表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/161

第76話 町の発展の光と影3

 俺は一度自宅へ戻り、部屋の奥にしまっていた道具箱から、古いリング状の糸巻き(ラフィール)取り出す。

 そして、全身を隠せるほどの大きいフード付きマントを持ち出した。


 続いて、ヒクル爺さんが売り場としている裏路地へ移動。

 蜜黄玉(カミュ)の木箱を並べるヒクル爺さんの姿を見つけた。


「爺さん。身体は大丈夫か?」

「ああ。マルディン。昨日はありがとう」


 顔をこちらに見せるヒクル爺さん。

 いつもの優しい顔だが、すぐに異変に気づいた


「じ、爺さん! 顔が腫れてるじゃないか!」

「こんなもの怪我のうちに入らんよ」

「レイリアに診てもらった方がいいぞ」

「大丈夫じゃ。明日には引くじゃろ」

「ダメだって。その腫れじゃ数日は続く」

「分かったよ。後で診療所へ行くよ」

「ああ、急いでな。その代わり俺がここで蜜黄玉(カミュ)を売るよ」


 爺さんに事情を説明した。

 俺が爺さんの振りをして、ここで蜜黄玉(カミュ)を売る。

 昨日の男が来たら捕まえて、アジトへ案内させるというものだ。


「マ、マルディンが危険じゃないか」

「大丈夫だよ。俺は慣れてるから」

「し、しかし」

「俺に任せろって。何も問題ないさ」

「わ、分かった。じゃあ、今から診療所へ行って、終わり次第ここへ戻る」

「そうしてくれ。もし俺がいなかったら、アジトへ行ってるはずだ。その時はここを片付けてくれ」

「分かった。くれぐれも無理をするでないぞ」

「ああ、ありがとう」


 診療所へ向かうヒクル爺さんを見届け、俺はフード付きマントを羽織り、蜜黄玉(カミュ)を売り始めた。


 ――


 太陽がそろそろ頭上に差しかかる頃、昨日の男が姿を現した。


「おい! ジジイ! 昨日はやってくれたな」

「わ、儂は何もしとらん」

「昨日のやつはいねーな!」


 周囲を見渡す男。

 蜜黄玉(カミュ)が入った木箱を蹴り上げた。

 散らばる蜜黄玉(カミュ)をいくつか踏み潰す。


「金を払え。ここで商売するには、俺たちに金を払う。それが新しいルールだ」

「金なんか払ったら生活できん」

「じゃあ死ね! ギャハハハ!」


 男は笑いながら、俺の太ももを蹴ってきた。


「おめー、ジジイのくせにかてーな」


 俺から目を離し、自分の足をさする男。

 その瞬間、俺は糸巻き(ラフィール)を操作。


「な、なんだ!」


 男の上半身を(フィル)で巻取り拘束した。

 そしてフードを脱ぐ。


「ふう。秋とはいえ、こんなものを被ったら暑いぜ」

「て、てめえ! 昨日の!」


 俺は男に近寄り、足払いで地面に転ばす。

 腕ごと(フィル)で拘束されているため、男は顔面から石畳に落ち強打した。

 顔中から血が流れ、鼻が大きく曲がり、前歯も全て折れている。


「ぐああああああっ!」


 俺は構わず、男の額を石畳に叩きつけた。

 石畳と頭蓋骨がぶつかる鈍い音が響く。


「ぐっ!」

「アジトはどこだ」

「は、離せ!」

「アジトはどこだ?」


 俺は低い声で感情を出さず、頭を押さえつける腕に力を込めた。


「いてえって! 潰れる! 潰れるから!」

「もう一度聞く。アジトはどこだ?」


 俺は男の髪を掴み、潰れた蜜黄玉(カミュ)に目を向けさせる。


「お前も同じようになりたいか?」


 もう一度石畳に頭を押しつけた。


「分かった! 分かったから!」


 男の身体を起こした。


「ここから近いのか?」

「……ああ」

「アジトには何人いる?」

「そ、それは……」


 答えない男の腹を殴った。


「ぐほっ!」


 身体を折り曲げ、涎を垂らす男。


「ぐうう。ご、五人だ」

「今から行く。案内しろ」

「は?」

「案内しろって言ったんだ」


 拳を握り、腹を殴る素振りを見せた。


「分かった! 案内する!」

「立て」

「ほ、本当にこのままアジトへ行くのか?」

「そうだ」

「援護は呼ばないのか」

「余計なことを喋るな。黙って連れて行け」


 男の顔に安堵が見えた。

 恐らく、仲間がいれば俺をどうにかできると思っているのだろう。


 男から(フィル)を外し、改めて上半身をロープで拘束。

 俺は散らばった蜜黄玉(カミュ)を拾う。

 この宝石のような蜜黄玉(カミュ)を平気で潰すこいつらに、怒りしか湧いてこない。


「行くぞ」


 しばらく裏路地を歩くと、男が一軒の古びた酒場の前で立ち止まった。


「こ、ここだ」

「なるほどね。近いから爺さんを標的にしたのか」

「ど、どうするつもりだ」

「行くに決まってるだろう。お前らごときが束になろうが問題ない」

「な、なんだと!」


 反論しようとしたロープの男に対し、俺は見せつけるように剣の柄に触れた。

 威勢を失くすロープの男。


「や、やめろ」

「中に入れ」

「わ、分かった」


 中に入ると、酒場は完全に廃墟となっていた。

 数本の蝋燭に火がつけられだけの薄暗い店内。

 埃を被ったテーブルと椅子。

 カウンター奥の棚には、蜘蛛の巣がはってるほどだ。

 そのまま奥へ進むと、地下に続く階段があった。


 階段を下りると扉が一つ。


「お前が先に入れ」


 俺が扉を開け、ロープの男を先に部屋へ入らせる。

 続いて俺も入った。


「早かったじゃねーか。って、おい……」

「お前なにそれ?」

「縛られてんのか?」

「顔が血だらけじゃねーか」


 部屋にいる仲間がロープの男に声をかけた。

 焦った表情を浮かべているロープの男。


「す、すまねえ。しくじった」


 仲間に謝るロープの男。

 だが、その表情は完全に安心しきっている。


 地下室は酒樽の倉庫のようで、なかなか広い。

 壁際にはいくつもの酒樽が並び、部屋の中央にソファーが二列、その奥に机が配置してある。

 人数は八人で全員男。

 右のソファーに三人、左のソファーに四人、奥の机に一人。

 ソファーに座る男たちが、俺の姿を見て不審な表情を浮かべている。


 五人という話だったが、少なく伝えて油断させるつもりだったのだろう。

 だが俺にとっては、五人が八人に増えたところで誤差にもならない。


「お前誰だ?」


 机の男が俺に声をかけてきた。


「この町で、お前たちが何をするのか全部話せ」

「全部話せって……。お、お前……」


 全員が黙る。

 だが、すぐに誰かが吹き出した。


「「「「ひゃはははは!」」」」


 全員が一斉に大声で笑う。


「一人で乗り込んできて。全部話せって。ぎゃはは」

「こいつ、頭いかれてんぞ」

「麻薬やってんのか?」


 ソファーにいた一人の男が、曲剣(シャムシール)を抜く。


「面白れーから、ちょっと相手してやるか」


 右手に曲剣(シャムシール)を持ち、俺に近づいてくる。


 俺は背後にある扉の鍵を閉めた。

 誰一人として逃がさないためだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ