表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/239

第88話 田舎の訪問者5

 ギルドハンターに任命された俺は、翌日からウィルの指南を受けることになった。

 ウィルが言うには、俺のギルドハンター適性は問題なく、むしろ向いているそうだ。


 正式な任命書は後日送られてくる。

 なお、俺のギルドハンター就任に関して、ギルド上層部以外には極秘だ。

 ティルコア出張所にも知られてはいけないと念を押された。


 ムルグスは一週間ほど滞在して町を視察。

 中央局の局員として、急速に発展していくティルコアの問題点を挙げていた。

 この問題点と、ムルグスの権限を使えば、この町に皇軍の駐屯はほぼ確実だそうだ。


 ムルグスとウィルが滞在してる間は、毎日三人で酒を飲み、仕事の苦労などを笑い飛ばした。

 そして、ムルグスは皇都タルースカへ、ウィルは冒険者ギルドの総本部へ帰っていった。


 ◇◇◇


 タルースカ空港に到着したムルグス。

 迎えに来ていた馬車に乗り込む。


「室長、出張お疲れ様でした。いかがでしたか?」

「魚と酒が美味かったねー」


 普段は昼行燈として知られているムルグス。

 緊張感のかけらもない、間延びした口調だ


「いいですね。私もいつか行ってみます」

「これから発展する町だからね。行くといいよ。楽しいよー」


 部下から分厚い書類の束を受け取ったムルグス。

 不在時の報告書だ。

 ムルグスは部下と会話を楽しみながらも書類に視線を落とし、ページを一枚、また一枚と素早くめくっていく。

 全てを読み終えると、的確な指示を出していた。


 馬車は特殊諜報室(ホルダン)の本拠地である中央局都市開発室に到着。

 室長室へ移動したムルグス。

 部下が淹れた珈琲を口にすると、机に両肘をつき手のひらを組む。

 そして、表情を引き締めた。


「マルディンのことは放置して構わない」

「え? 放置……ですか?」

「奴は本当に祖国を追放され、この国に移住しただけだった。何の野心もないし、国や町に危害を加えることもない。むしろ、町を守る存在になっているほどだ」

「そ、そうだったんですね」

「マルディンはティルコアに永住するつもりだ。もうエマレパ国民といってもいいだろう。となると、あれほどの腕を冒険者ギルドだけに使うのはもったいない」

「え?」

「我が国のためにも力を使ってもらう」

「どういうことですか?」


 ムルグスの口元が僅かに緩む。


「つまり、仕事を依頼するってことだ」

「仕事ですか?」

「そうだ。戦闘力、行動力、判断力など全てにおいて突出している。この国に、私と同等の諜報員はいると思うか?」

「いえ、おりません。誠に失礼ながら、諜報という観点では陛下も及ばないかと……」

「マルディンは私と同等だ」

「え! ま、まさか!」

「凄いだろう。それほどの人材がこの国に来たんだ。それに見た目は外国人だ。容姿が役に立つこともあるだろう」


 ムルグスは背もたれに身体を預けた。


「ひとまず、今後のことは考えるよ」

「かしこまりました。それでは、失礼いたします」


 部下が退室するため、扉へ向かう。


「そうそう。くれぐれも陛下には悟られるんじゃないよー」

「も、もちろんでございます!」


 扉が完全に閉まったことを確認し、ムルグスは椅子を回転させ、窓の外に視線を向けた。


「それにしても、いい友人ができたな。ははは」


 マルディンと飲み明かした日々を思い出し、笑みがこぼれるムルグスだった。


 ◇◇◇


 ギルドハンターの指南役を努めたウィル。

 剣の稽古も行ったが、実力的には問題ないどころか、自分と互角だったことに驚きを隠せなかった。

 もし実戦で糸巻き(ラフィール)を使われたら危ないかもしれない。


「さすが次期団長と言われただけあるな。頭も切れる。あれほどの戦力を手放したジェネス王国はマジで愚かだよ」


 マルディンの吸収力と理解力は高く、五日間を予定していた授業は二日で終わった。


「いやー、あんな人材が手に入るなんて、ギルドは良い買い物したよ。契約金を奮発してもいいんじゃないかな。アイツおもしれーし、今すぐにでもうちの騎士団で雇いたいくらいだ。ハハ」


 マルディンへの指南が早々に終わっても、ウィルは予定した滞在を切り上げることはなかった。

 ティルコアの魚料理を楽しみ、マルディンたちと酒を飲む日々を過ごすウィル。

 遅めの夏休みと勝手に称していた。


 そして全ての日程が終了し帰国。


 ティルコアからラルシュ王国まで移動は、飛空船を乗り換えれば二日だ。

 これがもし以前のような陸路だったら、一ヶ月以上かかっていただろう。


 ギルド総本部に到着したウィルは、さっそくマスター室を訪れた。


「ただいまー」

「あら。ウィル、おかえりなさい」


 ギルマスのオルフェリアが出迎えた。

 応接用のソファーへ移動し、ウィルに珈琲を入れるオルフェリア。


「マルディンはどうでした?」

「黒紙だもん。断れるわけないっしょ。ちゃんとギルドハンターをやるってさ」

「それは良かったです」

「だけど、ちょっと予定が変わったよ」

「変わった?」

「マルディンはランク昇格試験受けるよ」

「もう実力を隠さないってことですか?」

「そうだね。色々と悩んでたけど、吹っ切れたみたい。町を守るってさ。良い顔してたよ」

「でもギルドハンターを引き受けたんですよね? 最終的にどう着地させたのですか?」

「これまでと変わらず、普段はティルコアで冒険者をやる。こちらから依頼した時だけ、ギルドハンターをやってもらうことにした。いいよね?」

「なるほど……」


 カップを手に持つオルフェリア。

 珈琲豆の芳醇な香りを楽しむかのように瞳を閉じた。

 自国産の珈琲をゆっくりと堪能し、ウィルへ視線を向ける。


「ウィル、良い判断をしましたね。お見事です。私たちは慣例に囚われず、時代に合わせて柔軟に対応していく必要があります。あなたに行ってもらって良かったです。フフ」


 褒められたウィルは、右手の人差し指で鼻先を軽く弾いた。

 間違いなく照れている。

 そんなウィルを優しく見つめるオルフェリア。


「マルディンがティルコアに滞在するのであれば、サポートをつけてあげましょうか」

「それいいね。連絡含め雑務を任せられれば、ギルドハンターに集中できるもん」

「もう少しすれば、ティルコア出張所が支部に昇格する通知も届くでしょう。これからマルディンは忙しくなりますよ」

「田舎町でくすぶってたみたいだけど、アイツがやる気を出せば楽勝だよ」

「あら、あなたが人を褒めるなんて珍しいですね」

「そ、そんなことないって! でもさ、聞いてよ。傑作なのが、アイツってさー」


 嬉々としてマルディンのことを話すウィル。

 オルフェリアは笑顔を浮かべながら、その話に耳を傾けていた。


 ◇◇◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ