎない……」

「人間の上位互換ぶるのやめてもらえる?」


 私の極力丁寧な解説にも、冒険者の違反者達は噛みついてくる。


「皆んなに反省の意思は無いみたいだね! じゃあ、冒険者テストセンターで改めて試験し直さなくっちゃ!」


「改めて試験、だと……?」


「うん! 試験と言う名のゲームをして、君達が冒険者としてふさわしいか再確認するんだ!」


 マルは満面の笑みを浮かべ、楽しそうに説明をする。


「君達が僕らの出すゲームをクリアすれば、それに応じて罰が軽くなっていくよ!」


 ゲームも罰の一つに入っているので、多くこなせばこなすほど罰も軽くなっていく。

 ……しかし、彼らの犯した罪はかなり重いので、たかがゲーム程度ではそこまで罰は軽くならないだろう。


「ゲームを最後までクリアした人には魔力を全部元に戻して、更にご褒美もあげちゃう!」


「最後までって……おい! それってまさか……!」


「最後までゲームをこなさなければ、俺達に魔力は戻らないってことか!?」


「その通り! 君達は頭はいいみたいだねぇ、話が早くて助かるよ! ゲームで脱落した人は永遠に魔力剥奪した上で、問答無用で罰を与えるよ! 覚悟してね!」


「何を勝手なこと言ってんだ!? そんなゲーム、俺はやらねぇからな!」


「拒否権は無いよ弓使いくん! と、言うわけで……一つ目のゲームいっくよー!」


 マルが声高らかに宣言したその瞬間、暗闇で覆われていた周囲が一斉にライトアップされた。


 冒険者の視界に入ったのは、木造建ての広々とした室内。辺りには射撃用のカラフルな的が散らばっている。


「第一の試験! その名も『狙って! ターゲットクラッシャー!』」


「これから皆様には、手にした武器でこの建物内に散らばる的を破壊していただきます!」


 私はその辺に置かれていた的を手に取り言葉を続ける。


「的は真ん中を攻撃すれば破壊されます。的一つ破壊で一ポイントとなり、一人計5ポイント獲得すれば第一試練は合格となりまーす!」


「……たったそれだけか?」


 的を割りながら簡単な説明をした私に、大柄な剣士が反応した。

 あまりにも簡単過ぎるゲームを出されて馬鹿にされたと思ったのか、彼の顔には怒りが滲み出ている。


 それを見たマルは僅かに目を細めた。


「……そうだよ! あの剣士さんの言う通りだよジギちゃん!」


「えっ?」


「皆んなはベテランの冒険者だよ!? 例え一つ目のゲームだとしても、こんな簡単なものじゃ冒険者の皆んなに失礼だよ!」


「……あっ! そうだね! 私ったらなんて失礼なことを……!」


 この流れは台本には無かったが、マルの目的を何となく察知した私はとりあえず話を合わせる。


「では剣士さんのご要望にお答えして! 第一試練のゲーム難易度を上げたいと思います!」


「「「「「「「「!?」」」」」」」」


 本当は別の理由でゲームの難易度を上げる予定だったが、会話に剣士を挟むことで剣士にヘイトが向く構図となった。


 今回はとりあえず悪魔向けの番組にする予定とのこと。私達は説明がてら、違反者達の諍いの原因を作る方針で立ち回る予定だ。


「ではとりあえず、もっと広い施設をご用意しましょう! 制限時間を追加し、広さはダンジョンサイズ、そして的の数は四十! 果てしなく広がる施設内をくまなく探して、的を五つ破壊して出口に出ればゲームクリアです!」

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