第四章:巻物の秘密と、クラーケンの孤独
巻物に描かれた奇妙な模様。
それは確かに、私の目尻に浮かぶ金色の鱗に酷似していた。
「これは…何かの手がかり?」
私は巻物をそっと撫でた。
ひんやりとした紙の感触が、私の指先に伝わる。
私は巻物をクリスに見せることにした。
もしかしたら、彼女ならこの文字を読めるかもしれない。
あるいは、この模様の意味を知っているかもしれない。
期待と、ほんの少しの恐怖が入り混じった感情で、
私は彼女の元へ向かった。
クリスはいつものように、ソファに座って本を読んでいた。
私が近づいても、彼女は顔を上げない。
「クリスさん、これを見て。」
私は巻物を彼女の目の前に差し出した。
すると、彼女の指が、ピクリと止まった。
ゆっくりと、彼女は顔を上げた。
その瞳が、巻物の模様を捉えた瞬間、
クリスの顔から、すっと血の気が引いたように見えた。
いつも無表情な彼女の顔に、
初めて、動揺の感情が浮かび上がったのだ。
「…なぜ、貴様がこれを持っている。」
彼女の声は、かつてないほど震えていた。
その声に、私は確信した。
この巻物は、クリスにとって、
何か特別な意味を持つものだと。
「部屋にあったの。これ、何なの?」
私は問いかけた。
クリスは、巻物から目を離さず、
まるでその模様に吸い込まれるかのように、
じっと見つめている。
その瞳の奥に、私は初めて、
深い悲しみと、そして、途方もない孤独を見た。
「これは…私の…」
クリスは、言葉を紡ごうとして、
しかし、その言葉は途中で途切れた。
彼女は、まるで何かに耐えているかのように、
ぎゅっと目を閉じ、唇を噛み締めた。
その姿は、今まで私が見てきた、
女王様のようなクリスの姿とはかけ離れていた。
その時、トロが私の足元に現れた。
「クリス、大丈夫?なんだか、元気ないみたいだよ?」
トロの無邪気な声が、凍りついた空気を溶かすように響いた。
クリスはゆっくりと目を開け、
トロの方に視線を向けた。
彼女の瞳には、微かに涙が滲んでいるように見えた。
それは、深い海の底で、
ずっと一人で抱え込んできた、
途方もない悲しみの雫のように。
私は知らなかった。
不機嫌なクラーケンの娘が、
こんなにも深く、そして孤独を抱えていることを。