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第41話 仕事の誇り4

 俺は斑山蛇(ウルラル)を討伐し、一人で採石を進めた。

 相変わらず日差しは強いものの、正午に比べればいくらかマシになっている。

 暑さが緩くなるということは、そろそろ上がりの時間だ。


「あー、ちくしょう! 今日のノルマは無理だったか」


 可能な限り石を削ったが、やはり一人では無理があった。

 夕焼けが始まる前に、アリーシャとラミトワが現場へ帰還。


「マルディン! 大丈夫でしたか!」

「ああ、問題ない」

「え? こ、これって?」


 首と胴体が離れた斑山蛇(ウルラル)を指差すアリーシャ。


「討伐しておいた。採石の邪魔だからな」

「と、討伐しておいたって……。そんな簡単じゃ……」

「運が良かったんだ。動きが遅くてな。暑さで弱ってたんじゃないか?」

「え? 斑山蛇(ウルラル)はこの地方の固有種で、暑さにはめっぽう強いんですけど……」

「そうか。じゃあ他に原因があるのかな? あっはっは」


 アリーシャが驚愕の表情を浮かべている。

 その表情の中に、疑いを持っている様子も見受けられた。

 この娘は鋭い。

 詮索される前に話題を変えよう。


「アリーシャ。ジルダの様子は?」

「え? あ、はい。レイリアさんがすぐに血清を投与しました。問題ないそうです」

「アリーシャの解毒剤も効いたのだろう?」


 腕の良い解体師は毒に対する知識が深く、様々な解毒剤を調合する。

 何より自ら毒を接種し耐性を上げるほどだ。

 高ランクの解体師になると、一切の毒が効かないどころか、酒にも酔わず麻酔薬も効果がないという。


「そんなことはないですけど、血清を打つまで何とか持ちこたえてくれました。良かったです」

「謙遜するな。さすがだな」

「ありがとうございます。あの、ところでこの斑山蛇(ウルラル)……」


 話を戻そうとするアリーシャ。

 さらに別の話題を振ろう。


「フェルリートは?」

「え? あ、レイリアさんの診療所で、ジルダさんにつき添ってます」

「そうか。じゃあ安心だな。ジルダはいつ復帰できるんだ?」

「明日は一日安静で、明後日から動いて平気とのことでした」

「それはちょうど良いな。あいつにとっても良い休みになるだろう。あっはっは」


 偶然にも明日は石切り場が休みだ。

 俺たちにとっても、二週間のクエスト中で唯一の休日だった。


「あのー、マルディン。話を逸らそうとしてますが無駄ですよ?」

「え? そそそ、そんなことしてないぞ」

「フフフ。解体師はね、モンスターの傷口を見れば分かるんですよ。その人の実力が」


 アリーシャが斑山蛇(ウルラル)の死骸に近づく。

 片膝をつきながら、解体師用の厚手の革手袋をはめ検死を開始。


「凄いですね。首の切り傷が一切潰れてないです。うわ、骨までも……。このままもう一度くっつきそう」

「偶然だ。あっはっは」

「これまで何度かマルディンのクエストへ行きましたが、どれも驚くほど綺麗な切創なんですよね」

「運が良かっただけだ」

「……本当ですか?」

「ああ、もちろんだ。俺は万年Cランクの、しがないおっさん冒険者さ」

「そういうことにしておきます。フフフ」


 俺に微笑みかけてから、解体を始めたアリーシャ。


 実際に戦って分かったのだが、俺はCランクモンスターが相手だと苦戦しない。

 のんびり生きていきたい俺にとって、そこそこ金も稼げてちょうど良い相手だった。

 アリーシャは気づき始めているようだが、隠し通すつもりだ。


「マルディン。斑山蛇(ウルラル)の素材は人気があるので、高値で売れると思いますよ」

「今回のクエスト契約って確か……」

「モンスター討伐時の素材は、こちらが所有権を有してます」

「そうだったな。じゃあ皆で分けようぜ」


 俺と会話しながらも、信じられない速さで皮を剥いでいくアリーシャ。

 アリーシャも大概だろう。

 Cランク解体師の実力を遥かに超えているような気がする。

 だが俺はBランク以上の解体師を見たことがないので分からない。


「二人とも、荷車の準備ができたよ。斑山蛇(ウルラル)を運ぶんでしょ? 防腐処理するから手伝って」


 運び屋のラミトワが石材運搬用の大型荷車を運転し、斑山蛇(ウルラル)の死骸に横づけた。

 全員で斑山蛇(ウルラル)を荷車に載せ、石切り場を出発。


 ギルドに到着すると、フェルリートが入口に立って待っていた。


「マルディン! 大丈夫だった?」

「ああ、問題ないぞ」

「レイリアさんに、斑山蛇(ウルラル)の毒は凄く危険って聞いたから……」

「大丈夫だ。怪我なく討伐できた」

「良かったあ。無事に戻ってきてくれてありがとう」


 フェルリートが手を胸に当て、安堵の息を大きく吐いていた。


「大げさだな。あっはっは」

「だって、心配だったんだもん」

「そうか。心配かけたか……ごめんな。ありがとな」


 少しだけ瞳に涙を溜めていたフェルリートの頭に、俺はそっと右手を乗せた。


「無事に戻ってきてくれることが一番嬉しいの」


 俺の右手を取り、両手で抱えたフェルリート。

 そして俺の手の甲を、少しだけ日焼けして赤みを帯びた頬に寄せる。


「ちょっと思い出しちゃった」

「思い出す?」

「ううん、ごめんなさい。ふふ、なんでもないよ」

「……そうか。さ、中に入ろうぜ」

「うん」


 ギルドへ入りパルマに状況を報告すると、石切り場のモンスター出現に驚いていた。


「そうか。それは大変だったな。でも、ジルダが無事で良かったよ」

「クエストは予定通り続行する」

「大丈夫か? クエスト失敗にせず、モンスターの襲撃によるやむを得ない中止にすることもできるぞ?」

「いや、大丈夫だ。斑山蛇(ウルラル)を討伐したから、むしろ危険はなくなった」

「分かった。じゃあ、よろしく頼むよ」


 続いて斑山蛇(ウルラル)の素材を売却。

 首を落としたことで少し値は下がったが、それでも金貨四枚になった。


「アリーシャ、ラミトワ。解体代と運搬代だ」

「ありがとうございます」

「まいどー」


 アリーシャとラミトワに金貨一枚ずつ渡す。

 そして俺はフェルリートを呼び寄せた。


「フェルリート、お前にも金貨一枚だ」

「え! ちょ、ちょっと、金貨一枚なんて大金もらえないよ!」

「俺のクエストではな、素材代は山分けにしてるんだよ」

「で、でも、私何もしてないもん」

「これがクエストのパーティーってやつだ。あっはっは」


 困惑するフェルリートの右肩に、ラミトワが勢いよく手を置く。


「フェルリート! もらっておきなって!」

「でも……」


 その様子を見たアリーシャも、フェルリートの左肩に優しく手を置いた。


「良いのよ。あなただってジルダさんを看病して、ちゃんとパーティーの役割を果たしたんだから」

「お、お姉ちゃん……」


 アリーシャの口調は、まるで家族に接するようだ。

 フェルリートもたまにアリーシャを姉と呼ぶことがある。

 この二人を見ていると、本当の姉妹のように感じて微笑ましい。


「フェルリート。そういうことだ。遠慮せず受け取っておけ。あっはっは」

「う、うん。ありがとう」


 俺は全員を見渡す。


「明日は休みだ。皆しっかりと身体を休めて疲れを取るんだぞ。ジルダは明後日復帰できるようだし、また明後日から頑張ろう」

「「はい!」」


 フェルリートとアリーシャが元気良く返事をする。

 ラミトワだけは意地の悪い表情を浮かべていた。


「マルディンおじさんこそな! 腰治せよ!」

「うるせーよ!」


 皆で笑いながら、この日はここで解散した。

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