第6話 試験開始
さっそくギルド保有の小型飛空船で移動開始。
受験者は俺、解体師一人、運び屋二人。
そして試験官が三人と、合計七人が搭乗。
運び屋の一人が飛空船を操縦している。
この操縦も試験に含まれているそうだ。
数年前に突如として現れた飛空船。
軽い空気で飛ぶらしいが、詳しい話は知らない。
ラルシュ王国という新興国で製造されている。
この飛空船の登場で人々の暮らしは一変。
戦争の方法まで変化したほどだ。
目的地に到着した飛空船。
距離にして二百キデルトの移動にもかかわらず、午前中に出発してまだ正午も迎えてない。
これが馬なら三日はかかっていただろう。
運び屋が森林の中の開けた場所に飛空船を着陸させた。
飛空船のことは全く分からないが、かなりの技術だと思う。
俺は地図を手にして、教官に視線を向けた。
「では調査してきます」
「分かりました」
「教官。雪泳蜥蜴は発見次第、捕獲しても良いですか?」
「ええ、構いませんよ。我々は少し離れた場所から採点してます。何かあったら救助に入りますが、その場合、試験は不合格になります。無理しないように」
「分かりました」
俺は荷物を持って飛空船を出発。
教官、解体師、運び屋が少し離れながらついてきていた。
森林の中に入り調査開始。
俺は騎士だったためモンスターの討伐経験はほぼないが、多少の知識は持ち合わせている。
雪泳蜥蜴は、大きな岩の下に巣を作る傾向にあるという。
「この穴が怪しいな」
岩と地面の間に、人が入れそうな大きさの穴が開いている。
間違いなく雪泳蜥蜴の巣穴だろう。
「もう始めちまうか」
巣穴の入口に、輪っか状にした糸を置く。
そしてバッグから煙玉を出し、火打石で火をつけ穴に投入。
夏眠中とはいえ、巣穴に煙が充満すれば出てくるしかない。
雪泳蜥蜴が飛び出してきた瞬間、糸を締め上げ捕獲。
雪泳蜥蜴は仰向けにすると大人しくなる。
「ほい。まずは一匹目」
すぐにバッグからロープを取り出し、仰向けにした雪泳蜥蜴の手足を縛る。
解体師の試験も兼ねているということで、俺はあえて捕獲した。
生きている方が解体試験に向いているだろう。
「んじゃ、二匹目行くか」
俺は別の穴に糸を仕掛けた。
◇◇◇
「ちょ、ちょっと主任! あの人、手際が良すぎませんか!」
教官の一人で、現役Bランク冒険者が教官主任に話しかけた。
「彼は月影の騎士の騎士隊長。糸使いのマルディンだ」
「え? もしかして有名な人なんですか?」
「ああ。精鋭揃いの月影の騎士の中で、三本の指に入る達人だ」
「そ、それほどなんですか?」
「そうだ。彼ならAランクの討伐試験でも容易く受かるだろう」
「そんな凄い騎士隊長が、なぜ冒険者の、しかもCランクなんか受けているのですか?」
「新王政になって騎士を剥奪されたそうだ。しかも国外追放とのこと。Cランクの冒険者カードで国外へ行くのだろう。国家にとって大損失だよ。バカな決定をしたものだ」
二人はマルディンの狩猟を採点している。
危険が及ばないように常に剣を抜ける状態で構えているが、その必要はなかった。
「私が試験官を受け持った中で、最も早く試験が終わったよ。文句なしの満点だ。はっはっは」
二人はマルディンに向かって歩き始めた。
◇◇◇
俺は三匹の雪泳蜥蜴を捕獲。
動けないように、ロープで手足と口を結んでいる。
後は解体師と運び屋に任せよう。
「教官。捕獲しました。俺の試験はこれで終わりですよね?」
「もちろんです、マルディンさん。試験結果は追って知らせますが、間違いなく合格ですよ」
「そりゃ良かった。冒険者カードはすぐに貰えますかね?」
「そうですね。最短で発行できるように手配しましょう。今日中に帰還できるので、明日の昼には発行しますよ」
「助かります」
「……目的は国外ですか?」
「え? も、もしかして……、ご存知ですか?」
「はっはっは、もちろんですよ。糸使いのマルディン隊長」
「お、お恥ずかしい」
「あなたほどの騎士が国外追放なんて国家の損失ですよ」
この主任は俺のことを知っていた。
国外追放まで知られているとは、さすがに恥ずかしい。
「ですが、あなたが冒険者になってくださるのは僥倖。冒険者のレベルも上がるでしょう」
「え? いや、俺はもうのんびりと生きるので……。冒険者カードは国境越えのために取るだけですから」
「どの国に行かれるのですかな?」
「まだ決めてないですね」
「そうでしたか。願わくば冒険者として活動して欲しいものですな。はっはっは」
狩猟した雪泳蜥蜴に目を向けると、解体師が解体を始めていた。
解体師は若い女性だった。
解体師は女性が多いと聞く。
「なかなか手際が良いな」
解体師に近づくと、隣で採点している女性教官が笑みを浮かべ、俺に視線を向けた。
「マルディンさんの捕獲の仕方が良かったんですよ。討伐試験で、これほど簡単に捕獲するなんて前代未聞ですけどね。ふふ」
解体師の女性教官が笑っていた。
解体が終わった雪泳蜥蜴を、運び屋たちが手際良く防腐処理を施し、素早く飛空船に運ぶ。
そして、運び屋は飛空船を出航させた。
「夕方にはギルドに到着します」
運び屋の言葉通り、日没前にはギルドへ帰還した。