第43話 仕事の誇り6
センスのかけらもないラミトワの変な装飾荷車に揺られ、俺たちはギルドへ帰還。
「おお、皆おかえり!」
「パルマ、クエストは無事に終わったぞ。完了のサインをもらってる」
パルマにクエスト完了の書類を手渡すと、一旦事務所に入り、革袋を手にして戻ってきた。
「お疲れ様。これが報酬だ」
「ありがとう」
今回の報酬は二週間で金貨四枚。
一人金貨一枚で設定したのだろう。
冒険者のクエストとして拘束日数を考えると、少し安い部類に入る。
だが正直なところ、こういった一般職の賃金は高くない。
恐らく今回の俺たちの報酬は、石切り職人よりも多いはずだ。
「ジルダの奴、やっぱ無理してたんじゃないか?」
「そうだな。職人たちの給与よりは高いよ。冒険者ギルドへ依頼すると、それなりの金額になるからな。でも助かったと喜んでたぞ」
「そうか。それならいいが……」
「マルディン。もしまた手伝うなら、一日二日だったらギルドを通さなくてもいいぞ? こんな田舎だ。目をつぶるよ」
「本当か? じゃあまたやるかな」
「ああ、頼むよ。ジルダはお前の採石を絶賛してたしな」
「あっはっは。こりゃマジで石切り職人に転職を考えるかな」
「おい! それはダメだ! 今やお前がいなくなるのは困るんだよ!」
「職業選択の自由だ! あっはっは!」
騎士を剥奪され仕事を失った俺は、偶然にも冒険者へ転職することができた。
冒険者としてこれ以上の昇格や面倒事は御免だし、のんびりと生きていきたい気持ちは変わらないが、今では自分に合った仕事だと多少の誇りも持っている。
だがこうして、これまで経験したことのない職業をやってみるのも悪くない。
騎士一筋だった俺でも、できることはあると希望が持てた。
料理は別だが……。
「体験しなきゃ分からないことばかりだな。うんうん」
俺は腕を組みながら食堂へ移動。
「どうしたの、うんうんおじさん。うんうん」
腕を組み、俺の真似をするラミトワ。
絶妙にムカつく表情だ。
「うるせーな! ほら、ご所望の報酬を配るぞ。整列しろ」
「やったー!」
両手を挙げて喜ぶラミトワ。
俺は皆に金貨を一枚ずつ手渡した。
今回は斑山蛇の素材代も含めて、一人当たり金貨二枚の報酬だ。
フェルリートはその報酬の高さに驚いていた。
「フェルリートも冒険者をやればいいだろ? あれだけの身体能力があるんだ。Cランクなんて楽に取れると思うぞ?」
「試験代が高いから……」
「確かにそうだが、フェルリートならすぐに稼げるって。それに、稼げるといえばこの町なら漁師だって稼げるだろう?」
「そうなんだけど、私は今の仕事が好きなんだ」
そういえば以前、フェルリートが冒険者にならない理由は試験代ではないとアリーシャが言っていた。
今の仕事と関係があるのだろうか。
「マルディン……あのね」
フェルリートがうつむく。
光沢を帯びた美しい金色の髪がカーテンのように垂れ下がり、その表情を隠した。
「台風の日に私はご飯を作ったんだ」
「ああ」
「美味しいご飯を作って、出かけた両親を家で待ってたの」
「……ああ」
「でも……お父さんもお母さんも……帰ってこなかった」
「……そうか」
フェルリートは両親を台風で亡くしている。
「だから私はギルドの食堂で、美味しいご飯を作りながら、帰ってくる皆を待ちたいの。誰かが帰ってくるって幸せだもん」
「そうだな」
「それに……マルディンは絶対帰ってきてくれるから」
「ああ、そうだぞ。俺は絶対に帰る。そして、お前の飯を食うのが楽しみなんだ」
「嬉しい。ふふ」
フェルリートはうつむいたまま、小さな頭を俺の胸に押し当てた。
僅かに震える声。
「マルディン。……いつもありがとう」
「何言ってんだ。こちらこそだ」
俺から二歩後退し、顔を上げたフェルリート。
いつもの明るく可愛らしい表情だ。
「また美味しいご飯を作って待ってるね!」
「ああ、頼むぜ」
アリーシャが手を叩いた。
「今日はクエスト完了をお祝いして、打ち上げしましょう。せっかくだし、美味しいご飯を食べに行きませんか?」
「いいね! 行こう! 行こう! ご飯! ご飯!」
ラミトワが両手を真横に伸ばし、変な踊りで大騒ぎする。
そして俺を指差した。
「マルディン! 奢ってよ!」
「バカヤロー! お前金貨二枚も渡しただろ!」
「おっさんのケチ!」
「うるせー!」
フェルリートが笑いながら手を挙げた。
「じゃあ、今回は私が奢るよ! だって金貨二枚ももらったもん!」
「おいおい、お前が払うなら俺が奢るって」
「え? いいよ。たまには私が出すよ」
「いてっ!」
後ろから俺の背中を叩くラミトワ。
「おい、おっさん! なんで私と態度が違うんだ!」
「そりゃそうだろ!」
「はいはい。行きますよ。フフフ」
「私、お魚食べたい!」
パルマが受付で頬杖をつきながら、俺たちの様子を眺めていた。
「お前らって、マジでいっつも騒がしいな」
呆れていたが、その表情は笑顔だ。
「まあでも仲が良さそうでいいか。マルディンが来てから、この出張所は明るくなったよ」
「何気取って話をまとめてやがる! お前も金出せ!」
「は? 何でだよ!」
「ジルダは幼馴染だろ? 助けたんだからお前も出せ!」
「あ、まだ仕事が残ってるんだった。いいなー、俺も飯行きてーなー。でも仕事があるからなー。じゃあ皆いってらっしゃい。楽しんでこいよ!」
「おい! 逃げるよな! パルマ!」
パルマが事務所へ逃げていった。
「マルディン行くよ!」
「ふふふ、行きますよ」
「おっさんの奢りだ! 奢りだ!」
俺の右手をフェルリート、左手をアリーシャが引っ張り、ラミトワが背中を押す。
俺は三人の娘に、半ば連行されるかのようにギルドの扉を出た。
まあでも、成功した仕事の打ち上げだ。
仕方がないから奢ってやろう。
「その分、またいつか絶対働かせてやるけどな。あっはっは」
「あっはっはおじさん! 私肉食べたい!」
「私はお魚!」
「私は新鮮なお野菜が良いです」
「分かった分かった! 全部食うぞ! あっはっは」
「「「あっはっは」」」
皆が俺の笑い方を真似する。
うるさいにもほどがあるが、悪い気はしない。
娘たちと一緒に商店街へ向かった。