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【書籍化決定】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第三章 真夏の初体験

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第72話 夏風邪にご注意を1

 朝起きると身体の節々が痛む。

 頭も痛い。


「なんだ……これ」


 昨日は酒を飲んでないから、二日酔いではないはずだ。


「ごほっ、ごほっ」


 咳まで出ている。

 身体が熱い。


「まさか……風邪か? ごほっ」


 昨日は爺さんの帽子を取りに行って川に入った。

 そろそろ夏は終わるが、それでもまだ暑い。

 濡れたくらいで風邪なんか引くわけないだろう。


「だけど……、それ以外に……、原因は。ごほっ、ごほっ」


 体調不良なんて何年ぶりだ。

 吹雪の雪中行軍でも平気だったのに。


 ベッドから起き上がろうにも身体が動かない。


「く……。身体が……いてえ」


 今日は何もできない。

 このまま寝た方が良さそうだ。


「あ、天井が回って……」


 ◇◇◇


 朝を過ぎた頃、一人の女がマルディンの自宅を訪れた。


「マルディンいる?」


 扉を叩くが返事はない。


「おかしいわねえ。今日は朝からギルドに顔を出すはずなんだけどお?」


 女が扉に手をかけると、鍵はかかってなかった。


「開いてる?」


 部屋に入る女。


「マルディンいるう?」


 リビングを見渡しても人はいない。

 当たり前のように寝室へ入っていく女。

 まるで自宅のように振る舞う図々しさだ。


「あら、まだ寝てるの? 朝は過ぎたわよ?」

「ラ、ラーニャか……」

「あれ? あなた顔が赤いわよ?」

「身体が……動か……なくて……」

「あらあら。季節の変わり目とはいえ、夏に風邪なんて引くのかしら。何したの?」

「川……」

「川で泳いだの? あなた泳げないんでしょ?」

「ちが……。川を……渡……」

「何? 川を渡ったの? どうして? 泳げないのに? バカなの?」


 答えるのも辛いマルディンに向かって、容赦なく質問を繰り返すラーニャ。

 意識が朦朧としているマルディンだが、怒りだけははっきりと分かった。

 そのまま無視を決め込む。


「あなた昨日、大爪熊(ベルア)を仕留めたじゃない。その死骸を回収したのよ」


 それでも関係なくマルディンに話しかけるラーニャ。


「だから、今日ギルドで素材報酬を受け取るって言ってたでしょ。待ってたのに来ないんだもの。ちょっと近くで用事があったから、ついでに寄ってみたのよう。うふふ」


 マルディンは完全に無視している。

 もちろん、頭痛と発熱でそれどころではない。


「ねえ、聞いてる?」

「ごほ、ごほ」

「もう、咳なんてしちゃって。せっかく来たんだから、楽しくお喋りしてよ。ねえ」

「か、かえ……れ」

「あらあら、酷い言われようね。報酬持ってきてあげたのよ?」

「ごほ、ごほ」

「全くもう。仕方ないわね。待ってなさい。とびっきりのお薬用意してあげるから」

「余計な……こと……すん……な。かえ……れ」

「手がかかる子ってやあねえ。待ってなさいよお。うふふ。うふふ」


 テーブルに報酬の革袋を置き、笑って家を出たラーニャだった。


 ◇◇◇


「マルディン。いる? 入るわよ?」


 また女の声が聞こえる。

 あの最悪なラーニャがやっと帰ったというのに。

 もういい。

 一人にしてくれ。


「ちょっと! 大丈夫?」

「ごほ、ごほ」

「ラーニャの言った通りね。すぐに診るわ」


 額を触られ、手首を持たれ、口を開けられた。


「熱が酷いわ。脈も速い。喉も酷く腫れてるわね。これじゃ辛いに決まってる」

「ごほ、ごほ」

「ラーニャが診療所に来たのよ。マルディンが大変だから診に行きなさいって」

「レ、レイ……リアか」

「そうよ。ちょっと待ってね。薬を煎じるから」


 しばらくすると、寝たままの状態で口に容器を当てられた。


「薬よ。ゆっくり飲みなさい」


 少しずつ液体が流れ込んでくる。


「喉が痛いと思うけど頑張って飲み込んで」


 薬を飲むと、いくらか呼吸が楽になった。


「マルディン。私は明日の朝までここにいるから安心しなさい」

「だい……じょぶ……だ」

「何言ってるのよ。大丈夫じゃないでしょう? 何か欲しいものある?」

「だい……じょぶ」


 そのまま眠りについた。


 ――


「マルディン」

「う……」

「起こしてごめんなさいね。お昼のお薬飲むわよ」

「レイ……リア……」

「なあに?」

「すま……ん。あり……がとう」

「何言ってるのよ。気にしないで甘えなさい。ほら、お薬よ」


 さっきよりも、僅かに飲み込めるようにはなった。


「食事を作ったわ」

「食欲が……ない」

「そうよね。でも食べなきゃ。ほら、身体を起こすわよ」


 レイリアに支えられ、身体を起こした。

 食べさせてもらってるが、何を食ってるのか分からない。


「よく食べたわね。さすがだわ。じゃあまた寝なさい」


 ――


「マルディン。起きて。夕方のお薬を飲むわよ」

「う……。あ、ああ」


 レイリアが背中を支えながら、身体を起こしてくれた。

 まだ頭痛は酷いし身体は動かないが、今朝よりは楽になった。


「少し……楽になった」

「そう、良かったわ。私、このまま朝までいるから安心して」

「いや……大丈夫」

「大丈夫じゃないのよ? 放っておくと肺が炎症を起こすわ。夏風邪を舐めないで。下手したら命に関わるの」

「大丈夫だ」

「あのねえ。医師の私が言ってるのよ。仕事道具も持ってきてるし、ここで事務仕事するわね。あ、後でお風呂借りるわよ」


こんな状態の俺には何も言い返すことができない。


「すまん」

「いいのよ。あなたにはたくさんお世話になってるもの。夕飯食べたらまた寝なさいね」


 その後、夕飯を取り、薬を飲むと眠りについた。


 ――


 目が覚めると、天井に映る影が揺らめいている。

 蝋燭の火だ。


「ん?」

「起こしちゃった?」


 ベッドの隣のテーブルに、レイリアの姿があった。

 書類仕事をしているようだ。


「まだいたのか?」

「朝までいるって言ったでしょ」

「そうはいっても、こんなところに朝までいて大丈夫か?」

「何の心配? 私の家のこと? 私の体調のこと?」

「両方だ」

「大丈夫よ。子供じゃないんだから。外泊したくらいで怒られるわけないでしょう。とはいえ、患者さんに付き添って朝まで一緒にいることはないけどね。うふふ」


 窓はカーテンが閉められている。

 外の様子は分からない。


「もう夜だろう?」

「月が頭上を越えたわね」

「深夜じゃないか。お前寝ないのか?」

「ええ、まだ仕事が残ってるのよ」

「仕事って。今日もずっと仕事してただろう?」

「大丈夫よ。いつもこんなものだもの」

「医師か。大変だな」

「うふふ。そうね。でも、町の人の健康のためだもの。頑張れるわ」

「そうか。レイリアは凄いな」

「何言ってるの。あなたの方が凄いわよ。この町へ越してきて、たった半年で何人の人を救ったと思ってるの? 皆感謝してるのよ」

「ん? 何もしてないぞ?」

「うふふ。無自覚って嫌ね。さ、ちょっと診察するわ」


 脈や心音など、一通りの診察が終わった。

 こうなった原因として、川に入った状況なども伝えている。


「直接的な原因は身体が冷えたことだけど、これまで溜まっていた精神的な疲労が一気に噴出したと思うのよ」

「まあここまで色々……あったからな」

「この町に来たことで安心できたってことよね。良い意味で緊張が解けたのよ」

「そうだな。俺はこの町が気に入ってるよ」

「うふふ。嬉しいわ。いつまでもいてね」

「そうだな」

「さ、薬を飲んで寝なさい」


 レイリアが薬を煎じてくれた。

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