19話 ゴーレムセッティング
「これから皆様には、私が支給したゴーレムをダンジョン内で育成していただきます」
カラオケ店内の内装に近いダンジョン内で、ルートから何とも楽しそうな仕事の依頼をされた。
「ダンジョンでゴーレムの育成かぁ……なんかすっごく楽しそう!」
「ねえルートくん、どうやってゴーレムの操作をするの?」
「専用の部屋に個別に入っていただき、この特殊な機材でゴーレムの選択をして「決定」ボタンを押すだけ。後は手に取るように操作ができます」
ルートは近くの扉と、手元のデンモクのような機材を指差しながら説明をする。
「分からないことがあれば、近くの店員にお声がけください」
(今「店員」って言った……)
「ゴーレムの詳しい育成手順は、ゴーレム育成が始まってからお答えします。まずは、扉から個室にお入りください」
「はーい!」
ルートに促され、近くの扉に駆け寄ろうとしたその時。このカラオケ店……ゴーレム工場内に新たな気配を察知した。
(死神の気配……?)
ドリンクバーのある方角を向くと、そこには二人の死神が佇んでいるのが見えた。
一人は荒野のガンマンのような姿をした男性、もう一人は自らの背丈ほどの長さがあるウェーブ掛かった髪を持つ小さな女の子。
「ん? あの人達って……」
「彼等はこの世界に住む死神です。今回は移動用ゴーレムの育成の為に、手の空いた死神の方にも来ていただきました」
ルートは手招きをして、死神の二人を呼び寄せた。
「俺はそれなりに長いこと地獄で仕事をしているベテラン死神のブレットだ」
「私、リリ」
ウエスタンのような男ブレットと、髪が長く可愛らしい身なりをした少女のリリが素直に自己紹介をする。
死神にしては割と自我のある二人のようだ。彼等はそこそこのベテランの可能性がある。
「今回はそこそこ面倒な依頼を引き受けてくれてありがとう。魔神狩りの影響で、地獄で育成しているボーンホースの数が足りなくてな……」
「お馬さんたち、すごく大変そう」
ブレットはそれなりに年を重ねているのか大人な受け答えをする。一方リリは、まだ自我が芽生えたばかりなのか幼い面が目立つ。
「彼等には既に、ゴーレム育成についての大まかな説明は伝達済みです」
「本当はもっと人数連れて来る予定だったんだが……そういった複雑な操作ができて、手の空いていた死神は俺達くらいしかいなくてな」
「よろしゅううに」
(うに……?)
リリの挨拶に私が困惑していると、リリは無表情のまま眉間に皺を寄せた。
「……おかしい、この挨拶は地球生まれの悪魔にオオウケするってルートが言ったのに」
「ルート……」
どうやらあの妙な挨拶はルートの入れ知恵だったようだ。
「まあまあ、お気になさらず……」
「ルートがそれ言う?」
何はともあれ、無表情のリリはああ見えて友好的であることが何となく分かった。
「まず初めに、死神のお二人に部屋の説明をします。こちらの部屋にお入りください」
「分かった」
「失礼」
死神二人はルートに促されて部屋の一室に入る。
「さて、私達も部屋に入るとしますか」
「そうだね!」
私とマルもゴーレム育成の準備をする為に、別々の部屋に入った。
個室に入ると、大画面のモニターと大きなテーブル、そしてデンモクに似た機材が視界に入る。完全にカラオケボックスだ。
「こんにちは!」
「えっ?」
声を掛けられ、私は声のした足元に目をやる。そこには、店員のような服装を身につけた可愛らしい鉄製ゴーレムの姿があった。
「僕は説明係のゴーレムでございます! お部屋の使用方法や、育てたいゴーレムに関するアドバイスなどなど、様々なサポートでジギタリス様をお助けします!」
「へぇ……」
一部屋に一体ずつゴーレムが付いているのだろうか。何はともあれ、その場に解説係がいるのはかなり便利だ。
「ジギタリス様、本日はどのようなゴーレムを作るご予定なのかお教えください! 内容に合わせてゴーレムのセッティングも請け負います!」
「助かる〜! それじゃあ……」
私が作るゴーレムは既に決まっている。
「でっかくて物凄く強いゴーレム! どんな相手もなぎ倒せるような凶暴なやつ作りたい!」
「?」
私の案を聞いたアイアンゴーレムは全身を傾ける。困惑しているのだろうか。
「ジギタリス様、今回は乗り物に適したゴーレムを作成するご予定では?」
「……あ、そうだった」
楽しそうなイベントについテンションが上昇し、本来の目的をすっかり忘れてしまっていた。
「作成したい乗り物ゴーレムの詳細をお聞かせください」
「じゃあ……強くて大きいやつ! 荷物や魂を沢山運べて、それでいて誰にも負けないくらい強い機能を備えたやつ! ゴツい車みたいなやつね!」
「なるほど!」
私の次の案を聞いたアイアンゴーレムは楽しそうに頷いた。
「それならば、最初に選ぶゴーレムは僕のような鉄製にしましょう!」
アイアンゴーレムは機材を操作してゴーレムのセッティングを開始する。
「頑丈ですし、パワフルで大量の荷物も運べて、上手く立ち回れば車みたいな機能も追加できます!」
「いいね!」
前方のモニターに、アイアンゴーレムがセッティングしたゴーレムが映し出された。大き目で金属の光沢のある重そうなゴーレムで、両手両足はとても大きい。
「このゴーレムは頑丈で攻撃もパワフルです。しかし、どのゴーレムよりも動きが鈍いので、立ち回りには注意が必要です」
「足の速い相手には気をつけないといけないってことだね、分かった!」
例え相手から攻撃を畳み掛けられても、頑丈なボディで耐えられる。
一方、このパワフルなゴーレムなら、相手に一撃でも攻撃を与えられればそれで十分だ。
「ねえ、ゴーレムを育てる上で気をつけることはある? どんな相手を倒せば速くなるとか……」
「足を速くする方法は幾つかございますが……車のようにしたいのなら、タイヤゴーレムと仲良くしましょう」
「仲良く? 倒すんじゃなくて?」
「はい!」
私はモニターからゴーレムに視線を移す。
「同じ素材のゴーレム同士なら、仲のいいゴーレムと合体して自身を強化することができます!」
「えっ? ゴーレムって合体できるの?」
「物によります! タイヤゴーレムを二体ほど仲間にできれば、メタルバイクゴーレムというとても速いゴーレムが出来上がります!」
「楽しそう!」
どうやらゴーレム育成は、ただ相手を倒すだけではないらしい。
「あと、頑張って走り回るのも効果的です。身体が速さを求め、速さに相応しい姿に変化するので!」
「へぇ〜、動き方一つでもそんな変わってくるんだね」
「はい! ……よし、準備が整いました! この後の詳しい説明はゴーレムを動かしてからにしましょう!」
「分かった!」
「ではジギタリス様、こちらのタッチパネルに表示されている『準備完了!』ボタンをタップしてください!」
「はーい!」
アイアンゴーレムに促され、私は機材にデカデカと表示されている準備完了ボタンをタッチした。
その瞬間、周囲の景色が一瞬暗くなり、目の前にサイバー感のあるコマンドが周囲に表示された。
(えっ、何これ)
やがてコマンドが収束して消え、視界が再び明るく変わる。
「あれ……いつの間に……?」
先程までカラオケボックス内にいた筈だが、いつのまにか大草原のど真ん中にポツンと佇んでいた。
「空が青い……」
視界は良好、空は快晴、周囲に広がる草花の景色。とても綺麗な景色だが、地面から生える草木がやけに大きい。
「…………ん?」
私はふと視界に映る金属質の物体に目を向ける。それは重そうな大きな手で、なんと私の身体にくっ付いていた。
「あ、あれ? これって……!?」
私は視線を落として自身の身体をよく見る。太い胴体、やたら大きな足、光沢のある身体。
マスコットのように愛嬌のありそうな金属質な身体を見て、私はようやく理解した。
「私……ゴーレムになってる!?」




