18話 地獄から乗り物調達のご依頼
「大変申し訳ございません。この世界の冥界から急遽、皆様へお仕事のご依頼が届きました」
「……えっ、仕事?」
ルートからの真面目な報告に、私は数秒遅れて反応する。
「地獄で何かあったの?」
「地獄の移動手段が不足しているとのことです。魂の迎えや、地獄での移動手段などで使用する乗り物が圧倒的に足りないので、足の速い魔物を捕獲して来てほしい……とのご依頼が来ました」
ルートは真面目な顔で話を続ける。
「この世界の死神は、移動手段としてボーンホースという骨の見える馬を使用していたそうですが……」
「魔神狩りに遭遇して、死神も馬も狩られたってことだね」
外に出る度に根こそぎ奪われる状況では、馬が不足するのも当然だ。
「魔神狩りが多発している地上で、何とかして魂の運搬をこなす為に、死神は地獄の移動手段をかき集めて使用していたそうですが……」
「でも、その移動手段もまとめて狩られたと……」
「その通りです」
この世界の地獄は、何とか仕事をこなそうと必死に頑張っていたのだろう。
「マナ宝石のお陰で何とか仕事は再開できたものの、乗り物の不足でまだまだ仕事に支障が出ているそうです」
「大変じゃん! ただでさえ従業員不足なのに……!」
地獄の運営を何とかする為にも、乗り物の確保は必要になりそうだ。
「つまり、これから乗り物になりそうな魔物を捕獲しに出かけるんだね? とりあえず、大きくて速そうなドラゴンでも狩りに行く?」
「ドラゴン……」
「そーそー。あ、ドラゴンの卵を持ち帰って孵化させるのもアリだよね!」
ドラゴンなら大量の魂を運べるだろうし、強いから魔神狩りに遭遇してもきっと平気だ。
「あの」
「ん? ルート、どうしたの?」
ルートの声に反応して振り返れば、ルートは変な物を見るような目で私を見つめていた。
「ジギさん、その提案は流石に……」
(あのルートにすごく引かれた……)
この様子から察するに、私の提案は没になりそうだ。
「ジギちゃん、ドラゴンは基本的に凶暴な性格してるから、魂の運搬とかそういった雑務には向いてないと思うよ……」
「あっ、そうなんだ……」
「集団で暮らす小さなドラゴンならまだ可能性はあるけど……そもそも、ドラゴンを育てるのはすっごく難しいからねぇ」
ドラゴンの生態から見ても、移動用の乗り物には適していないらしい。
(そういえば私、異世界に来て早々にドラゴンに食べられてたんだった……)
下手したら乗り物として連れて行ったドラゴンに地獄を荒らされる可能性もある。私の提案は穴だらけだ。
「あっ! じゃあゴーレム工場の魔物作成する装置で、ドラゴンの素材を使用した魔物を作るのは?」
「残念ですがその案も安定しません」
ルートは首を横に振る。
「例え速さのある魔物を素材に魔物を作成したとしても、仕事に適したゴーレムが生まれるとは限りません」
「あ、そっか……素材から生成するのって、どんな魔物が生まれてくるのか分からないんだったね」
今回はドラゴン狩りはお預けのようだ。残念。
「そもそもの話。既にゴーレム工場から、移動に特化したゴーレムを幾つか地獄に送りました。とりあえず我々が魔物を捕獲する必要はありません」
「あ、そうなの……」
流石はルート、仕事が早い。だが、そうなると一つ疑問が生まれてくる。
「でもさっきルートは、私達に仕事が来たって言ってたじゃん」
「乗り物確保の仕事はございます。ゴーレムを送ったといっても、それでもまだ数は足りません」
ルートは改めて私達に目を向ける。
「これからお二人には、乗り物に適したゴーレムを作成していただきます」
ルートから告げられた仕事の内容は、まさかのゴーレムの作成。
「えっ? 魔物作成……とは別の手段で作成するってこと? ゴーレムを一から手作りするの?」
「大まかに言えばそうなります。詳しい内容はゴーレム工場でご説明します。お二人とも、移動するので私の足元にお集まりください」
「足元……?」
「私達のこと虫か何かだと思ってる?」
私達はとりあえずルートのそばに近寄る。私達が集合したのを確認したルートは、速やかに瞬間移動をしてゴーレム工場の内部へと移動した。
「……あれ? 見たことない場所だ」
「なんかスッキリしてるねぇ」
前に来た時とは異なる内装だ。機械だらけのごちゃついた空間はどこにもなく、現代の地球に通ずるスッキリとした空間だ。と、言うより……
「カラオケ屋じゃん!!」
受付と長く続く廊下、幾つも並ぶ扉、そして手前にはドリンクバーとソフトクリームを作る装置。これは完全にカラオケ店内だ。
「まだ仮設置途中なので、内装は適当です」
「絶対に嘘でしょ」
狙って作成しなければ、こんなカラオケ店のような内装にはならない筈だ。
「ジギちゃん、カラオケ店って何?」
「えーっと……誰でも歌を歌えるお店、かな?」
「素人がわざわざお金を出して歌を歌いに行くの? それ需要ある?」
私の説明が下手なばかりに、マルにカラオケの良さを伝えられなかったようだ。
「そろそろ本題に入ります」
「あ、はい」
いよいよルートから仕事内容が伝えられる。お互いに向き合い、ルートの次の言葉を待つ。
「これからお二人にしていただくのは「異世界転生」です」
「……えっ?」
「転生してゴーレムになっていただきます」
異世界転移したばかりなのに、今度は異世界転生を提案されてしまった。
「ルート、それってどういう……」
「転生したらゴーレムでした」
ルートは全然話を聞いてくれない。
「まあ、厳密に言えば転生ではございません。とりあえず簡単にご説明します」
(出来れば最初から簡単に解説して欲しかったんだけど……)
私の質問に、ルートは改めて説明を始めた。
「これから皆様には、ゴーレムを操作してレベル上げをしていただきます」
「ゴーレムの操作? ゲームみたいにコントローラーでゴーレムを操作するの?」
「ゲームよりもメタバースが近いかもしれません」
「メタバース……」
ルートは説明を続けながら扉の前に立つ。
「ゴーレム視点で操作してダンジョンを探索し、ゴーレムを育成して進化させていくのです」
「ゴーレムを育成して進化させる……?」
「待ってよルートくん!」
ルートの説明にマルが待ったをかける。
「まさかとは思うけど……今からゴーレムを一から育てるつもり!?」
「その通りです。先程からご説明している通りです」
「嘘でしょ!?」
「ルートってば正気!? 魔物を一から育てたら時間が掛かりすぎるって、この世界生まれじゃない私でも何となく分かるよ!」
育成は手間が掛かりそうな上に、目当ての乗り物タイプの魔物に確実に進化させられるとは思えない。
「大丈夫です。育成におあつらえ向きなゴーレムがございます」
ルートは上着のポケットを探り、中から一体のゴーレムらしき魔物を取り出した。
ゴーレムは私達に全身を向けて両手を振った。
「小さっ! それってゴーレム?」
「こちらのゴーレムは特別性です。なんと、環境や食べ物などの様々な外的要因より簡単に姿が変化する特殊なゴーレムなのです」
「へぇ〜!」
「とても育ちやすい上にすぐに進化できるので、育成はとても簡単だと思います」
ルートは手に持つゴーレムを私達の前に差し出しながら話を続ける。
「最初に操作するゴーレムは材質や大きさなどをある程度選べます。鉄製の大きなゴーレム、粘土質なゴーレム、個性的なゴーレムを育成できます」
「ゴーレム選べるの!? なんか楽しそう……」
「ルートくん、ゴーレムはどこで育成するの?」
「ゴーレムを育成する場所は、このゴーレム工場内にある大型ダンジョンで行います」
ルートはゴーレムを肩の上に乗せ、その辺に置かれていたデンモクのような機器を操作する。
すると、天井からモニターが降りてきて私達よりやや上で停止した。この場所だけわざわざモニターが降りてくる仕組みなのだろうか。
「モニターをご覧ください。こちらが、ゴーレム育成でお世話になるダンジョンです」
モニターに電源が入り、画面に広大な景色が映し出された。
「草木が生い茂るフィールドから広大な海、鉱山や樹海、果てには街まで存在するゴーレムダンジョンです。ここでは、様々な種類のゴーレムが生息しています」
モニターには、草原をうろつく小さなゴーレムが映し出されている。土製の基本的そうなゴーレムから、草花が生えたゴーレム、中には大きな木と一体化したゴーレムまでいる。
「なんかすごい場所だね……」
「野生のゴーレムと戦い、進化してどんどん強くするのです。因みに、このダンジョン内のゴーレムは倒しても復活するのでご安心を」
モニターの景色はどんどん変わる。海辺には、砂浜を歩く特殊な材質のゴーレムから、海を泳ぐ魚型ゴーレム。
鉱山地帯にはゴツい鉄製ゴーレムが転がっている。鉱石の生えた綺麗な洞窟には宝石のようなゴーレムの群れも確認できた。
「かっわいい〜! すっごく楽しそうな場所だねぇ!」
「こんな探索しがいのある土地ですぐに育つゴーレムを育てるなんて……! 絶対に面白いでしょ!」
「マル様もジギさんも気に入ったご様子で」
こんな異世界でファンタジーで、冒険の予感がするものを見せられたらワクワクしないわけがない。
「と、いうわけで……これから皆様には、私が支給したゴーレムをダンジョン内で育成していただきます」




