15話 新ダンジョン【廃墟サーカス】
ダンジョンの素材を持った私達は、ルートの転移魔法で別の土地へと移動した。
「ここって……」
真っ青な草が生い茂った広大な土地。空は青く、少し遠くには荒れた大地が見える。どこか見たことある景色だ。
「ビーハイブと死闘を繰り広げた土地、龍神大陸です」
「ビーハイブ側が一方的に死闘を繰り広げただけじゃん」
まさかあの荒地がここまで綺麗になるとは。心なしか空気も違う気がする。
「土地はあらかた綺麗にしておきました」
「一気に環境変えて大丈夫なの?」
「大丈夫です。むしろここ数年、凶龍ビーハイブの復活にマナを注ぎ込んだらしく、マナを必要とする植物が減少し、原住民も困っていたそうですから」
「原住民……? ルート、その話は誰かから聞いたの?」
「元大魔将ビーハイブから伺いました」
「本人から聞いたんだ……」
なら信憑性は高いだろう。
「でも、ビーハイブも凄いね。凶龍復活の為にわざわざあんなお城を建てたなんて……」
「それもあると思うけど、この土地にはビーハイブの部下が大勢住んでたからね」
私の疑問にマルが答える。
「大地にはご先祖様が眠り、地上には部下が大勢いる。だからこそ、ビーハイブは城の転移先の一つにこの荒地を選んだんだと思うよ」
「あ、ビーハイブの城って移動可能だったんだ……」
やはり異世界ともなると、やることの規模も大きく変わってくるようだ。
「さて。雑談はここまでにして、お次はいよいよダンジョンの生成に取り掛かるとしましょう」
「はーい!」
ルートの言葉にマルは元気よく返事をすると、早速、ルートと共にダンジョン生成の準備を開始した。
穴を深く掘り、穴の底にダンジョンの素材を置き、マルの持って来た道具を入れた箱も側に置き、後は埋めるだけ。
「後は、地中深くに埋めた材料に魔力を注ぎ込みます」
「……それだけ?」
「はい」
ルートはシャベル両手に返事をする。
材料さえ揃えば簡単にダンジョンは作れるらしい。だが、肝心の材料は簡単に揃えられる物ではないのだろう。
(ルートがあっさりと材料を持って来たから簡単に見えるんだよね……人がこの材料を集めようとしたら、きっと途方もない労力を費やすことになる……)
そんな事を考えている間に、ダンジョンの素材は地面に埋まったようだ。魔法使えばいいのに。
「皆さん、地面から離れてください」
「はーい」
私達は空高く飛び上がり、地面から離れた。
空を飛ぶドラゴンよりも上まで上がったところで、早速準備に取り掛かる。
私とマルは魔力を放出して魔力の球を生み出し、ルートはその魔力弾に更に自身の魔力を込め、地面に向けて凄まじい魔力弾を放った。
「おぉ……」
「地面が光ってる……!」
荒れた大地がせり上がり、ひび割れた地面から巨人が飛び出した。
頭にシルクハットを被り、派手な外套に蝶ネクタイをした、サーカス団長のような巨人だ。アレがダンジョンモンスターなのだろう。
サーカスの団長の恰好をした人型の化け物は、右拳を突き出しながら天へと舞い上がっていく。
(なんかこの異世界に来てから、やたら大きな生き物を見かける機会が多いなぁ……)
モンスターダンジョンは周囲を飛び回るドラゴンを呆気なく吹き飛ばし、巨大な顔は私達の目の前で停止した。
「モンスターダンジョンデカっ……!」
「この個体はまだ小柄な方です。あのモンスターダンジョンは動きやすさ重視で誕生したのでしょう」
「確かに……ゴーレム工場のモンスターダンジョンは、目の前のより遥かに巨大だったよね……」
今回生まれたのは、ゴーレムと違い身軽そうな容姿をしていた。大地を踏み締めて全力で爆速できそうだ。
「すっごいねぇ! ……で、あの巨人はダンジョンなんだよね? どこから入るの?」
「あのダンジョンは口から侵入できます」
「えっ? 分かるの?」
「そんな気がしました」
「勘で入ろうとするのはやめた方がいいよ……」
誤って捕食されたらどうするつもりなのだろうか。
「入り口を見つけるのは簡単ですよ。あのモンスターダンジョンは我々の魔力によって生み出されたのです、私達なら自由に出入りできます」
そう言うとルートは、モンスターダンジョンに向かって魔力を放出して指示を出した。
すると、目の前のモンスターダンジョンは私達に向かって大きく口を開けてくれた。ルートの予想は的中したようだ。
「では早速、ダンジョンの中に入りましょう
「いざ! 初ダンジョン!」
「ジギさん、ダンジョンに入るのは二度目ですよ」
「ジギちゃんお茶目だねぇ〜!」
ワイワイと言葉を交えながら、生まれたてのモンスターダンジョンに侵入した。
「ここがダンジョンの内部……」
ダンジョン内はゴーレム工場の内装とはだいぶ違っていた。
「なんか薄暗くて、全体的に不気味かな……」
マルのいう通り、中はだいぶ薄暗くてホラーチックだった。
小さな灯りに照らされたサーカステントのような内装で、あちらこちらに輪っかやブランコがぶら下がっている。
「見て! 天井からテントが吊り下がってるよ!」
「まるで夢のような光景ですね」
もっと賑やかになるかと思ったが意外と寂しくて、まるで悪夢の中の廃墟のようだった。気配が一切無いから、余計に廃墟感が増している。
「このダンジョンは、まだ生まれたばかりの赤子です。これから賑やかになることもございます」
「……うん、これから魔物が増えて、もっと賑やかになっていくよね! ……あっ! スライム!」
辺りをキョロキョロと見回していたマルは、遠くで動いていた半透明な物体を発見した。
「あれは固体寄りのスライムですね。弾力を活かした体当たりが強力で、人間の骨を折るほどの威力があるようです」
「ええっ!? スライムって雑魚中の雑魚なんじゃないの!?」
スライムはその辺の一般人でも簡単に勝てる相手だと思っていたので、この情報は私にとって予想外だった。
「人間はどうやって魔物に勝つの!?」
「魔物を狩猟できるのは基本、魔力を持つ方くらいですね。魔力が無い方は強力な武器を使用するか、知恵や技術を駆使して倒すしかありません」
「えぇ……魔力が無いと、魔物とまともに戦えないの?」
この異世界は、魔力を持たない人が暮らすには厳しいようだ。
「スライムってそんな強いんだ……あ、スライムが何か持ってる」
スライムはその辺に落ちていたボールを、弾力のある身体で持ち上げている。
そして、持ち上げたボールを上に向かってポンポンと打ち上げ始めた。
「ボールで遊んでるのかな……」
「おおっ! スライムが道具使ってる! 凄いよ!」
「もしかして珍しいの? スライムが道具使うのって」
「僕は初めて見たよ!」
(そんな珍しいんだ……)
「ダンジョンの質が違えば、誕生する魔物も変わってきます。どうやらこのダンジョンで生まれた魔物は賢く、それでいて手先も器用なようです」
「へぇ……」
私達は気配を消してスライムに近付く。スライムはもう一つボールを持ち、二つのボールを上に打ち上げて遊んでいる。
「なんとも可愛らしい……」
「いいねぇ……決めた! あのスライムはピータって名付けるよ!」
マルは気配を出してスライムに駆け寄り、ボールで遊ぶスライムを指差して名前を付けた。
マルの存在に気付いたスライムは、ボール遊びを中断してマルを見上げている……ように見えた。
「ピータくん!」
マルはスライムを持ち上げて抱きしめる。
「君のことは僕が絶対に守ってあげるからね!」
(もう愛着湧いてる……)
でも、初めて作ったダンジョンから生まれた魔物は愛着湧くかもしれない。
もし私がダンジョンの中身を作成してたら、私もマルみたいになっていただろう。
「何があっても見捨てたりしないからね……!」




