第9話 クエストへ
「Dランクは採取か漁ばかりだな……。フェルリート! ツケはいくらだっけ?」
「今日の分も合わせて銀貨一枚だよ!」
「そ、そんなに溜まってんのか? じゃあこれかな」
◇◇◇
クエスト依頼書
難度 Dランク
種類 薬草採取
対象 山苦草
麻草
火桃草
白大柚
参黄根
内容 各二キルク採取
報酬 銀貨一枚
期限 一週間以内
編成 C ランク一人
特記 詳細は契約書記載 冒険者税徴収済み
◇◇◇
「この採取量で銀貨一枚はちと少ないが……。まあ仕方ない。これにするか」
俺は依頼書をボードから剥がし、受付窓口に持っていく。
受付のパルマに手渡すと、途端に不機嫌な表情を浮かべた。
「おい、マルディン。このクエストはDランクだ」
「別に良いだろ? ルールには反してない」
「そうだけどさ。大爪熊を放置するのは危険だ。やってくれよ」
「俺はもうおっさんだ。討伐は血気盛んな冒険者に頼んでくれ」
「お前はいつもそうだ」
「あっはっは。気楽に行こうぜ」
肩をすくめて呆れているパルマ。
「ってかマルディン。金を稼ぎたかったら漁に行けよ。稼げるクエストが来てるぞ」
この港町は漁が盛んで、漁師ギルドから冒険者ギルドへ依頼が来るほどだ。
「今すぐ行って夕方には帰って来たいんだよ。漁は時間がかかるし、俺……泳げないじゃん?」
「ちっ、仕方ないな。分かったよ」
契約書類にサイン。
これでクエスト開始だ。
「確かにルール上は問題ないが、ランクに見合ったクエストが大切なんだ。これはギルドマスターのオルフェリア様も常に仰っている。考えてもみろ。Sランクのアル陛下が下位ランクのクエストに行ったらおかしいだろう?」
「おいおい、あんな化け物と一緒にするなって」
「おい! 口の利き方に気をつけろ!」
「わりーわりー。んじゃ、倉庫から籠借りるぜ」
俺はギルドの倉庫へ行き、採取用の籐籠を背負った。
そして一旦自宅へ戻り装備を着用。
採取クエストとはいえ、森の中は肉食獣やモンスターに遭遇することもある。
愛用の軽鎧を装着。
これはDランクモンスター毒甲百足の外殻を使用している。
安い割に硬度があり、下位ランク冒険者に人気の素材だ。
色は赤く塗装してもらい、気に入っている。
左腰には長剣を吊るし、腰に採取短剣のベルトを回す。
剣も鎧も、冒険者ギルドが誇る開発機関の道具屋で購入した。
安くて高性能だ。
そして右腰に糸巻きを吊るした。
「さあ、行くか」
採取用の籠を背負い、自宅を出発。
向かうは町から数キデルト離れたカーエンの森。
「稼がないとぉ、美味い飯が食えないぃ」
鼻歌交じりに町道を歩く。
「マルディン。ご機嫌じゃな。どこへ行くんじゃ?」
「ああ、クエストだよ。カーエンの森へ薬草を取りに行くんだ」
元漁師のアラジ爺さんに声をかけられた。
爺さんは漁師を引退して、釣りをしながらのんびりと暮らしている。
さすがは元漁師で、恐ろしいほど釣りが上手い。
たまに魚を分けてくれる。
「そうか。この時期は白大柚が美味いぞ」
「白大柚も採取するんだ」
「そうか、じゃあ儂の分も採ってくれんかの?」
「お、いいぞ。爺さんには魚をもらってるしな」
「ふぉふぉふぉ、魚なんていつでもくれてやる」
「俺は釣りができないから助かるよ」
「今度教えてやるわ」
「おー、頼むよ。んじゃ、行ってくるわ」
「気をつけるんじゃぞ」
「はいよー」
爺さんと別れ、森へ向かった。