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【書籍化決定】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第三章 真夏の初体験

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第51話 狩りと勝負と夏祭り7

 まずは罠の設置場所へ移動だ。

 密林の中でも、ラミトワは大型荷車を巧みに運転する。

 俺は荷車の御者席に座り、隣で甲犀獣(ケラモウム)を操縦するラミトワを眺めていた。


「よくもまあ、こんなところを進めるもんだ」

「先人の運び屋が開拓した道があるんだよ。少しでも外れると身動きが取れなくなっちゃうけどね」

「道って言っても何もねーぞ?」

「私には分かるの! 私は優秀なんだぞ!」

「確かにそうだな。うん。ラミトワ凄いぞ」

「へへへ、そうでしょー。もっと褒めてもいいんだよ?」

「すごいーすごいーラミトワすごいー」

「真面目に褒めろ!」

「いてっ」


 俺の腹に肘を当てるラミトワ。


「もう、マルディンってほんとガキだよね」

「本物のガキに言われたくねーっての」

「ガキじゃねー!」


 ラミトワと遊んでいると、罠の設置場所に到着した。

 小さくたたんだ網を荷台から取り出し、地面に置く。

 重量は百キルクを超えているだろう。

 四人で四隅を持ち、網を広げた。


 網の大きさは縦横十メデルトの正方形だ。

 広げた網を円筒状に丸め、両端をロープで結ぶ。

 荷車の荷台にある滑車を利用して、高さ十メデルト付近まで持ち上げ、二本の大木の間に吊るした。

 ラーニャが網を指差す。


四角竜(クワロクス)がこの網の下を通り抜ける直前で、丸めた網を広げて足止めする。網に絡まって身動きが取れなくなった四角竜(クワロクス)に、私がとどめを刺すわ」

「つまり、俺が四角竜(クワロクス)をこの下まで連れてくればいいんだな?」

「そうよ」


 そして、改めて網を広げる方法など最終確認を行った。

 ラーニャが俺の肩を叩く。


四角竜(クワロクス)を探すのは大変なのよ。もし今日中に発見できなくても、明日また探索するわ。無理しないでね」

「へえ、優しいな」

「そりゃそうよ。うちの大切な冒険者ですもの。あなたが死ぬと、私がクエストを頑張らないといけなくなるのよ」

「死なねーよ! 縁起わりーな!」


 アリーシャが俺の前に立つ。


「マルディン、四角竜(クワロクス)の気性はとても荒いので気をつけてください」

「ああ、ありがとう」

「荷車でも説明しましたが、四角竜(クワロクス)は角で木をえぐり、マーキングします。その痕跡を辿ってください」

「分かった。行ってくるよ」


 俺は糸巻き(ラフィール)のベルトをしっかり留め、四角竜(クワロクス)の縄張りに踏み込んだ。


 ――


 鬱蒼とした密林を進む。

 奥へ進むほど、野鳥、蛙、虫の鳴き声が大きくなる。


「この音量、とんでもねーな」


 耳を塞ぎたいほどの大合唱だ。


「ん? これは?」


 大木の幹が深くえぐれていた。

 高さ一メデルト付近から五、六メデルトまで縦に長い一本の傷。

 四角竜(クワロクス)のマーキングだ。


「顔の先端にある大角で、下から上に向かってえぐったのか」


 傷跡は乾燥しており、明らかに時間が経っている。

 恐らく数週間は経過しているだろう。

 地面を確認すると足跡は消えていたが、木や岩に生えている苔が削れていた。


「あっちに続いてるな」


 痕跡をたどりながら周囲を探索すると、同じような木の傷を発見。

 先程よりも僅かながら新しい。


「しかし、この大木をこれほどまでにえぐるとは。角の攻撃を喰らったらマジで死ぬぞ」


 戦闘で動きを重視している俺は、軽鎧(ライトアーマー)を着用している。

 そのため防御性能は高くない。


四角竜(クワロクス)の角もそうだが、突進にも気をつけないとな」


 最初に傷跡を発見してから、すでに数キデルトは森を進んだ。

 マーキングや足跡も新しくなる。

 そしてついにモンスターの糞を発見。


四角竜(クワロクス)の糞か。もう近いか?」


 俺は頭上に向かって糸巻き(ラフィール)を発射し、枝の上に着地。

 さらに(フィル)で移動を繰り返しながら、地上を見渡せるほど高い大木の太枝へ移動。

 腰のベルドに挿した小さな単眼鏡を取り出す。


「うーん、いねーか。だが動き回って探すより、ここにいた方が良さそうだな」


 太い枝は意外と安定性がある。

 生物が多い地上よりも安全かもしれない。

 しばらく枝の上で待機することにした。


 ――


 太陽が空の頂点に到達。

 強烈な日光が降り注ぐが、頭上の枝葉が日陰を作ってくれていた。

 俺は枝の上で、アリーシャが作ったサンドを食べながら周囲を見渡す。


「もう正午か。特に動きはない……。どうする一度戻る……。ん? あれは?」


 木々が大きく揺れている場所を発見。

 単眼鏡を覗く。


「あれは!」


 顔の先端に一本の大きな角、頭部にも三本の巨大な角を持つ四足歩行の生物。

 体長は約十メデルト。

 背中の中心にはひし形の突起物が並んでおり、尻尾の先まで続いている。

 角は濁った白色、濃灰色の鱗、瞳は小さく夜空のような漆黒。


「デ、デカいぞ!」


 間違いなく四角竜(クワロクス)だ。

 事典で見たイラストと同じだが、実際に見ると迫力が違う。


「マジで木をえぐってる」


 大角を使って所々にマーキングしながら、ゆっくりと森を徘徊している四角竜(クワロクス)

 自分の縄張りを主張しながら、見回りしているのだろう。


「あの角ヤベーだろ」


 俺は腰のバッグから携帯狼煙を取り出した。

 これは冒険者ギルドの開発機関(シグ・ナイン)が新たに開発したものだ。

 手のひら台の小さな木箱になっており、フタを開けるだけで狼煙が発生するという、信じられないほどの便利な代物だった。

 使い捨てのこの狼煙は煙だけが出るようになっており、燃え移ることは絶対ない。

 さすがは開発機関(シグ・ナイン)の開発だ。


「これでラーニャたちに伝わるだろう」


 (フィル)を発射し、地上に降りた。

 身をかがめ、気配を消しながら四角竜(クワロクス)へ近づく。

 縄張り意識が強い四角竜(クワロクス)に見つかれば、執拗に追いかけてくる。

 そして、走るスピードは人間を超える四角竜(クワロクス)


「足だな。足を狙おう」


 四角竜(クワロクス)は怪我をしようが、外敵を縄張りから追い出すまで絶対に引かない習性がある。

 足にダメージを入れ走力を落とせば、安全におびき寄せることができるだろう。


 ついに(フィル)が届く距離まで近づいた。

 長剣(ロングソード)を抜き、左手に持ち替える。

 大きく息を吸い呼吸を止め、四角竜(クワロクス)に向かって(フィル)を発射。

 大角に(フィル)を絡ませダッシュ。

 助走をつけジャンプし、空中で糸巻き(ラフィール)を巻取る。

 その勢いで四角竜(クワロクス)の左前足に突きを放つ。


「ギィヤァァァァオォォ!」


 濃灰色の硬い鱗に、長剣(ロングソード)が突き刺さった。


 一旦距離を置くため、大角に巻きついた(フィル)を外そうと右腕を捻る。

 だが、俺が(フィル)を巻き取る前に、四角竜(クワロクス)は大角を空に向かって大きく振り上げた。

 まだ(フィル)が絡まっていたことで、空中に大きく投げ出された俺の身体。


「くっ!」


 即座に空中で(フィル)を巻取り、落下の勢いを利用しながら、大角に向かって剣を振り下ろす。

 鈍い音が鳴り、激しい火花が散った。


「かってー! 刃こぼれしたぞ!」


 着地と同時に腕を捻り、大角から(フィル)を外す。

 そして、右前方へ大きくジャンプ。

 四角竜(クワロクス)の左前足を切りつけると、鮮血が吹き出した。


「ギィヤァァァァオォォ!」


 咆哮を上げながら、大角を振り回す四角竜(クワロクス)

 突撃に特化した騎兵槍(ランス)を振り回しているようだ。


「あぶねっ!」


 大角を剣で受ける。

 火花が飛び散り、刃こぼれしていた部分にヒビが入った。

 桁違いのパワーを誇る四角竜(クワロクス)

 俺は受けの姿勢のまま弾き飛ばされ、背後の大木に背中から打ちつけられた。


「ぐはっ!」

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