表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/160

第65話 新装備の注文とそれぞれのこだわり3

「はい。お願いいたします」


 アリーシャが姿勢を正し、お辞儀をした。


「何を希望だ?」

四角竜(クワロクス)の素材から作った解体道具一式です」

「一式か。まあこれは定番だな。開発機関(シグ・ナイン)共通の図面がある。追加や特別な注文はあるか?」

「いえ、まずは作っていただいて、そこから少しずつ自分用に手を加えようと思ってます」

「ふむ。それじゃあ加工代は金貨五枚だ」

「ありがとうございます」

「調整は自分でやるのか?」

「はい。私は刃の動かし方に少し癖があるので、自分で調整します」

「なるほどな。腕の良い解体師は自分の癖を把握している」

「そ、そんなことないです!」


 少しだけ頬を赤く染め、両手を胸の前で小さく振るアリーシャ。


「ふむ。それなら調整道具も同じ素材で作るか? 統一感が出てかっこよくなるぞ」

「え! いいんですか!」

「ああ、追加で銀貨五枚をもらうがいいか?」

「はい! ぜひ、お願いいたします!」


 すぐに話がまとまった。

 解体師道具の一式は開発機関(シグ・ナイン)の道具屋でも販売している。

 材料があれば、すぐに作ることができるのだろう。


「さて、最後はマルディンだな。どうする?」

「俺は剣と鎧と道具類の作製。そして糸巻き(ラフィール)の調整だ。数ヶ月使用して改善点が出てきた」

「分かった。装備の作製は俺がやる。糸巻き(ラフィール)はリーシュがやれ」

「はい!」


 グラントが肩を叩くと、リーシュは手を挙げて返事をした。


「ところでマルディン。お前、弓は持たないのか? 冒険者は弓も使うだろ? 一緒に作るか?」

「俺は弓が苦手でね。それにこの糸巻き(ラフィール)があれば、ある程度弓のように使用できる。この間も改造した投網をつけて狩りで使えるようにしたんだ」

「そうか。だが弓とは射程距離が違うだろ? 四角竜(クワロクス)の大角なら極上の弓を作れるぞ?」

「まあうちにはラーニャがいるからな。弓はいいよ」

「そうか、そうだったな。あいつ弓もすげーからな」

「弓……も?」

「ああ、弓の腕に加え、作戦の立案に長けてる。指揮官タイプだよ」

「……指揮官」

「うむ。言いたいことは分かる。だけどな、あいつにも良いところはたくさんあるんだよ。わはは」

「そ、そうか」


 性格に問題はあるが、冷静に考えると確かに優秀な指揮官と言ってもいいかもしれない。

 問題はあるが。


 グラントが一枚の紙に、費用を書き出している。


「えーと、今回は剣と鎧だろ。あとは道具一式だから、採取短剣(コルテッロ)、バッグとベルト……。そうだ。新しい単眼鏡を仕入れたぞ。これもつけるか?」

「ああ、全て最新にしてくれ」 

「よし。計算終わったぞ。剣も鎧も市販の型を使用するなら、全て込みで金貨二十枚。もし細かく注文するなら、それに応じた金額になる。大体倍くらいだな」

「この際だから専用に作りたい。要望を書き出しておいたんだ。これを見てくれ」


 俺は以前、新装備の要望を書き出していた。

 グラントに手渡す。


「ほう、お前慣れてるな。さすがだ。じゃあ、これを元に地下で調整しよう」

「ああ、頼むよ」


 地下へ移動し、実際の剣と鎧を使用しながら調整内容を詰めた。

 作製の参考にするため、試し切りで巻藁も数本切り落とす。

 可能な限り細かく注文したことで、俺の費用は金貨四十五枚となった。

 かなりの大金だが、先日の四角竜(クワロクス)では特別報酬もあったし、払えない金額ではない。

 とはいえ、しばらくクエストを頑張らないと、俺の懐は厳しい状況だ。


「グラント。作製中にもクエストへ行きたいんだが」

開発機関(シグ・ナイン)の装備を貸し出す。安心しろ」

「そうか。そりゃ助かるよ」

「そこそこ高性能だぞ。討伐系へ行ってみろよ」

「まあ様子見てな。あっはっは」


 これで俺たちの注文は全て終わった。


 ――


 俺が借りる装備一式は、ティルコアのギルドへ送ってくれるそうだ。

 手続を終え、ギルド一階のロビーへ移動。


「意外と時間がかかっちまったな」


 窓から外を眺めると、すでに夕焼けが始まっていた。


「今から帰ると深夜だ。泊まっていくか?」

「そうですね。さすがに夜の移動は危険です」

「私、宿に泊まるの好き!」


 仕事を上がったリーシュもいる。


「あ、じゃあ、ギルドと提携してる宿を紹介します。皆さんギルドのカードを持っているので安くなります」

「そうか。助かるよ」


 ギルドを出て宿へ向かう。

 しばらく歩くとアリーシャが俺の腕を掴み、引き止めた。


「マルディン。ご飯を食べに行きませんか? 今日は私がご馳走します」

「え? なぜだ?」

「実は夏祭りのメニュー開発で、少し多めに報酬をいただきました。しかも、ラーニャさんがお詫びと言って、さらに金貨を一枚追加してくれたんです。でもお詫びってなんでしょうね。急に決まったからでしょうか」

「お詫びね……」


 恐らく、アリーシャを賭けの対象にした詫び代だろう。

 理由は話さなくとも、この金貨で全てをなかったことにするつもりだ。

 しっかりしてるというか、汚いというか、やり方がラーニャらしい。

 とはいえ、一応罪悪感は感じていたようで安心した。


「なるほどね。じゃあ、お言葉に甘えて、ご馳走になっていいのかな?」

「はい! もちろんです! いつもご馳走になってますし」


 アリーシャがリーシュに視線を向ける。


「リーシュさんもぜひ」

「え! いいんですか!」

「もちろんですよ」

「やったー! ありがとうございます!」


 俺は喜ぶリーシュの肩に手を置いた。


「良かったな、リーシュ」


 リーシュの身長はラミトワと変わらない。

 とても小さい。

 だが、その食欲は無限だ。

 Aランクの最強モンスター、暴王竜(ティラキノクス)のように肉を食らう。


「アリーシャ、覚悟しとけよ。あっはっは」

「え? どういう意味ですか?」

「行けば分かる。あっはっは」


 不思議そうな表情を浮かべるアリーシャ。


「さあ、行くぞ! 美味い店があるんだ。肉なら何でも揃う店だぞ。あっはっは」

「え! お肉!」


 俺の言葉にラミトワが両手を挙げて喜んでいる。


 全員で商店街へ向かい、店の入口に黒森豚(バクーシャ)の剥製が置いてある食堂へ入った。

 以前リーシャと行った店だ。


 ――


 四人がけの座席につき、さっそく肉を注文。

 今回はテーブルでの網焼きを選んだ。

 店員が焼台をセットし、燃石に火をつける。


「そういや、リーシュは肉の焼き方にうるさかったな。あっはっは」

「はい! 肉のポテンシャルを引き出すためには、最高の焼き加減じゃないといけないんです!」

「そ、そうか。頑張れよ」


 この娘は何を言ってるのだろうか。


 運ばれてきた牛鶏(クルツ)角大羊(メリノ)黒森豚(バクーシャ)茶毛猪(グーリエ)の生肉。


「あら、なかなか良い肉ですね。じゃあ焼いていきますね」


 俺の隣に座るアリーシャが、手際良く焼いていく。


「ほら、ちょうどいいですよ。私が焼くので、どんどん食べてください」

「わーい! アリーシャ大好き! 結婚して!」


 アリーシャの正面に座るラミトワが、一切の遠慮をせず、網から肉を取っていく。

 だが、俺の正面に座るリーシュの動きが止まっていた。


「リーシュ? どうした? 食べないのか?」

「あ……。い、いや、あまりにも焼き方が完璧なので。す、凄い」

「そ、そうか。良かったな」


 そんなに驚くことなのだろうか。

 普通に肉を焼いているだけだと思うのだが。


「フフフ、ありがとうございます。こう見えて解体師ですし、実家は肉屋ですからね。一番美味しく食べるタイミングは分かりますよ」

「凄い! ア、アリーシャさん! いや、アリーシャ師匠! 私を弟子入りさせてください!」

「え? で、弟子ですか?」

「はい! 私は美味しい肉を食べるために日々研究しています! どうか、肉の焼き方を教えて下さい」

「え、ええ。いいですよ」

「やった! ありがとうございます!」

「じゃあまず、牛鶏(クルツ)の焼き加減はですね……」


 若干引きつった笑顔を見せつつも、丁寧に肉の焼き方を教えているアリーシャ。

 瞳を輝かせ、熱心に聞くリーシュ。

 一切気にせず、ひたすら肉を食べているラミトワ。


「おもしれー飯になったな。あっはっは」


 リーシュのこだわりは全く理解できないが、好きなことに一生懸命な姿は微笑ましい。


「熱中できるってことは良いことだ。うんうん」


 俺は呟きながら、白煙をあげる茶毛猪(グーリエ)を取った。


「あ! マルディンさん! その肉はまだです!」

「マルディン。私が取ってあげますから」

「おい、おっさん! それは私の肉だ!」

「早いもの勝ちだ! あっはっは」


 その後も騒がしく肉を食った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ