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17話 豪華客船の上にて

 真夜中。穏やかな海の上を、豪華な客船が優雅に漂っている。船内には灯りが灯り、時折歓声も聞こえてくる。


 そんな美しい船の上空を、白い翼で作られたグライダーのような道具で飛ぶ二名の冒険者が現れた。


 船に似つかわしくないおぞましい武器を持つ二名の冒険者は、道具を上手く操縦し、船の広々としたデッキに静かに着陸した。


「何なんだこの船……こんな造り、見たことねえぞ……」


 一人は華奢な体躯をした荒々しい男。船の造りに驚いている様子で、辺りをキョロキョロ見渡して、辺りに置かれているビーチチェアや丸テーブルを見つめている。


「なんか海棲生物の気配も一切しねぇ……すっげぇ不気味だぜ」

「静かに。此処には悪魔が三体居るんだ、ここからは私語は慎んで」


 もう一人はガタイのいい賢そうな男。高価な魔神装備を身につけた二人は、灯りのついた船の窓を見つめながら会話をしている。


「では、今からこの場に異空間を作成しよう」

「分かった……おい、誰か来るぞ」


 荒々しい男が気配に気付く。二人はその場にあった物の影に隠れて様子を伺う。


「あーもう最悪!」


 デッキに姿を現したのは、可愛らしい女性型の悪魔だった。可愛らしくも洒落たドレスを身に纏い、飲み物が入ったグラスを手にデッキに歩いてくる。

 悪魔の隣には、青い装甲を持つ小さな生き物がついて回っている。ゴーレムに似た魔物だ。


「ルートってば、あんな暴れ回ってパーティー会場を滅茶苦茶にするんだから。食べ物は全部無事だから良かったものの……」


 悪魔の女性は文句を言いつつ、グラスに口をつけて飲み物を飲む。

 悪魔がグラスの中身を飲み干したところで「ピンポンパンポーン」と、軽いチャイムが鳴った。


『ジギさん、これからビンゴ大会を始めます。速やかにエントランスまで足をお運びください』


 再びチャイムが鳴り、放送が途切れる。


「ビンゴ大会かぁ……とりあえず行こっかな」


 呑気にそう呟いた悪魔は背中から翼を生やし、ゴーレムの手を掴んで空を飛び、そのまま船へと戻って行った。


「あの女……見た目は可愛らしい人間じゃねえか。おいタシギ、あの子は本当に悪魔なんだろうな?」

「悪魔さ。探知器から反応が出てる」


 ガタイのいい男、タシギは謎の装置を手に話を続ける。


「まだ悪魔に手は出さないで。奴は上級悪魔、一筋縄ではいかない相手だからね。今はとにかく様子を伺うんだ」

「様子を見て隙を見るんだな?」

「それだけじゃなく、悪魔の性格や好みも見て」

「好み……?」


 タシギの言葉に、荒々しい男は首を傾げる。それに対してタシギは静かに答える。


「前世が人間だった悪魔は、生前にしていた趣味嗜好に執着するらしいんだ」

「趣味嗜好……?」

「人間だった時に好きだったものに執着するんだ。よくは分からないけど、欲に対して執念深い人間が、悪魔に生まれ変わるんだって聞いたことがある」


 タシギは話をしながら、この場に異空間を生み出す道具を鞄から取り出す。


「悪魔の執着する物が分かれば、悪魔の弱点も自ずと見えてくる……というわけですね」

「その通りだ」

「そういうことか……」


 結論にタシギと荒々しい男が頷く。


「「……ん?」」


 冒険者二人は顔を見合わせ、第三者の声のした方を向いた。


 そこにいたのは、スーツ姿の美しい男性。彼は手にクラッカーを持ち、冒険者二人をじっと見つめていた。


「ごきげんよう」


 男がそう言い放つと、手に持ったクラッカーの紐を勢いよく引っ張った。


「「!?」」


 クラッカーから放たれたのは、派手でやたら長い紙テープ。紙テープは冒険者二人にしっかりと巻き付き、身動きを封じてしまった。


「おわっ!?」

「しまっ……!」


 紙テープに巻き付かれた二人はその場に倒れたのだった。


────────────────────


 豪華客船のデッキに現れた冒険者二人を、ルートは道具を使用して拘束した。


「ハッピーバースデイ……」

「あ、終わった?」

 

 派手なテープに縛られた冒険者二人にそっと声を掛けるルートに、私はそっと駆け寄った。

 私と一緒にいたブルードラゴンナイトゴーレムの分裂体の一体「ナイトゴーレム一号」も一緒にルートに駆け寄っていく。


 今の私は、ルートが用意してくれたオシャレなドレスを着用している。それでもこの衣装は身動きが取りやすいので、余裕で走り回ることができる。


「ジギさんお疲れ様です」

「また入って来たんだ……これで何人目?」

「…………百六十二人?」

「そんな来てないよ! 大体十人くらいだよ!」


 私はルートに指摘しつつ、改めて冒険者二人を見つめた。


「確か、パーティーするついでに魔神狩りをする高ランクの冒険者を捕まえるとか言って、あえて冒険者の侵入を許してたんだよね……」

「はい。しかし私の予想に反して、想像以上に獲物が掛かってくれました。今夜は大漁ですね」

「冒険者捕まえたところで、何の足しにもならないけどね……それにこの人達、他と比べて比較的無害なんでしょ?」

「はい。彼らはまだまだコソ泥レベル。地獄に送るほどではございません。魔神狩りの力を奪った後、野に放ちます」


 ルートは冒険者二人を持ち上げ、どこか別空間に飛ばす。冒険者は跡形もなくこの世界から姿を消した。


「ルートくーん!」


 ルートが冒険者を片付けたところで、船の方からマルの声が聞こえて来た。


「こっちも捕まえたよぉ!」


 オシャレなスーツ姿のマルが、大きな鎖で縛り上げた男女二人の人間を持ち上げながらやって来た。


 そんなマルの隣には、モンスターダンジョンで生まれたコビトスライムのピータの姿もあった。

 最初に出会った頃よりも大きくなり、なんとつぶらな瞳に丸い手足のような物も生えた。


 ピエロのような派手な衣装を着せられたピータは、小さな足を必死に動かして大好きなマルを追いかける。


「この二人、転移魔法陣で船内に入って来たんだ!」

「うわぁ、こっちも金持ちそう……」

「先程から金持ちばかり来てますね。豪華客船だからでしょうか」

「海の上だからじゃないの? 長距離を安全に移動できる道具を持つのは金持ちくらいだし」


 ルートはマルが持って来た冒険者二人も異空間に飛ばす。マルの側まで駆け寄ったピータは、ルートの異空間魔法を興味深そうに見つめる。この子は好奇心旺盛なようだ。


「これで八人目……そろそろ気配を消して、皆様だけで静かに豪華客船の旅を楽しむとしましょう。これからビンゴ大会を開催します」

「やったー! ルート、一等賞の景品は何?」

「手入れの行き届いた無人島です」

「なんか良さそう! 自分だけのプライベートアイランドみたいなやつ?」


 なんてワイワイ会話していると、ルートの胸ポケットから唐突に古い電子音が鳴り出した。


「はい、ルートです」


 ルートは胸ポケットから懐かしの携帯電話を取り出し、船から降りて海上を歩きながら会話をする。


「何かあったのかな……」

「お仕事の話とかかな?」

「かもね〜。あ、戻ってきた」


 私達がこっそり話をしていると、ルートはすぐさま海の上を走って船の上へと戻ってきた。


「ルート、どうしたの?」

「大変申し訳ございません。この世界の冥界から急遽、皆様へお仕事のご依頼が届きました」

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