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第二章:深海の住人たちと、見えない壁

「貴様は、今日からこの七番室の住人よ。」

クリスは冷淡に言い放ち、

まるで透明な壁でもあるかのように、私に背を向けた。

七番室。

なぜか、その響きにぞっとした。

この広いマンションに、他に何人の「魂」が住んでいるのだろう?


イカ先生は、そんなクリスの態度にも慣れているらしく、

「お気になさらないでください、お嬢様。

クリスティーネ様は、少々人見知りでいらっしゃるのですよ。」

と、にこやかに私に微笑んだ。

人見知り…?

あの女王様のような振る舞いで?


「イカ先生、勝手なことを言わないでくださいまし。」

クリスの声に、微かに苛立ちが混じった。

感情の薄い彼女にしては珍しい。

もしかして、本当に人見知りだったりするのだろうか。

その時、足元で何かが蠢いた。

見ると、透明な体をした小さな魚が、

ゆらゆらと私の足元を泳いでいる。


「やぁ、新しい住人さん!僕、トロッコフィッシュのトロだよ!」

透明な体が光を反射して、まるで水の塊が話しているみたいだ。

彼の体は、所々泡のような模様が浮かび、

目だけが、ビー玉のようにキラキラと輝いている。

見た目とは裏腹に、やけに陽気な声だった。


「トロも、新入りに構わないでくださいまし。」

クリスは呆れたようにため息をついた。

このマンションの住人は、皆こんなに個性的で、

そして、なぜかみんな、クリスのことを「お嬢様」と呼ぶ。

それは、クリスが本当に海底を支配したクラーケンの娘だからなのか、

それとも、他に理由があるのか。


「さ、お嬢様。お部屋にご案内しますわ。」

イカ先生が、私を促すように促した。

七番室。

案内された部屋は、私の部屋と同じくらい豪華だった。

しかし、どこかひんやりとしていて、

そこに住む「魂」の気配は感じられない。


「この部屋は、まだ住人が見つかっていないのですわ。

クリスティーネ様が、貴女のために特別にご用意したのです。」

イカ先生はそう言って、私に優しく微笑んだ。

私のため?

不機嫌クラーケンの娘が、私のためになど。

しかし、その言葉は、私の心をほんの少しだけ温めた。


私は、なぜこの深海にいるのか。

なぜ、死んだはずの私が生きているのか。

そして、クリスの言う「感情」を封印した過去とは。

私の魂に宿るという「心の一片」とは。

謎は深まるばかりだった。

まるで、深海の底に沈む、まだ見ぬ財宝のように。

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