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26話 おいで魔星計画

 鬱蒼と茂った森の出入り口にて。


「よいしょっと。これで最後かな?」

「ジギちゃん、この人間達はもっと優しく扱ってあげてね」

「これくらい平気平気」


 巨城へとやって来た違反者をサクッと捕獲した私達は、鎖が巻きついた矢だらけの冒険者をすぐさま荷車に乗せた。


「平気なわけないでしょジギちゃん。それに、これからゲームさせるのにこんな矢だらけにしちゃってさぁ」

「後でルートが綺麗にしてくれるって」

「うーん……まぁ、ルートくんなら瀕死の相手も何とかしてくれるかもしれないけどもねぇ……」


 私達は無駄話を交えつつ、冒険者を荷車にしっかり固定した。


「よし! 後は荷台を街まで運ぶだけ!」

「空に飛ばして安全に運ぼうねぇ!」

「……マル、もっといい運搬方法があったんじゃないの?」

「でも、下手に強い魔法を使って冒険者に負担が掛かったら嫌でしょ」

「人間はそこまでヤワじゃないと思うんだけど……」

「今回はゲームの為に人を捕まえるんだから、これくらい過保護にしなくっちゃ!」


 そう言いながらマルは、荷台に魔法をかけて宙に浮ばせる。私とマルで一緒に荷台を持ち上げて空を飛ぶと、荷台は簡単に空中に浮かんだ。


「さて、いよいよ出発……」

「ねえジギちゃん」

「マル、なーに?」

「さっきここに来る前にルートくんが、「大荷物を運ぶならデコトラ寄越しますよ」って言ってくれたんだけど……デコトラって何?」

「この世界には一生縁の無い代物かな……」


 ファンタジーの世界観を根底から破壊しかねない代物を用意しようとするな。


「さて、とりあえず飛ぶとしますか」

「出発ぅ〜!」


 私達は前方に見える街に向かって飛行を開始した。


「あっ、そう言えば……ジギちゃん、さっきルートくんが言ってた「テレビ」って何?」

「えっ」


 移動中。マルは唐突に思い出したのか、テレビについて尋ねてきた。


「えーっと……テレビっていう道具があって、人が景色や名物を紹介したり、人が喋ったりする様子を見れるお高い機械かな……」


「わざわざ他人の姿を見る為だけにそんな機械を買うの? 物好きだねぇ」


 どうやらテレビの面白さをマルに上手く伝えられなかったようだ。


「さて、どこが撮影スタジオかな……」

「ジギちゃん、街を歩いてるゴーレムがみんな同じ方角に向かってくよ」

「ホントだ。もしかしたらみんな、撮影スタジオに行くのかも……とりあえずゴーレム達の後を追ってみよっか」

「うん!」


 飛行して街の上空に移動した私達は、ゴーレムが集まっていく方角に向かって速やかに移動を始めた。


「それにしても綺麗な街だねぇ。この街なら住んでみたいかも」

「折角ならマルも此処に住んでみたら? ルートに相談すれば、いい家の一つや二つくらいタダでくれると思うよ」

「流石に二つは要らないかなぁ。維持する手間もあるし、持て余しそうだし……あっ! もしかしてあれが撮影スタジオじゃない!?」


 マルが指を刺した先には、実に豪華なお屋敷が建っていた。ゴーレム工場の出入り口のお屋敷とはまた違う、芸術的でファンタジーな建物だ。


「ゴーレムは皆んなあの建物に集まってるみたい!」


「ホントだ。それにしても綺麗な屋敷だね。芸術的で素敵な建築ぶ……つ……」


「建物の前にすっごくカラフルな箱が設置されてるね!」


 私達の視線の先、とても素敵なお屋敷の雰囲気をぶち壊す『カラフルな電球が並び派手な絵のついた大型トラック』が、魔法で溢れている美しい大庭園に幾つも並んでいた。


「ねえジギちゃん! あの箱なあに?」

「…………この世界には一生縁の無い代物かな」




 私達は荷台を連れて豪勢なお屋敷に近付いた。噴き出した水が不思議な動きを見せる噴水が設置された大庭園では、大小様々なゴーレムが忙しなく動き回っている。


「!」


 私達に気がついたゴーレム達が、私達を手で誘導して広めの土地に着地させてくれた。

 頭にカメラを付けたスマートなゴーレムが、荷台を運ぶ私達を率いて屋敷の前まで移動。


「ジギさん、マル様、お疲れ様です」


 屋敷の前に立ったところを見計らったかのように、屋敷からルートが現れて私達を出迎えてくれた。


「ルート、お待たせー」

「冒険者は……だいぶ傷んでますね」


 少し痛めつけたので質は悪い。


「痛みすぎかな?」

「まあ想定内です、これくらいなら大丈夫ですよ。では、お次は撮影スタジオに参りましょう。ジギさん、マル様、どうぞこちらへ」


 ルートは指を鳴らして魔法を発動させ、荷台に積まれた冒険者を荷台ごと何処かへと移動させた。


 そして私達を屋敷の中に招き入れてくれた。所々に美術品が置かれた、まるで美術館のような廊下を歩き、突き当たりにあるレトロなエレベーターに入る。


 ボタンを押して機械を作動させると、私達を乗せたエレベーターは格子状の扉を閉じて下へと降下し始めた。

 


「さてと……貴方達に改めて、この星の評価について簡単にご説明しましょう」

「星の評価?」


 静かに降下していくエレベーターの中、ルートは星に関する説明を始めた。


「魂から見た星の評価です。今現在、この星の評価はどん底です」

「そりゃそうでしょ。この星に来たら魂はほぼ確実に消滅するんだから」


 主に人間が、魔神装備の維持に魂を消費しているのが現状だ。

 ルートがダンジョンから採取したマナ宝石お陰で現世における魂の治安は多少は改善されたものの、それでも魂にとって恐ろしい環境であることには変わりはない。


「通常、魔法の源となるマナで溢れる星は魔星と呼ばれ、強い魂は更なる進化を求めて魔星へと旅立つそうです」

「ああ、前になんか言ってたね。この世界の魂はマナや精霊とかに生まれ変わって、自然界を支えるとか……」

「その通り。我々が現在住まうこの星も魔星であり、本来なら魂が多く集まる筈ですが……」

「まあ、こんな世界じゃまず集まらないよね」


 精霊や妖精は世界を回す為に必要不可欠な要素。しかし、無駄に魂を浪費する人間のせいで魂は星に寄り付かず、星は枯れていく一方なのだろう。


「マナ宝石のお陰で、ほぼ確実に魂を保護できるようになりました。しかし、悪評の影響で相変わらず魂はこの星に寄り付きません。このままではこの星に未来はありません」


 ルートは相変わらずの無表情のまま、現状を淡々と説明する。


「魂を呼び寄せる為には、魂が寄り付きやすい安全な環境を作るのが一番。まずはじめに、魂の安全を確保する為に魔神……つまり、悪魔、天使、死神を他所の星から呼び寄せます」

「外から来てくれるかなぁ……マナ宝石のお陰で討伐されにくくなったとは言っても、この星って魔神から見ても危険地帯だよね。評判も最悪でしょ」

「それをこれから何とかします」


 ルートは外から魔神を呼び寄せる考えがあるようだ。


「それ以前に、悪魔を呼び過ぎても無法地帯になるだけだと思うんだけど……」

「そこはご安心を。変な悪魔の侵入は私が許しません」

「……まあ、ルートがそう言うなら大丈夫かな」


 私はルートから目を離し、格子状の扉の向こう側に見える真っ暗な世界を見つめる。

 それにしてもこのエレベーター、なかなか目的地に到着しない。


「違反者を適切に罰する姿勢を見せ、魔神を呼び寄せて治安を改善し、星を保護する……それらを達成できるのはもはや、バラエティ番組しかないと私は考えました」

「他もっとにいい案あったよ」


 一連の話は軽く受け流すつもりだったが、私は思わずルートに視線を向けて指摘を入れてしまった。

 星を保護する為に散々考え尽くした末に辿り着いた先がバラエティ番組とは。


(……まあ、ルートのことだから既に先手を打った上でオマケとしてバラエティ番組を作るんだろうな)


「悪魔が違反者をデスゲームの要領で罰する様を発信すれば、悪魔はこの星に訪れやすくなるでしょう」

「それで魔神が集まれば、魔神によって魂の安全はよりもっと守られることになり、魂はこの星に来やすくなるんだねぇ?」

「正解です。流石はマル様、素晴らしい。正解のご褒美として、この街にある庭付き一戸建てを差し上げましょう」

「こんなさりげない会話の応答ひとつで家貰えるの!?」

「折角だし貰っちゃえば? マル、この街気に入ってたでしょ」

「そうだけども……」


 マルはまだルートの会話についていけない様子だ。


「ほら、無駄話している間にエレベーターが到着しましたよ」

「さっきの話は大事な説明だったんだよね?」

「うわぁ! 扉の向こう見てよジギちゃん! すっごいよぉ!」

「えっ?」


 格子状の扉に目を戻すと、扉の向こうの眼下にはとんでもなく広い空間が広がっているのが見えた。


「うわっ!? 何これ!?」


 巨大な撮影スタジオのセットのようなものが幾つも見える。ベルトコンベア、大きな城壁、巨大迷路などなど……見ていてワクワクするセットが目白押しだ。


「本当にバラエティ番組を始める気なんだ……!」

「当たり前です。お二人とも、とりあえずこちらをどうぞ」

「ん?」

「紙でできた本? すっごくペラペラだね」


 ルートから、そこそこ頑丈な紙で作られた簡単な本を受け取った。本の表紙には『おいでませい! 大冒険テストセンター』と記載されている。


「番組の台本です。企画の内容や番組の大まかな流れが記載されています」

「台本……! なんかいよいよ番組が始まるって感じがする!」

「へぇ〜台本あるんだ! 劇みたいなものなのかなぁ?」

「まあそんな感じです。では、お二人には番組に出ていただきますから、エレベーターが到着したら、すぐさま控室で衣装とメイクのセットをしていただきます」


 着々と番組の開始が迫ってくるような気がして、私の心に緊張が走る。


「衣装やメイクもするんだぁ! 楽しそうだなぁ……」

「番組の簡単な説明をした後、リハーサルをしてすぐさま本番に入ります」

「……ん? まさかルート、今日のうちに番組を収録するつもり?」

「そんなまさか。まあ収録が今日中だとしてもとりあえず大丈夫でしょう」

「何その曖昧な返事……」


 ルートが大丈夫でも私達は大丈夫ではない。なんてことを考えている間にエレベーターは目的地に到着。


「うわっ!?」

「ゴーレムに攫われる〜!」


 扉が開くと、私とマルはスタッフと思われるゴーレムに囲まれあっという間に担ぎ上げられ、控え室を目指した大移動が始まった。


「一旦止まって! せめて自分の脚で移動させて! なんか恥ずかしいから!」

「この子達、話を全然聞いてくれないよぉ〜!」


 そんな中、一人エレベーターから出てきたルートは、運ばれていく私達と巨大なセットを目にしながらボソリと独り言を呟いた。


「バラエティ番組を銀河に発信し、星の未来を守る計画……『おいで魔星計画』、ついに始動です」


(何そのタイトル……)

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