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第89話 告白1

 ムルグスとウィルが帰国して数日が経過。

 俺の過去を話すと決めたが、誰に言うべきか悩んだ。


「まずは最も厄介なラーニャからだな」


 俺はギルドへ向かい、二階へ上がる。

 主任室の前で大きく息を吸い、扉をノックした。


「ラーニャ。少し話があるんだ」

「あら、マルディン。どうしたの? ついに私へ告白?」

「ちげーよ!」


 否定したが、ラーニャは間違っていない。

 確かにこれは告白だ。


「いや、間違ってないか」

「え? マルディンって私だったの? 別にいいけど」

「は? 何言ってんだ?」


 応接ソファーに案内された俺は、過去の経歴を全て話した。


 ――


「……あ、あなた、月影の騎士(イルグラド)の隊長だったの?」

「ああ、そうだ」

「海賊千人を……殺した? 一人で?」

「……そうだ」


 いつも人の話をまともに聞かないラーニャが、深刻な表情で俺の話を聞いていた。

 ある程度の反応は予想しており、覚悟は決めている。


「マルディン……」

「な、なんだ」


 これほど険しい表情のラーニャは初めて見た。

 無言で立ち上がり、俺の背後に回ったラーニャ。

 俺は視線で追う。


 突然、背後からラーニャが俺に抱きついてきた。


「すごーい! 凄いわあ!」

「お、おい!」

「あなたやっぱり凄腕じゃない! ずっと疑ってたのよお! やっぱりねえ! うふふ、うふふ」


 ソファーの背もたれ越しに、俺の首に手を回すラーニャ。


「神妙な顔するから、ギルド辞めるのかと思っちゃったわよ」

「辞めるわけねーだろ」

「うふふ。じゃあこの告白は、この先もずっと町にいる覚悟ってことでいいかしら?」

「ああ、そう思ってもらって構わない」

「うふふ、皆喜ぶわよ!」

「どうでもいいが離れろよ」

「うふふ。嫌よ」

「離れろっつーの」

「もう、せっかく告白してくれたのに。私が好きだから町にいるんでしょ?」

「ちげーっつーの! 離れろ!」


 その後もしばらく、ラーニャは俺から離れなかった。


 ――


「ねえ、マルディン。町の人にも言うの?」


 新しい珈琲を淹れ、ソファーに戻ったラーニャ。


「この後、町長に言うよ。この町の老人たちの情報網があれば、数日もかからず知れ渡るだろう」

「レイリアはどうするの?」

「直接伝える」

「そうね。あの娘は医者だもの。いくら騎士だったとはいえ、千人殺しは驚くかもしれないわね」

「ああ、それは仕方がない。レイリアに……、町の人に嫌われても、俺はこの町に住み続けるよ」

「はあ? なに言ってるのよ。あなたを嫌う人なんているわけないじゃない。どれだけの人が助けられたと思ってるのよ」

「そうだといいがな。ギルドの皆には伝えてくれ。フェルリート、アリーシャ、ラミトワには直接言うよ」

「分かったわ。じゃあ私がギルドで公表するのは、少し時間を置くわね」

「ああ、助かる」


 俺は珈琲を口に含む。

 そして、焼き菓子を一つつまんだ。


「でも変ねえ。あなたって騎士団の隊長だったのに、試験結果が低すぎない?」

「あ、ああ、それはだな……。受験時は任務直後で、疲労が溜まってたんだよ」


 とっさに嘘をついた。

 試験結果が改ざんされていた理由はラーニャに話せない。

 俺がギルドハンターをやることも極秘にするように命令されている。


「今後はどうするの?」

「ラミトワとアリーシャがな、一緒にクエストへ行きたいって言ってくれたんだ。その……、嬉しかったよ」

「うふふ。本当に良い娘たちねえ」

「そうだな。それに俺が昇格すれば犯罪組織への抑止力になるんだろう?」

「ええ、そうよ」

「だから昇格試験を受けるつもりだ」

「マルディン……ありがとう」

「なんだよ。素直だな。いつもそうだといいのにな。あっはっは」

「もう!」


 ラーニャが優しく微笑んでくれた。

 素直であれば相当な美人だ。


「さて、じゃあちょっと行ってくるよ」


 俺はソファーから立ち上がった。


「マルディン!」

「ん?」

「この町に来てくれて、本当にありがとう」

「こちらこそだ。受け入れてくれて、ありがとう」


 少しの間ラーニャと見つめ合い、俺は主任室を出た。


 ――


 俺は町役場へ向かう。

 これまでは過去を隠すことばかり考えていたが、やるべきことが見えた今、もう迷いはない。


「気持ちのいい風だ」


 涼しくなった秋の風を背中に受け、軽やかな足取りで町道を進む。

 町役場に到着し、受付嬢に声をかけ、町長室へ通してもらった。


「町長、話があるんだ」

「おお、マルディンか。どうした?」


 俺は町長に全ての事情を話した。


月影の騎士(イルグラド)? マルディンが?」

「そうだ。祖国を永久追放されたが、元騎士だ」

「そうか。それは頼もしいのう。がははは」

「驚かないのか?」

「六十年以上生きとるんじゃ。大抵のことじゃ驚かん。お主なら騎士だと言われても納得じゃ。それに、儂ら漁師にとって海賊は憎むべき存在じゃ。過去何人も襲われておる。犠牲者だって出ておるしの」

「そうか」

「それで、今後もこの町にいてくれるのか?」

「ああ、変わらず住むつもりだよ」

「それはありがたい。先日の犯罪組織のこともあるしの。それでもこの地方は比較的治安は良いが、内陸部へ行けば治安は悪い。街道を歩けば盗賊が出る。こんな世の中じゃ。町にとってマルディンの存在は心強い」

「そう言ってもらえると助かるよ」


 扉をノックする音が聞こえると、受付嬢が珈琲を運んできてくれた。

 テーブルにカップを二つ置き退室。


「そうえいば……。マルディン。お主、今の自宅は借家じゃろ?」

「ああ、そうだよ」

「家を持ったらどうじゃ?」

「家?」

「そうじゃ。お主が住んでる近くに、町が所有してる土地がある」

「家か……」

「目ざとい商人たちが売って欲しいとうるさくてのう。マルディンなら格安で譲るぞ?」

「そうだな。ずっと住むつもりだから、家を持つのもいいかもな」

「じゃあ決まりじゃ。家を持て。そして結婚しろ」

「け、結婚? 相手がいねーよ!」

「何を言っておる。いくらでもいるじゃろう。噂は山ほど聞くぞ。がははは」

「いねーっつーの!」


 山ほどと言われても、思い当たるのは一人だ。

 確かにレイリアは好意を寄せてくれている。

 だが、千人殺しを話せば、レイリアの気持ちも変わるだろう。


「で、土地はいくらなんだ?」

「金貨十枚でいい。海に近い緩やかな小さな丘じゃ。すぐ近くを町道が通ってる。条件は最高じゃろうて」

「金貨十枚か。そんなに安くていいのか?」

「もちろんじゃ。狭い土地じゃしのう。それに町としても、お主に住んでもらう方が好都合じゃ。書類を用意しておく。土地は分かりやすく柵で囲んでおこう」

「分かった。頼むよ」

 

 町長との話を終え、俺は町役場を出た。


 俺の過去を伝えに来ただけだが、土地の購入へ話を誘導した町長。

 俺がティルコアに住み続けることで、町の治安維持に繋がると考えた町長の作戦は見事だ。

 もちろん俺もこの町に住み続けるつもりだから、この話はお互いにとってメリットしかない。


「家か。今度海の石(オルセ)のジルダに相談してみるか」


 新しい自宅のことを考えながら、次の目的地へ移動する。

 だが、次はレイリアだ。

 俺は浮かれた気持ちを引き締めた。

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