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第47話 狩りと勝負と夏祭り3

「待て待て。俺は主任の腕を知らない。パーティーを組むにも、信頼できなきゃ無理だ。命を預けるんだぞ」

「ねえ、主任ってやめてくれるかしら。歳も近いんだし、ラーニャって呼んでね。マルディン、ちゃん」

「ちゃんはやめろ!」

「ね、嫌でしょう?」

「くっ。分かったよ……、ラーニャ。これでいいんだろ」


 パルマの気持ちが分かってきた。

 マジで面倒だ。

 これは確かに同情する。


「うふふ、それでいいわよ」

「で、ラーニャの腕はどうなんだよ。Bランクといえば凄腕だが?」

「私は射手よ」

「弓か。この出張所で弓といえばヴェルニカだったが、ヴェルニカよりもできるのか?」


 以前一緒にクエストへ行ったCランク冒険者のヴェルニカ。

 引退してしまったが、弓の腕ならAランクにも匹敵すると言われていた。


「うふふ、ヴェルニカちゃんに弓を教えたのは私だもの」

「なんだって?」

「だからあ、私はヴェルニカちゃんの師匠なのよ」

「そ、そういえば、ヴェルニカの腕前は師匠のおかげって言っていたが……。ラーニャのことだったのか」

「そうよお」


 くねらせる身体の動きと口調がいちいち癇に障る。

 俺は視線をそむけたい気持ちと、真偽確認の意味を込めて身体ごとパルマに向けた。


「マルディン。それは本当だ」

「ちょっとお、他が嘘みたいな言い方しないでくれる?」

「す、すみません」


 ここまで傍観していたアリーシャが、満面の笑みを浮かべている。


「ラーニャさんが行ってくれるなら安心ですね」

「うふふ、アリーシャちゃんは分かってるわね。クエストでは、あなたの家の肉も穫るから安心してね」

「え! 良いんですか?」

「もちろんよう。うふふ」


 ラーニャが話をまとめるかのように手を叩いた。


「ということで、パルマ」

「は、はい」

「私たちは対決用の素材を獲りに行くから、屋台用の肉を他の冒険者に手配してね」

「え? 今年は勝負だけじゃないんですか?」

「当たり前でしょう。町の皆が楽しみにしてくれてるのよ? 屋台は全てあなたが仕切りなさい。美味しい肉料理を作って販売してね」

「そんな無茶な!」

「うふふ、よろしくねえ」


 反論しようとしたパルマだが、すぐに諦めの表情を浮かべた。

 言っても無駄だと分かっているのだろう。


「……わ、分かりました」

「あ、そうそう。売上で今月のあなたの給与が変わるからね。頑張りなさいよ」

「なんですと!」

「じゃあ、よろしくね。さあ私たちは打ち合わせよ」


 大汗をかくパルマを放置して、俺たちは個室へ移動した。


 ――


「ねえねえ! Bランクの緊急クエストへ行くって本当?」

「うふふ。そうよ。ラミトワちゃん」


 急遽呼び出されたラミトワが部屋に入ってきた。

 個室はクエストの打ち合わせなどに使用され、この出張所には四部屋ある。

 支部などの大きいギルドになると、部屋数はもっと多い。


「で、ラーニャ。獲物はどうするんだ?」

「そうね。千人分だものね。アリーシャちゃん、どうすればいい?」

「おいおい、本当に何も決めてないのかよ」

「専門家に聞いた方がいいでしょう?」


 言っていることは正しいのに、いちいち苛つくのは気のせいだろうか。

 だが、アリーシャは特に気にしてない様子だ。


黒森豚(バクーシャ)だと五十頭は必要ですから、現実的ではありません。大型動物の角大羊(メリノ)水角牛(クワイ)でも十頭は必要です。同じ肉を千人分用意するとなると……」

「モンスターってことか?」

「そうなりますね。それも美味しい肉のモンスターです」


 元々アリーシャと狩りをする予定だった黒森豚(バクーシャ)茶毛猪(グーリエ)などは、動物に分類される。

 そのため狩猟に制限はなく、誰でも自由に狩猟可能だ。


 モンスターの狩猟になると、俺たち冒険者は厳しい制限を受ける上に、やむを得ない事情以外の無許可狩猟は禁止されている。

 モンスターの素材は高値で取引されるため、必要以上の狩猟や密猟が横行するからだ。

 ギルドには不正な冒険者を処罰する治安機関(シグ・スリー)があり、ギルドハンターと呼ばれる者たちが厳しく取り締まっている。


「森には中型のCランクモンスター赤頭熊(グリーズ)大爪熊(ベルア)猛火犖(バルファ)がいます。これらの肉は美味しいですし、一頭で数百人分になります。しかし複数頭の狩猟が必要です。できれば千人分を一頭で用意したい。しかも美味しい肉。となると、森の最深部に生息するBランクモンスターの四角竜(クワロクス)が最も適しています」


 アリーシャの話を聞きながら、ラーニャが笑みを浮かべていた。


「うふふ。正解よ、アリーシャちゃん」

「でも……、さすがに四角竜(クワロクス)は……」

四角竜(クワロクス)なら勝負に勝てるでしょ?」

「その可能性は高いと思いますが、あまりにも危険です」

「じゃあ狩猟しなきゃ。勝負に勝ちたいでしょ?」


 相変わらず人の話を聞かないラーニャは、アリーシャを真っ直ぐ見つめている。

 まるで試しているような表情だ。


「も、もしかしてラーニャさん。最初から四角竜(クワロクス)って決めてましたか?」

「うふふ、分かっちゃった? ごめんね。でもアリーシャちゃんの意見を聞きたかったのは本当よ。やっぱりさすがね。あなたそろそろCランクを卒業しなさいよ」

「え? わ、私には無理ですよ」

「大丈夫よ。今回四角竜(クワロクス)を狩猟したら、Bランク解体師を受けましょうね」

「え? 私はCランクで……」

「ダメよう。冒険者のBランクは私が取ったけど、解体師もBランクが必要なのよ」

「わ、分かりました」

「ありがとう、アリーシャちゃん」


 ラーニャは片手で頬杖をつきながら、ラミトワに視線を向けた。


「実はね。運び屋も必要なのよねえ」

「私ってこと?」

「そうね。試験受けてくれる? ラミトワちゃん」

「いいよ! だって私はAランクの運び屋が目標だもん! いつか自分の飛空船を買うんだ!」

「うふふ、良い娘ね。ありがとう」


 俺にもBランクを押しつけてきそうな勢いだ。

 面倒だから話題を変える。


「ターゲットは四角竜(クワロクス)か。確かカーエンの森では最大級の大型モンスターだよな」

「そうよ。森の最深部に生息するわ」

「俺はBランクモンスターの強さを知らない。俺とラーニャで狩猟できるものなのか?」

「そうねえ。できると思いたいけど、客観的な意見が欲しいところね」


 瞳を閉じ、珈琲カップをゆっくりと口に運ぶラーニャ。

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