10話 ゴーレム工場ダンジョンゴーレム
「大魔将の一人、ビーハイブを討伐しに向かいます」
私はマルとルートと共にダンジョンから抜け出し、街の大きな広場に集合していた。
私達の前には多種多様のゴーレム軍団。先程生まれたブルードラゴンナイトゴーレムやミノタウロスゴーレム、他にも球体ゴーレムや巨木型ゴーレムなど、気になるゴーレムが幾つもいた。全体的に巨大だ。
「ルートくん、一つ質問いい?」
マルは巨大ゴーレムを前に、ルートに質問を投げかける。
「マルさん、如何なさいました?」
「こんな巨大なゴーレム軍団をどうやって運ぶの? 全部転移魔法で運ぶにしても手間が掛かりそうだよ?」
「マル様、心配は無用です。移動には彼を使いますから」
「彼?」
ルートが真下を指差し、私とマルは石畳の地面を見つめる。
「宜しく頼みます」
ルートが地面に向かって魔力を込めた指示を出したその時、地面が何かに殴られたかのように一度だけ大きく揺れた。
「うわっ!?」
「何っ!?」
街全体に力が溢れたかと思うと、大地が凄まじい音と共に動き始めた。遠くの景色が下がっていくのを見るに、街全体が高く持ち上がっているようだ。
「何コレ!?」
「えっ!? えっ!? まさかこれって!?」
「言ったでしょう。ダンジョンは生き物だと」
私とマルは大急ぎで空を飛び、街から飛び出す。ルートも後を追って空を舞う。
街からある程度離れたところで、改めて街の方を見つめた。
私達の眼前に、とんでもない光景が映り込んでいた。
「「デカっ!!」」
先程まで私達がいた街の下に、とんでもない大きさの巨大ゴーレムが立っていた。
街の土地全てが巨大ゴーレムそのものだったのだ。大地に闇を投げかけるその巨体は、私が見たどんな建築物よりも遥かに大きかった。
「何コレ!? 大陸!?」
「ねえルートくん! あれってまさかゴーレム!?」
「その通り。彼は「ゴーレム工場ダンジョンゴーレム」でございます」
ダンジョンがゴーレムで挟まれている。
「それだけではございません。あちらを」
「えっ? ……ええっ!?」
ルートの指差した先にあったのはゴーレムの背中、背中には街と美しい巨城が見える。そのお城もまた大きく揺れていた。
「お城が!?」
城が立ち上がるように動き出し、王様のような姿へと変形していく。なんと城もゴーレムだったらしい。
ダンジョンゴーレムよりは遥かに小さいが、それでも私達から見れば巨大であることに変わりはない。
「うわっ!?」
「すっごーい!」
マルは音を立てて変形していく巨城に大喜びするが、私は驚き動揺する。
「ちょっとルート! 城に私の荷物があるんだけど!? あれ大丈夫!?」
「大丈夫です。キャッスルキングゴーレムは負け知らずなので。中の荷物が駄目になることはございません」
「現在進行形で荷物が駄目になってる気がするんだけど!?」
あのゴーレムが派手に暴れ回ったら、私の荷物は滅茶苦茶になってしまう。
ルートのことなので恐らく、あの城には重力関連の魔法が働いているだろうが、それでも中身が心配になる。
「あのダンジョンゴーレムは転移魔法を使用できます。あのダンジョンゴーレムに乗り込み、ビーハイブの元へと向かいましょう」
「う、うん! 分かった!」
ルートの指示により、私達はダンジョンゴーレムの上へと移動した。
(これから大魔将との戦い……相手はどれほどの強さなんだろう……!)
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果てしなく広がる荒地。紅に染まる大空をドラゴンやワイバーンが飛び回り、枯れた大地には図体の大きい荒々しい魔物が彷徨う。
人は好んで寄り付かないであろう大地の高台に、大魔将ビーハイブの城があった。
妙に禍々しい城内の中を、ツノを生やした貴族が歩いている。彼こそがこの城の主、ビーハイブだ。
「ビーハイブ様、悪魔の元へと向かった大魔将の一人「メラゴ」様が行方不明になったとのことです」
彼の隣にいる秘書らしきリザードマンは、書類を手にビーハイブに報告をする。
「メラゴか……確か奴は手柄を立てる為に、最近この地上に現れた上級悪魔のルートを脅しに向かっていたな」
「はい。しかし……メラゴ様はおろか、彼の部下にすら連絡がつかない事態でして……」
人間より遥かに高い背丈を持つビーハイブは、秘書の話を聞きながら廊下を歩く。
「奴のことだ。どうせ大群で押しかけ、ルートに返り討ちに遭ったのだろう。奴は力こそあるが、魔力や頭脳は褒められたものではなかったからな……」
ビーハイブは表情一つ変えずに言葉を続ける。
「だが俺なら、その悪魔を捕縛できる。悪魔に枷をつけ、死ぬまで魔王様の元で働かせてやれる」
「しかし……ビーハイブ様、その上級悪魔ルートの情報を探りに向かった部下が全員行方不明でございます」
「分かっている。生半可な奴が向かったところで、返り討ちに合うだけだ。今後は、あの上級悪魔の情報収集は高位の魔法使いのみで行え。なるべく接近せず、気付かれないよう遠くからな」
「そ、それが……」
ビーハイブの指示に秘書は言いづらそうに返事をする。
「何だ」
「城内に引き篭もる高位三の占い師がいたでしょう。彼女も昨日から行方不明でございます」
「何だと? アイツは城からは……」
秘書の報告にビーハイブが反応したところで、城内の廊下の窓に差し込んでいた赤い光が急に消えた。
「おや? 天気が……本日は快晴のはずでしたが……」
「ん……? 何だ……?」
秘書は首を傾げるが、ビーハイブは外の異変に気付いたらしい。
「ビーハイブ様! 大変です!」
廊下の向こうから、近衛兵のドラゴニュートが駆けてきた。大慌ての彼は、折れた槍を下げてビーハイブの前で停止した。
「どうした」
「ビーハイブ様! 巨人です! 城の前に巨大なゴーレムがいます!」
「……奴が来たか」
ビーハイブは真下に転移魔法陣を描くと、魔法陣を発動させてその場から姿を消した。ビーハイブの隣にいた秘書も姿を消した。
「こ、ここは……城の外、ですか……?」
ビーハイブと共に城の外に出た秘書は驚き戸惑う。
「空が暗い、まるで真夜中だ」
先程まで真っ赤に染まっていた空は見る影もなく、闇一色に変貌していた。
「何かの術か……だが、それ以上に厄介な物がいるな……」
ビーハイブは城の前に現れた、異様な存在に目を向けた。
秘書も遅れて前方に目を向け、そのとんでもない存在に驚愕した。
「なあっ!?」
城の前に現れたのは、城よりも遥かに大きな巨人。髭の生えた王様のような姿をした巨大ゴーレムだった。
「…………」
巨大ゴーレムは無言で城の前に仁王立ちしている。
「なあっ……!? 何だアレは!?」
「ルートだ」
「ルートォ!?」
慌てる秘書に対し、ビーハイブは冷静に言い放つ。
「ルートって……先程話題に上がった、あの上級悪魔のルートですか!?」
「そうだ。あの悪魔はゴーレムを使役するらしい。目の前のゴーレムも恐らく、奴の差し金だ」
「だ、だからってあんなゴーレムを……そもそも、何故我々の城に……!?」
「我々がルートの情報を嗅ぎ回っていたことに腹を立てたか、魔王様に対抗する為に周りを攻めてきたか……どちらにせよ、まずはあのゴーレムを何とかせねば」
ビーハイブは懐から綺麗な水晶を取り出し、魔力を込める。
「ビーハイブ様……何を……」
「龍軍を全て、この場に呼び出す」
ビーハイブの呼び出しが通じたのか、何処からともなくドラゴンの集団が姿を現した。
「グルルルァ!」
巨大ゴーレムよりは劣るものの、ビーハイブの城と並ぶ巨体を誇る大きな龍は隊列を組んで空を飛ぶ。
ドラゴンは列を成して巨大ゴーレムを囲い、ゴーレムを目掛けて四方八方から真っ白に輝く火炎ブレスを浴びせていく。
「おぉ! 岩をも溶かす龍の息吹なら、あのゴーレムもひとたまりもない! ザマァ見やがれですよ!」
「…………無理だ」
「えっ? ビーハイブ様、それはどういう……」
全身に火炎ブレスを浴びていた巨大ゴーレムから、突風のようなものが発生した。魔力を含んだ荒れ狂う暴風はブレスを打ち消し、周囲を飛んでいたドラゴンを遠くに吹き飛ばしてしまった。
「そ、そんな……!」
「……厄介な相手だ」
巨大ゴーレムは無傷だった。
ゴーレムの表面には焼け焦げた跡すらなく、傷一つすら存在しない。
「当たり前だ。あのメラゴを倒した相手だ、切り札としてあのようなゴーレムを持っていても不思議ではない」
「いっ、如何いたしましょう……あのゴーレムを倒せるのはもはや、この地に眠る凶龍しか……それか……」
「今すぐ凶龍を呼び起こせ」
「はっ、はぃい!」
ビーハイブに指示を受けた秘書は、大慌てで城から抜け出す。
「上級悪魔ルート……ふっ、少しは退屈せずに済みそうだな……」
ビーハイブは魔法壁で城を囲いながら微笑む。
だが、ビーハイブは知らなかった。目の前の巨大ゴーレムすら遥かに凌駕する、とんでもないゴーレムが既にこの場にいたことを……




