第79話 嬉しい知らせ1
冒険者ギルドの食堂。
俺はカウンターで注文した飯を待つ。
「マルディン、お待たせ! 白雲茸と小魚のパスタだよ」
「おお、ありがとう。フェルリート」
「大盛りにしておいたよ」
「分かってるな。今日はマジで腹減ってたんだよ」
クエスト帰りの俺は、ギルドの食堂で夕飯を食べることにした。
「ねえ、マルディン。今日は何したの?」
「今日は採掘クエストだ。最近ツルハシにハマってんだよ。鉱石の採掘が楽しくてな」
「へえ。じゃあ綺麗な鉱石とかも見つけたりする?」
「ああ、たまに見つけるぞ。今回も見つけたしな」
俺は小さな革袋を取り出した。
「これやるよ」
「なに?」
「フェルリートに渡そうと思って採ってきた」
「えー! 凄い!」
「採掘権はどこにもない山だから大丈夫だ」
喜ぶフェルリート。
小さな鉱石を人差し指と親指で掴み、夕陽が差し込む窓へかざしている。
「綺麗!」
「喜んでくれて何よりだ」
パスタを頬張ると、秋に採れる白雲茸の風味が鼻を抜けていく。
そして、海水で釜揚げした小魚の塩気が潮の香りを運ぶ。
山と海の絶妙な絡み合いに、心からこの町に越してきて良かったと感動していた。
「くう、ダメだ。美味すぎる。もう麦酒も飲んじまおうかな」
あまり美味さに麦酒の注文を迷っていると、ロビーから足音が聞こえた。
子供が走ったような雑な足音。
「ラミトワだな」
「おい! おっさん!」
俺が呟くと同時に、叫ぶ声が聞こえた。
予想通りラミトワだ。
「今日はどうしたのかな? お子様は」
「ふっふっふ! もう子供とは言わせねー! 見ろこれを! 私に跪け!」
ラミトワが背中を反らし、左手を腰に当て、右手を正面に突き出す。
その右手には何かを握っていた。
「ん? なんだ?」
「よく見ろおっさん! 老眼か?」
「こ、こりゃ……」
「気づいたか! 気づいたら今すぐ跪け!」
ラミトワが持っている一枚のカード。
運び屋カードだ。
それもBランクと記載されている。
「お、お前! Bランクに受かったのか!」
「そうだ! 凄いだろ! 跪け!」
「凄いじゃないか! 子供なのに!」
「子供じゃねーっつってんだろ!」
怒りながら俺に迫るラミトワ。
「あらー、ラミトワちゃん。Bランク受かったのねえ。おめでとう」
「こ、この声は」
階段に視線を向けると、手すり越しにラーニャの姿があった。
ゆっくりと階段を下りてくるラーニャ。
「凄いわねえ。おめでとう、ラミトワちゃん」
「へへへ。ラーニャさん、やったよ!」
ラーニャに運び屋カードを見せるラミトワ。
二人とも嬉しそうだ。
こういう光景はいつ見ても感動する。
「マジで凄いぞ。おい、ラミトワ。何でも好きなもの注文しろ。お祝いで奢ってやる」
「え! いいの!」
「もちろんだ。お祝いってのは盛大にやるもんだ」
「やったー! マルディン大好き!」
「調子のいい奴め。何でもいいぞ」
「じゃあね、私はピッツァとカレーと角大羊の煮物と黒森豚の塩焼き! あと蜂蜜酒も!」
「いいぞ! 食え食え! あっはっは」
喜ぶラミトワを眺めていると、背後から肩を軽く叩かれた。
「ん?」
「マルディン」
「お、なんだ。アリーシャじゃないか」
振り返るとアリーシャが立っていた。
少し照れくさそうな笑顔を浮かべている。
「ん? どうした?」
「あの、これ」
アリーシャが解体師カードを取り出した。
「カード? って、お前、まさか!」
「はい! 私もBランクに受かりました!」
「マジか! すげーじゃねーか! やったな! おめでとう!」
「はい、ありがとうございます!」
アリーシャが、ラーニャの元へ駆け寄った。
「ラーニャさん! 私も受かりました!」
「凄いわねえ! アリーシャちゃんもおめでとう!」
ラーニャがアリーシャを抱きしめる。
俺も本当に嬉しい。
今日のクエスト報酬は、全部この二人のために使おう。
金なんて明日また稼げばいい。
「アリーシャもお祝いだ! 何でも食え! いや、今日はもう合格パーティーだ! 全部奢るぞ!」
「いいわねえ。私も出すわよ」
「え! ラーニャが?」
「そうよ。私が二人にお願いしたんだもの。それに私こう見えてここの責任者なのよ?」
「そうだったな。あっはっは」
結局、俺とラーニャ以外も、この場にいる冒険者たちが金を出し合い、急遽食堂で合格パーティーを行うことになった。
「あちゃー。始まっちゃった。嬉しいけど……、どうしよう」
フェルリートがカウンターで、笑顔を見せながらも困惑の表情を浮かべている。
「ん? どうしたんだ?」
「今日って、私一人しかいないんだよ」
「なるほど。それはマズいな。俺は手伝えないし……」
俺たちの会話が聞こえたのか、アリーシャがカウンターに近づく。
「ウフフ、手伝いますよ。フェルリート」
「え? いいよ! アリーシャのお祝いだよ! 座っててよ!」
「大丈夫よ。あなた一人じゃできないでしょ? 一緒にやるわよ」
「う、うん。ありがとう、お姉ちゃん」
アリーシャはフェルリートが相手だと、たまに口調が変わる。
二人は姉妹のような関係だ。
他にも調理が得意な者たちがキッチンへ入った。
全員が顔見知りの小さなギルドだから、できることだろう。
この温かさが心地良い。
「おい! テーブル並べとけ!」
「料理出るぞ!」
「人数分の麦酒注げよ!」
「樽ごと出せ!」
手伝っている冒険者どもの怒声が飛ぶ。
だが、全員見事な連携で動いていた。
――
「主任! 挨拶をお願いします!」
準備が整うと、仕事を終えたパルマが、ラーニャに麦酒の樽ジョッキを手渡した。
「今日はアリーシャちゃんと、ラミトワちゃんのBランク合格パーティーよ。皆盛大にお祝いしましょう。そして、皆も二人に続いて上位ランクを目指してね。それじゃ、乾杯!」
「「「かんぱーい!」」」
この場にいる数十人で乾杯した。
ラーニャと酒を飲むのは控えたいところだが、今日は特別だ。
もちろん、ラーニャが本気を出す前に消えるつもりだが。
カウンターで酒を飲んでいると、ラーニャが俺の隣に座った。
「二人ともよくやってくれたわあ。本当に嬉しいわね」
「二人はずっと勉強していたからな。努力していたよ」
「ええ、若いのに大したものだわ。このギルドで初めてのBランク解体師と運び屋だもの。皆にとっても良い目標となったわね」
ラーニャの言う通り、二人の合格は良い刺激になったようだ。
解体師たちはアリーシャ、運び屋たちはラミトワを囲み、熱心に話を聞いている。
特にラミトワは、このギルドに所属する運び屋で最も若い。
それなのにBランクの取得という快挙を成し遂げた。
本当に素晴らしい。
だが一つ気になることがあった。
試験代だ。