16話 マナ宝石
無事にダンジョンモンスターを完成させた私達は、転移魔法によりルートの街に帰還した。
時刻はまだ昼頃。街中では、オシャレな店をゴーレムが切り盛りする様子があちらこちらで見られる。中には美味しそうな料理を提供する屋台まである。
「良い感じのモンスターダンジョンが完成したね! あのダンジョンがどう育つか、楽しみだなぁ〜!」
街に帰還して早々、マルは元気に振る舞う。だが、あのモンスターダンジョンの中身を見た時からマルの元気が無いように見える。
「……マル、大丈夫?」
「えっ? 僕はいつも通りだよ?」
「いや、よくは分からないんだけど、マルがなんとなく悲しそうに見えてさ」
「うーん、まあ……少しだけ悲しかったかな? あのダンジョン内、暗くて少し怖かったし……」
私がそう言うと、マルは化粧で飾られた顔をほんの少し曇らせた。
「確かに、あのダンジョンの中って妙にホラーチックだったよね。私も不気味だなって思ったし」
「だよねぇ。まあ僕自身、ボロボロのサーカス小屋にはあまりいい思い出無いからねぇ」
マルは力なく笑いながら手を頭の後ろに組む。
「でもだいじょーぶ! ダンジョンが育てば賑やかで明るい場所になるでしょ!」
だが、マルはすぐさま笑顔を見せる。
「それよりもっ! あんな凄いダンジョンが出来たら、ダンジョンから生まれるアイテムもきっと一級品だよ!」
「ダンジョンからアイテム生まれるの?」
「うんっ! あのダンジョンなら、見たことない素材がたっくさん手に入るかも!」
「へぇ……!」
ダンジョンは魔物だけでなく、アイテムも発生するらしい。
よく考えてみれば、あのサーカスダンジョンにいたスライムは、その辺に落ちていたボールで遊んでいた。あのボールこそが、ダンジョンで発生したアイテムなのだろう。
「ルートくんはそのアイテムも狙いなんだよね?」
「その通り」
ルートはいつの間にその辺の店で購入したのか、漫画みたいなデカい肉を手にしながら頷く。
「ダンジョンから発生するアイテムも、魔神を助ける力となります」
「へぇ……ルート、因みに一番のお目当てアイテムは何なの?」
「マナ宝石です」
「マナ宝石……!?」
ルートの言葉に、マルは目を丸くして反応する。
「マル、マナ宝石って知ってるの?」
「知ってるよ! ダンジョンで極稀に生成される、純度の高いマナの結晶……! マナ結晶一つあれば、その辺の魔物はあっという間にボスクラスのモンスターに変化するんだ!」
「かなり凄いじゃん!」
「我々悪魔なら余裕で使いこなせます。しかし、身体が頑丈な魔物でないと、力を制御し切れずに潰れてしまうでしょう」
マナ宝石はレアアイテムで、それでいて取り扱い注意の代物のようだ。
「簡単にご説明しますと、マナ宝石さえあれば、天使も死神も、我々悪魔も、人間の攻撃を受け付けなくなります」
「凄っ! マナ宝石沢山あれば、魔神狩りは無くなるってことだよね!」
「因みに出土したマナ宝石がこちらです」
ルートがそう言うと、側にいたゴーレムが大きなトランクを開けて中身を見せてくれた。
巨大でカラフルな宝石が現れた。
「デカっ!?」
「こんな大物、僕は人生で一度も見たことないよ!」
マナ宝石は太陽の光を反射して輝いている。
「これは発掘されたほんの一部です。残りの殆どは既に加工され、天界と冥界に送られております」
「早っ!? えっ、もうマナ宝石はあの世に広まってるの?」
「はい。これで少なくとも、今を生きる魔神が狩られる機会は減るかと」
ルートは既に、魔神を危険から遠ざける取り組みを進めていたらしい。
(それにしても、この宝石って……)
「バーベキューの時にルートがゴーレムに与えていた宝石や、工房でゴーレムが加工していた宝石とそっくり……」
「マナ宝石です。ゴーレムに与えて強化したり、工房で加工してアクセサリーにして配送しておりました」
どうやら私は前々からマナ宝石を目撃していたようだ。
「そっか……よく考えたら既に立派なゴーレム工場のダンジョンがあるから、マナ宝石もとっくに出来ているよね」
「マナ宝石を手っ取り早く作成出来る方法が「モンスターダンジョン生成」だったので。私がこの異世界に来た時に真っ先に着手し、準備を進めていたのです」
「真っ先に準備を……えっ? もしかして……私が来た時には、既に魔神狩り対策はある程度済んでたってこと?」
「はい」
異世界に来て呑気にバーベキューをしていた理由がよく分かった。あれは時間稼ぎだけでなく、ただ単に余裕があったのもあるのだろう。
「ええっ!? まさかとは思うけど、ルートくんはマナ宝石の為だけにモンスターダンジョン作ったの!?」
「大まかに言えばそうなります。一番の目的はマナ宝石です」
「嘘でしょ!?」
ルートの言葉に、マルは信じられないという様子で声を荒げる。
「それって、お金が欲しいから企業して億万長者になりましたみたいな!? そんな感じじゃん!?」
「そんな凄い事なんだ……」
「そうだよ! もっと色々と方法はあるだろうに、わざわざこんな難しい方法を取るなんて!」
「ですが、この方法が一番マナ宝石を稼ぎやすいので……」
「ルートくん……」
マルはルートを見つめ、静かに問いかける。
「困難な課題を最も容易くやり遂げるなんて、明らかに普通じゃないよ……ルートくんは一体、何者なの……?」
「私は……」
そんなマルに対し、ルートは手に持っていた肉を下ろして答える。
「夏休みの宿題を真っ先に終わらせないと気持ち悪くなるタイプです」
この場に沈黙が訪れた。マルはその場で固まり、私は呆れて沈黙し、元から静かなゴーレムはより一層大人しくなりこの場を見守る。
「……ジギさん、マル様、マナ宝石があるからと言って、魔神狩りが終わるわけではございません」
「えっ?」
「この世の中には、我々の想像を遥かに超える存在が多数ございます」
ルートは真面目な態度で話を続ける。
「マナ宝石だけで、我々の身は守れません。何か事件が起こった時の為に、迅速に対応できるよう、我々は備えなければなりません」
「そ、そうだね……」
ルートもルートなりに、真面目に異世界の魔神狩りに対応していたようだ。
(まあ、ルートは仕事に関しては真面目に取り組むタイプだったからなぁ……)
例え何が起こっても、ルートがいればどんなトラブルも何とかなりそうだ。
「何はともあれ……とりあえずひと段落したので、これから遊びに出かけましょうか。豪華客船に乗り、海上で優雅なパーティーを開催しましょう」
「パーティー!」
「いいねぇ! 僕、舞踏会に参加してみたい!」
「ええ、舞踏会でも武闘会でも、何でも開催しましょう。ビンゴ大会も開催します」
「やったー!」
とりあえず今日は遊んで過ごすことにしよう。私はテンションを上げて大はしゃぎしたのだった。
「ねえルート、ビンゴ大会の景品にはどんなものを用意するの?」
「この星の所有権です」
「ちょっとルートくん!? 簡単に所有権を手放そうとしないでってば!」
ルートの相変わらずの発言に呑気に笑い合う私達だったが、まさか数時間後にあのような事態が訪れるとは……この時の私達は、予想だにしていなかったのだった。




