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【書籍化決定】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第三章 真夏の初体験

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第61話 男たちの晩夏2

 俺もそこそこ酒を飲むが、漁師や石工職人はさすがだ。

 俺が一杯飲む間に三杯は飲む。

 皆いい感じで酔っている。

 なお、パルマは酒が弱く、まだ二杯も飲んでない。


 テーブルに置かれた三本の黒糖酒は全て空だ。

 四本目を注文した。


「ところでよ、パルマ。聞きたいことがあんだよ」

「なんだよジルダ」

「この間の対決んとき、石窯作っただろう?」

「お! あれな、すげー評判良いんだよ! あまりにも人気だから、ギルドの大型荷車を改造して、移動販売できるようにしたんだ。ラミトワのアイデアは凄いよ。今は色んなイベントに呼ばれて、ギルド職員が出張販売してるぞ」

「そ、そうか。それは別にいいんだがよ。その、ア、アリーシャさんの反応はどうよ?」

「アリーシャ?」

「そうだ。彼女、なんか言ってなかったか?」


 ジルダはアリーシャに好意を寄せている。

 それも、あまりに分かりやすい程に。


「え? あ、そ、そうだな。ほ、褒めてたぞ!」

「ほ、ほんとか!」

「ああ。『ジルダさんのおかげで、美味しい料理ができます』って喜んでたぞ」

「おっしゃー!」


 そんなことは言ってなかったような気もするが……。

 俺はパルマの先輩に対する気づかいに、感動を禁じ得ない。

 ここは黙っておくべきだ。

 パルマとジルダの会話を眺めながら、小魚の姿焼きをつまんでいると、突然グレクが俺を指差した。


「そうだ! おい、マルディン!」

「な、なんだよ」

「てめー聞いたぞ! レイリア先生と、デデデデ、デートしたんだってな!」

「おいおい、あんなのデートに入らんだろう。祭りへ行っただけだ」

「それをデートって言うんだよ!」

「治療後にお互い時間があって、たまたま祭りへ行くことになっただけだって」


 適当な嘘でごまかす。


「地上に女神が降臨したって評判だったぞ! 俺も見たかったんだよ!」

「まあ……確かに綺麗だった。それは異論ない」

「てめー、ふざけんじゃねーぞ!」


 俺の胸ぐらをつかむグレク。

 だが別に険悪ではないし、俺は気にせず黒糖酒を飲む。


「先生はな! 俺たち漁師が怪我した時は優しく励ましてくれるんだ。あんな女神いねーぞ。それをお前、独り占めすんじゃねーよ!」

「してねーよ!」

「う、うう。先生と結婚したい」


 涙を流すグレク。


「確かにレイリアには世話になってる。だけど、たまに身体を診てもらってるくらいだ」

「かかかか、身体を!」

「ちげーよ! バカ!」


 三十代半ばになっても、男が集まれば女の話になる。

 いや、この二人だけだが……。

 ちなみにパルマは既婚者で愛妻家だ。


 ジルダが俺に視線を向けていた。

 いや、睨んでいる。


「そういやよ。おめー、アリーシャさんとも仲が良いよな」

「仕事だっつーの!」

「仕事? 二人でもどっか行くじゃねーか!」

「いやいや、たまに狩りへ行くくらいだ。アリーシャの家の肉を獲りに行ってるだけだって」


 今度はパルマが俺を指差す。


「お前ってさ、フェルリートとも仲良いじゃん。あの娘、うちのギルドでいっっっっちばんモテるんだぞ。めちゃくちゃ可愛いだろ。マジで天使みたいな娘だろ。お前みたいなおっさんが手を出していい娘じゃねーぞ?」

「「なに!」」


 ジルダとグレクが同時に立ち上がった。


「おめーなんなんだよ! 墓石にすっぞ!」

「美女を独り占めすんじゃねーよ! 海に沈めっぞ!」


 怒ってる。

 すげー怒ってる。


「んなこと言われたってなあ。アリーシャは仕事の仲だし、レイリアは診察してもらってる医師と患者の間柄だ。フェルリートだって、食堂で飯食ったり食材をあげてたら仲良くなっただけだ。それ以上のつき合いはねーって。お前らが想像するようなことはないし、そういった感情もねーよ」

「「嘘だね!」」

「嘘じゃねーよ!」


 パルマが立ち上がり間に入った。


「まあまあ先輩たち。落ち着きなって。ほら、飲み直そうぜ」


 二人のグラスに黒糖酒を注ぐパルマ。

 その所作に余裕を感じる。


「パルマはいいよな。アミルちゃんと結婚できてよー」

「うん、そうだぞ。アミルちゃんはお前らの代で一番人気だった」


 地元の幼馴染みにしかできない話だ。

 知り合いの昔話を聞くのはなかなか楽しい。


「まあ何ていうの。俺たちは純愛だからな。学生の頃からつき合ってたし。先輩らは遊び呆けてたじゃん」

「ちっ! てめー、石壁に貼りつけっぞ!」

「魚の餌にしてやるわ!」


 ジルダとグレクが酒を一気に飲み干す。


 二人の話を聞いて、少し気になることがあった。

 ジルダとグレクは同い年なのに、その年代で最も人気がある女子を話題に出すことがない。

 いつも自分の好きな女、他の年代の女子、別の組織の看板娘の話をしている。


「そういや、お前らの年代って、アミルさんみたいな一番人気の女子はいないのか?」


 ジルダとグレクが顔を見合わす。


「……いるっちゃいる。それもかなりの美人だ。なあ、グレク」

「……ああ。しかも彼女は今も独身で、この町に住んでる」


 二人が答えると、部屋の空気が妙に重くなったような気がした。


「じゃあ、その娘でいいだろ? まあその娘って言っても、もう三十五歳だけどな。あっはっは」

「ラーニャだ」

「え?」

「ラーニャなんだよ」


 呟くグレク。

 テーブルの一点を見つめているが、焦点は合ってない。

 虚無の表情だ。


 ラーニャの年齢は知らなかった。

 三十五歳だったのか。


「じゃあラーニャでいいんじゃね? あんなんでも美人じゃねーかよ」

「ダメだ……。あの女はダメだ……」

「うん……。あれはダメだ……」

「分かる……。分かるよ……。あの人はダメだ……」


 グレク、ジルダ、パルマが無感情で呟く。

 まるで極寒の冬を迎えたかのように、部屋の空気が一瞬で冷え切った。

 楽しかった飲み会は、もはや遥か昔。

 この三人にラーニャは禁句だったようだ。


「す、すまん。飲み直そうぜ」


 俺は黒糖酒のボトルを手に取り、全員のグラスに注ぐ。


「ねえ」


 扉が軋む音を立て、ゆっくりと開いた。


「あんなんってなあに? ダメってなあに?」

「「「「ぎゃああああ!」」」」


 男たちの絶叫が部屋に響く。

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