12話 ビーハイブの最後
凶龍は大口を開け、轟音を轟かせながら巨大ゴーレムに向かって歩いていく。もはや凶龍にとって、巨大ゴーレムは敵ではない。
「フハハハハ……! 行け、凶龍ビーハイブよ! 悪魔ルートの最終兵器をその力で破壊し尽くせ!」
勝ちを確信したビーハイブがそう叫んだ瞬間。
ド ォ ン !
天から果てしなく巨大な柱のような物によって押しつぶされてしまった。
「凶龍が……」
「巨大な柱のような物に……押しつぶされた……?」
大魔将のビーハイブと秘書は、目の前で何が起こったのか分からないのか、口をあんぐりと開けて呆然としている。
「き、凶龍ビーハイブ……?」
巨大な柱がゆっくり上がっていき、潰された凶龍が姿を表す。
「き、凶龍が……真っ平に……!」
「そんな馬鹿な……!?」
巨大ゴーレムの背丈を遥かに超える巨体の凶龍は、まるでカーペットのように平になっていた。
「い、一体何が……!」
見るも無惨な姿に変貌した凶龍を前に、秘書の顔は絶望に染まっている。
「ビーハイブ様! こうなったらもう、この場から逃げるしか……!」
「…………」
秘書から逃走を提案されるが、ビーハイブから返事は来ない。
「ビーハイブ様! お気を確か……うべっ!?」
ビーハイブに声を掛けていた秘書の頭に土が降り注いだ。
「ペッペッ! 何なんだこれは……!」
秘書は鬱陶しそうに頭の土を払うが、空からは絶え間なく土が降り続ける。
その間、ビーハイブは天をじっと見つめ、ポカンと口を開けていた。
「ビーハイブ様、そのようなことをしては口に土が入ります! 口は閉じた方が……!」
「上だ」
「えっ?」
ビーハイブに促され、秘書も空を見つめる。
「空……ん?」
闇に目がだいぶ慣れてきた秘書は、空に目を凝らす。暗い空には、まるで石が組み合わさったような模様が刻まれているのが分かった。
「あの模様は……?」
「ゴーレムだ」
「ゴーレム……えっ?」
「あの闇一面、全てゴーレムの身体だ……」
「ええっ!?」
空を覆い尽くしていた闇の正体は、王様型巨大ゴーレムよりも遥かに巨大な大型ゴーレムだった。
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「あれ? ビーハイブの奴、もう援軍呼んで来なくなったね」
私は今現在、ダンジョンゴーレムのお腹側にある大きな足場にマルとルートの三人で並び、遠くに見えるビーハイブ城の様子を眺めていた。
人間には見えない距離だろうけど、私達悪魔なら城にいるビーハイブを余裕で観測できる。
「相手はどうやら万策尽きたようです。あと、ダンジョンゴーレムの存在にも気付き、戦意喪失したご様子」
私の隣でじっと様子を眺めていたルートは、静かにそう告げた。
「あらら……流石にもう、これ以上の強い魔物は出そうにないかなぁ?」
足場のポールに足を引っ掛けて逆さになっていたマルは残念そうにしながら手を頭の後ろに組んだ。
「でも、ルートの思った通りだったね! キャッスルキングゴーレムが城の前に立てば、相手はどんどん援軍を出してくるだろうってさ!」
キャッスルキングゴーレムが碌に手を出さなかったのは理由があった。
キャッスルキングゴーレムを城の前に置けば、ビーハイブはゴーレムを倒す為の援軍として様々な魔物を呼び出してくれるだろうとルートは予測していた。
実際、ビーハイブはゴーレムに対してドラゴン軍団や巨大な怪獣を呼び出してくれた。完全にルートの作戦勝ちだった。
「いやぁ〜、まさかここまで上手くいくとは……でも、不思議だよね」
私はビーハイブを見つめながら疑問を口にする。
「あのビーハイブとか言う大魔将さ、色々と魔法使えたんでしょ? 仲間と力を合わせて、何処かから大量の土砂とか持って来てゴーレムを埋めるとか、地面を変質させてゴーレムを沈めるとか……もっと色々と出来ることはあったんじゃないの?」
なのに彼は真っ向勝負でゴーレムを倒そうと奮闘していた。
「あれじゃあまるで脳筋じゃん」
「ジギさん、彼はああ見えてパワータイプですよ」
「あ、そうなんだ」
言われてみれば確かにそうだ。強大な相手を前にして、全て力で捩じ伏せようとしているのを見るに、彼は相当力に自信があるようだ。
「それ以前に、私が彼の思考をある程度操作するので、想定外の行動や姑息な手は絶対に使わせません」
「操作してたんだ……」
どうやらある程度、こちらが有利になるよう相手を操作していたようだ。
「ルート、ビーハイブはもう動きそうにないけど……後はどうするの? さっき作ったゴーレムをあの城に放ってみる?」
「まずは彼の力を奪い、そのまま地獄に連れて行きます。彼も大勢の天使と悪魔を殺めているので」
やはりと言うべきか、あの大魔将も魔神狩りをしていたらしい。
「ビーハイブの手に持つ水晶は天使の結晶、ドラゴンの装備は全て魔神素材です」
「えぐ……」
そんなドラゴン軍団を呆気なく吹き飛ばせたキャッスルキングゴーレムの強さは計り知れない。
「あーあ、今日がビーハイブの最後か……それにしても、ビーハイブも可哀想だね。ご先祖様をあんなペチャンコにされるなんてさ」
私は視線を落とし、ダンジョンゴーレムの指に潰された巨大な怪獣を眺める。
だが、怪獣の素材を持ち帰るのは簡単そうだ。
「いえ、これはほんの序の口です」
「えっ?」
私がルートに視線を向けると、ルートの姿が一瞬透けたように見えた。どうやら転移魔法で瞬間的に何処かへ移動し、再びこの場に戻って来たようだ。
そんなルートの手には、高い魔力を放つ綺麗な球が収まっていた。
「ルート……それ何?」
「ビーハイブの魔力核です」
「……えっ?ね
「はぁ!? まさかあの一瞬で取ってきたの!?」
なんという呆気ない幕引き。彼の見せ場すら与えることなく、相手を完封してしまうとは。
「もっとさぁ……今後の為にも、直接戦って経験を積むとかさぁ……」
「でもさジギちゃん、相手はどんな切り札を持ってるか分からないんだよ? 強敵と下手に戦うよりは、相手が油断してる隙をついて倒す方がいいと思わない?」
「うーん、それもそっか……」
何はともあれ、これにて大魔将ビーハイブは完封した。
「とりあえずビーハイブを迎えに行きましょう」
「さっき魔力核を奪った時に、ついでに連れてくれば良かったのに……」
とりあえず私達三人はその場から飛び出し、ビーハイブの元へと飛んでいった。
「うぅ……」
城のバルコニーに倒れる貴族ビーハイブの前に降り立つ。ビーハイブは息も絶え絶えの様子で、私達を下から睨みつけてくる。
「き、貴様ら……は……!」
「地獄からのお迎えです」
私達はともかく、ルートすら初対面扱いされている。
ビーハイブはどうやら、ルートの顔すら見ることなくやられてしまっていたらしい。
「貴方を生きたまま地獄に送り届けます。とは言え、私と彼女は異世界から来た悪魔です。送り届ける役目は本拠地の悪魔にお任せします」
「貴様らは異世界から来たのか……そうか……」
「マル様、お願いします」
「はーい!」
ルートに指示を受けたマルは、素直に従いビーハイブの身体を持ち上げる。ビーハイブは一切の抵抗すら見せず、素直に持ち上げられていた。
「さ、最後に教えてくれ……」
ビーハイブは力を振り絞り、ルートに言葉を投げかける。
「お前達、異世界の星には……俺の名前に近い言葉は……あるか……?」
「ございます」
「そ、そうか……では、お前達の世界では、ビーハイブは……なんて言う意味なのか教えてくれ……」
「人工的に作られた蜂の巣です」
「はは……絶妙に……ダサ、いな……」
この言葉を最後に、大魔将ビーハイブは気絶したのだった。




