表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第三章 真夏の初体験

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/241

第64話 新装備の注文とそれぞれのこだわり2

 市街地を進み、冒険者ギルドに到着。

 ギルドには馬車や荷車を停めるスペースがある。

 ラミトワが荷車を停め、ギルド職員にシャルムの世話を依頼。


 開発機関(シグ・ナイン)はギルドの二階だ。

 俺たちは階段を上り、開発機関(シグ・ナイン)の道具屋へ入った。


「あ! マルディンさん!」

「おー! リーシュ! 久しぶりだな!」

「待ってたんです! 最近全然来てくれないから」

「わりーわりー。ちょっと忙しくてな」


 リーシュは十八歳と若いが、れっきとした開発機関(シグ・ナイン)の職員だ。

 身長は百五十セデルトほど。

 少し癖がある薄い緑色のショートヘア。

 瞳の色は驚くほど美しい金糸雀色(かなりあいろ)で、それを隠すかのような大きな丸い眼鏡が特徴的だ。

 発明家でもあり、俺の糸巻き(ラフィール)の開発者でもある。

 そして、一部からは天才と呼ばれていた。


「リーシュ、グラントは?」

「呼んできます」


 グラントはこのイレヴス開発機関(シグ・ナイン)の支部長だ。

 糸巻き(ラフィール)開発を依頼した際には、リーシュに任せるなど柔軟な思考を持っている。


「おお、マルディンか! 待ってたぞ!」

「久しぶりだな」


 奥の事務所から出てきたグラントと握手を交わす。

 グラントの年齢は四十歳と年上だが、今は友人のように接している。


「ラーニャから連絡はもらってる。四角竜(クワロクス)の素材も送られてきてるぞ。素材をチェックしたが品質は高い。大量にあるから何でも作れるぞ」

「ああ、助かるよ」


 俺は同伴している二人の背中に手を回した。


「この二人を紹介するよ。Cランク解体師のアリーシャ。そして、Cランク運び屋のラミトワだ」

「アリーシャです。よろしくお願いいたします」

「ラミトワです! よろしくお願いします!」


 優雅にお辞儀するアリーシャと、元気よく手を挙げるラミトワ。


「そうか、若いな。こっちの嬢ちゃんは、うちのリーシュと同じくらいか?」

「私は二十二歳だ!」

「そ、そうか。すまんな。ちっこいからそう見えちまったよ」

「ちっこくねー!」


 相変わらずのラミトワだ。

 俺は腹を抱えて笑った。


「この嬢ちゃんたちも装備を作るのか?」

「ああそうだ。二人とも腕は良いぞ。なんせBランクの受験を予定しているからな」

「なんだと! そりゃ凄いな! ほう、ほう」


 グラントは目を見開いて、アリーシャとラミトワを交互に見つめていた。


「で、マルディンは?」

「俺は装備一式を作って欲しい」

「違う違う。お前はBランクを受けないのかってこと」

「ああ、そっちね。俺は四角竜(クワロクス)に怪我させられたくらいだ。装備も破壊されたしな。俺にゃBランクなんて無理だよ」

「そ、そうか。お前なら余裕で取れると思うんだがなあ」

「まあ自分の実力は自分でよく分かってるよ。あっはっは」


 笑っていると、なぜかアリーシャとラミトワが俺の背中を小突いてきた。


「いてっ」

「「バカ!」」


 その様子を見て苦笑いしているグラント。


「ま、まあ立ち話もなんだ。会議室へ行こう。リーシュも来い」

「はい!」


 俺たちは店の奥にある会議室へ移動。

 八人がけの大きなテーブルに、俺とアリーシャとラミトワが並んで座り、対面にグラントとリーシュが座る。

 職員が人数分の珈琲を淹れてくれた。


「さて、一人一人要望を聞こう」


 右手を真っ直ぐに挙げるラミトワ。


「はい! はい! 私から!」

「げ、元気だな。じゃあ、ラミトワ嬢ちゃんから聞こうか」


 グラントが視線を向けると、なぜか立ち上がるラミトワ。

 何かの発表会のようだ。


「私は荷車を改良したいんだです」

「それは自分のものか?」

「そうだよです」

「サイズは?」

「小型だよです」

「その歳で自分の荷車を持つのは凄いな」

「頑張ったもんです」


 ラミトワの様子に吹き出したグラント。


「おめー。めんどくせーから普通に話せ」

「へへへ。荷車の乗り心地改善と、走行スピードを上げたいんだ。装飾もするけど、それは自分でやる。私のセンスを分かってくれる人がいないんだもん」

「ふむ。だがせっかくカスタムしても、小型荷車だとクエストでは使えないだろ?」

「うん。狩猟系クエストはギルドの大型荷車を使うよ。でも運搬クエストとかは自分の荷車で行くからさ」

「なるほどね。分かった」


 グラントが席を立ち、窓から顔を出す。

 下に停めた荷車を確認しているようだ。


「あの荷車か?」

「うん」

「おいおい。なんだよ、かっこいいじゃねーか。若いのに良い趣味してるぜ。おめー、分かってるな。センス良いぞ」

「え! ほんと!」

「ああ。あれは二十年前に、この地方で流行った荷車のカスタムだ。懐かしいぜ。俺もやったなあ。あの形状の小型荷車だから……そうだな。乗り心地、スピードアップ、加えて空気抵抗と装甲もやった方がいいだろう。車輪もサイズを上げるか。こりゃ腕がなるぜ」


 グラントが腕を組み、口元を緩めながら懐かしそうな表情を浮かべていた。


「ねえねえ、グラントおじさん。私、重蹄馬(ヴァーロ)の鎧も作りたいんだ」

「綺麗な重蹄馬(ヴァーロ)だな。名前は?」

「シャルムっていうんだ」

「シャルムか! わはは! おめーはマジで分かってるな! 異国の言葉で彗星って意味だぞ!」

「そうだよ! シャルムは彗星のように速いんだ!」


 興奮したラミトワがテーブルを叩く。


「わはは、気に入った。俺が全部やってやろう。素材は十分ある。荷車のカスタム、シャルムの鎧で金貨八枚ってとこだな」

「八枚かー。もう一声!」

「ちっ、仕方ねー。金貨七枚と銀貨五枚だ」

「そこをなんとか! 七枚で! お願い! 師匠!」

「くっ、おめーやるな。いいだろう。金貨七枚で全部やってやる」

「やった! やった!」


 俺は二人の会話に、全くついていけなかった。


「なあ、アリーシャ。荷車の何をするんだって? 何を話してんだ?」

「私も全く分かりません。フフフ」


 だが、さっきのアリーシャじゃないが、好きな話で盛り上がるラミトワの様子は微笑ましかった。

 話の内容が分からなくても、ラミトワが喜んでいるとこちらまで嬉しくなる。


「グラント師匠! ありがとう!」


 グラントを師匠と呼び、歓喜の舞を披露するラミトワ。

 もちろん変な踊りだ。


 苦笑いするグラントが、アリーシャに視線を向けた。


「じゃあ次はアリーシャだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ