第5話 討伐試験
翌日の早朝、俺は支度を終え宿を出た。
「いてててて。筋肉痛だよ」
昨日の試験の反動がきていた。
上腕や太腿を擦りながら、冒険者ギルドへ向かう。
「マルディンさん、おはようございます!」
受付嬢が笑顔で対応してくれた。
「おはよう。今日はよろしく頼むよ」
「はい。では、受験料の金貨五十枚をお願いします」
「はいよ」
カウンターの上に、金貨が入った革袋を出す。
受付嬢が金貨を取り出し数え始めた。
「ちょうど五十枚いただきました」
金貨五十枚の大金を使うなんて、数年前に有名な鍛冶師に武器を作ってもらった以来だ。
それほど冒険者カードの価値が高いのだろう。
とはいえ、全財産の半分を使ってしまった。
これで試験に落ちたら大損害だ。
死ぬ気でやるしかない。
「マルディンさん。こちらの三人が今日の試験官です」
討伐試験は安全を考慮して、三人の試験官が監視するそうだ。
教官主任を務めるのは元Bランク冒険者で、五十歳前後の白髪の男性。
二十代の現役Bランク冒険者。
そして、四十代の女性は、同じ試験を受験する解体師と運び屋の教官だそうだ。
「マルディンです。よろしくお願いします」
俺は白髪の教官主任と握手を交わした。
「マルディンさん。試験は雪泳蜥蜴の狩猟です」
「雪泳蜥蜴ですか?」
「そうです。Dランクモンスターの雪泳蜥蜴です。これを三匹狩猟してもらいます」
俺はモンスター事典の内容を思い出した。
◇◇◇
雪泳蜥蜴
階級 Dランク
分類 四肢型爬類
体長約二メデルト。
小型の爬類モンスター。
寒冷地の森林に生息。
積雪時には短い手足と長い尻尾を使い、雪中を泳ぐように移動する四足歩行のモンスター。
青白い光沢を放つ鱗で全身を覆われている。
顎の長さは五十セデルトほどで、無数の細かい牙を持つ。
牙は咥えた獲物を逃さないためのものであり、小型の動物や魚、小型モンスターを捕食し丸呑みする。
冬季に活動するモンスターのため、春から秋まで巣穴で夏眠する。
◇◇◇
雪泳蜥蜴は冬に活動するモンスターだ。
初夏の今は、すでに夏眠に入った頃だろう。
「今の季節だと雪泳蜥蜴は夏眠しているのでは?」
「そうです。生息地の調査から巣穴の発見、そして狩猟になります。クエストの基本は調査、発見、追跡、討伐、報告ですからね」
「分かりました。雪泳蜥蜴の狩猟方法に条件はありますか?」
「特にありません。狩猟でも捕獲でも構いませんよ。三匹狩猟した時点で試験終了です。ただ、解体師と運び屋の試験を同時に行うので、損傷は最小限にとどめていただけると助かりますがね。はっはっは」
「なるほど、分かりました」
「試験期間は一週間ほど見ていますのでご安心を」
「一週間……、なるべく早く終わらせるようにがんばりますよ」
俺には国外追放の期限がある。
遅くとも五日以内には帰還するつもりだ。
「それはそうと、マルディンさん武器は?」
「いや、実はわけあって武器を持ってないんですよ。お恥ずかしい限りで」
「え? 武器を持ってないんですか?」
これから討伐試験だというのに、俺は武器を持ってない。
新領主が来てからというもの帯剣は許されず、さらに財産没収で屋敷にある武器や防具も全て没収されてしまった。
糸は持っているが、これだけでは武器にならない。
「隣にギルド運営の道具屋があります。そこでいくつかの武器が売ってます」
「そうですか。まあでも雪泳蜥蜴なら武器はなくとも大丈夫でしょう。とはいえ、採取短剣くらいは持ってないと危ないか。ちょっと買い物してきますね」
「……分かりました。では、試験の準備を進めておきますよ」
俺は隣の道具屋で、一番安い採取短剣を購入した。
採取短剣は素材の剥ぎ取りや採取で使用する万能型の短剣だ。
剣身の幅が広く頑丈なため、木を切ったり、地面を掘ることもできる。
価格は銀貨五枚。
安物だが、この試験だけもってくれればいい。
そして、狩猟で使用する道具として、煙玉とロープ、火打石を購入した。
道具類は全部で銀貨一枚。
ギルドの道具屋はなかなか安く、良心的な価格だ。