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第60話 男たちの晩夏1

 俺は商店街にある一軒の居酒屋に足を運んだ。


「いらっしゃい! お、マルディンか。もう皆来てるぞ」

「そうか。早いな」


 店員とは顔馴染みだ。

 たまに訪れるこの店は、美味い魚と黒糖酒を出す人気店だった。


「奥の個室だ」

「ありがとよ」


 店の奥へ向かう。


「あ、そうだマルディン。今日はな、隣の部屋でー」

「すみませーん!」

「はーい、今行きますよ!」


 店員が俺に何かを言いかけたが、客に呼ばれて走り去った。


「なんだ? まあいっか」


 個室の扉に手をかける。


「やっと来たか。おせーよ!」

「すまんパルマ。ちょっと用事があってな。って、お前らが早いんだよ!」


 個室にいる三人の男。


 冒険者ギルド職員で副主任パルマ、三十四歳。

 石工屋海の石(オルセ)の若頭ジルダ、三十五歳。

 漁師ギルドの地区長で漁師グレク、三十五歳。


 実はこの四人だと俺が一番年下だ。

 とはいえ、もうこの年になると誤差の範囲といえる。


 この四人は年齢が近く仲が良い。

 いや、俺以外は皆この町出身で幼馴染だから、仲が良いのは当然だ。


「さあ、乾杯しよーぜ」


 ジルダが麦酒の木製ジョッキを掲げた。

 全員で乾杯。


「夏祭りお疲れ様! 乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 今日はいつもの飲み会だが、夏祭りの打ち上げを兼ねている。

 三人は所属先の屋台で働いていた。

 怪我をした俺だけ客として祭りを楽しんだ。


 漁師のグレクが、パルマに視線を向ける。


「おい、パルマ。お前んとこの屋台は評判だったぞ。今年は儲かったんじゃねーか?」

「まあな。今年はフェルリートが屋台に立ったから、売上倍増って感じだな。漁師ギルドはどうだった?」

「うちも看板娘を出したから倍は売れた。忙しすぎて死ぬかと思ったわ」

「ああ、あの娘か。可愛くて腕の良い漁師だよな」


 冒険者ギルドと漁師ギルドは料理勝負をしていたが、それとは別に通常の屋台も出していた。


 俺は麦酒を飲みながら、ジルダに身体を向ける。

 海の石(オルセ)の屋台には顔を出せず、様子が気になっていた。


海の石(オルセ)はどうだったんだ?」

「まあ例年通りだな。今年はうちの技術を活かし、調理用の石板を作って石焼きをやってみたんだ。だけど、まだまだ改良余地ありだ。来年リベンジするぜ」


 この三人はそれぞれの組織で中間管理職として、屋台の計画から販売まで任されていた。


 この飲み会は、中間管理職の愚痴を言い合う会でもある。

 今の俺は騎士隊長ではないし、ただのCランク冒険者なのだが、なぜか声をかけられ参加するようになった。

 そして皆俺に相談してくる。


「そうだ。聞いてくれよマルディン。俺さ、支部長になれって言われてんだよ」

「すげーじゃねーか、グレク。地区長から一気に昇進だな」

「そうなんだが、今よりも受け持つ地区が大幅に増えるんだよ。そうすると漁に出るのも大変になっちまう」

「そりゃな。だけど大変なのは最初だけさ。すぐに慣れる。早めに経験しておけば、さらに昇進した時が楽だぞ? お前だってもっと上を目指してるんだろう?」

「まあそりゃそうだが……。じゃあ、やった方がいいかな?」

「ああ、受けるべきだ。お前は視野が広い上に、細かい点まで気を使える。組織の改善点にいち早く気づくし、漁師たちの不満だってしっかりと把握している。お前が昇格すれば、もっと良い組織になるぞ。組織のためにも、何より部下のためにも早く昇進しておけ」

「そ、そうか。やってみるよ。ありがとよ」


 満足そうな表情を浮かべているグレク。


 ジルダが麦酒を飲み干し、注文したボトルの黒糖酒を四つのグラスに注ぐ。


「マルディン。俺はよ、親方から少しずつ経営を任されるようになったんだ。あの時お前に頼んで本当に良かったよ」

「何言ってんだよ。お前の実力さ。お前は自ら率先して働くから信頼されてるんだよ。海の石(オルセ)はいつかお前が継ぐんだろ?」

「そうだな」

「経営は大変だと思うけど、お前ならできるさ。まあ、困ったことがあったらまた言ってくれよ。手伝えることは何でもすっから」

「はは、助かるよ」


 パルマが呆れた表情で俺を見つめている。


「なあ。本当に不思議なんだが、マルディンって前職何やってたんだ? お前絶対普通じゃないだろ?」

「だから何度も説明してるだろ。万年Cランクの冴えない冒険者さ」

「絶対違うと思うんだよな」

「あのなあ。もし前職が高い地位だったら、こんな田舎に来てないって」


 それは事実だ。

 もし国外追放になってなかったら、俺は今も騎士隊長だったと思う。


「「「こんな田舎で悪かったな!」」」

「あっはっは」


 三人が同時に同じ言葉を発していた。

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