第4話 地獄の試験
まずは筆記試験だ。
モンスター学、地理学、鉱石学、数学、薬草学、言語学の六科目。
騎士をやっていれば常識の範囲だった。
「満点とはいかなくとも、高得点は取ったな。あっはっは」
続いて体力試験のため広場へ移動。
体力試験は五種目で、受験者が一斉に同じ種目を行う。
最初の脱落者が最下位となり、最後に残った者が一位となる。
「キ、キツすぎんだろ……」
一種目に腕立て伏せを行ったが、二百回はゆうに越えた。
それでも一位になったかは分からない。
目隠しをされたからだ。
試験は腕立て伏せ、懸垂、腹筋、スクワットを連続で行った。
そして、最後は目隠しを外され長距離走だ。
こんなもの普通の人間がやったら死ぬ。
「じ、地獄だった……」
試験は終了。
なんとかロビーへ戻り、ベンチに倒れるように座り込む。
試験が行われた広場では、ほぼ全員が倒れている。
「まあ、そりゃそうなるわな」
俺もベンチから動けない。
「くっそ、脚が笑ってやがる。水飲みてー」
座ってるだけで痙攣する太腿。
喉が乾いたが動けない。
「お水です。どうぞ」
受付嬢が俺の前に立ち、水を差し出してくれた。
グラスの水を一気に流し込み、おかわりをもらう。
「ありがとう。助かったよ」
「マルディンさん、凄いですね。この試験の後に動ける人はほとんどいないんですよ」
「そうか。だが俺ももう動けんよ。はは」
二杯目の水を飲み干す。
「実はこの試験、過去二人だけ満点を出した方がいます」
「満点だと? 世界には化け物がいるんだな」
「本当にそう思います。うふふふ。でもマルディンさんだって、相当良い結果だと思いますよ。試験結果は正午頃に出ます。それまで休んでくださいね」
「ああ、ありがとう。ちょっと寝るよ」
俺はそのままベンチで瞳を閉じた。
――
何やら騒がしい声が聞こえ、目を覚ました。
「そうか。試験後に寝たんだった」
俺は騒ぎがする方向へ視線を向けた。
ロビーの掲示板の前に人が集まっている。
「いてててて、体がいてーぞ」
体を動かすと筋肉と関節が悲鳴を上げた。
久しぶりに無理した証拠だ。
「で、何なんだ?」
ロビーを凝視すると、どうやら試験結果が張り出されたようだ。
「九十二点が出たぞ!」
「マジか! Aランクいけるじゃねーか!」
「すげーって!」
冒険者たちが騒いでいる。
俺はベンチから立ち上がり、上体を反らしながら腰を擦った。
「いてて……。高得点が出たのか。あの試験ですげーな。まあ俺はCランクの試験さえ受けられればいいけどな」
「マルディンさん!」
受付嬢が俺の名前を叫びながら走ってきた。
「九十二点はマルディンさんですよ! この支部で過去最高得点です! 凄いです!」
「え? 俺?」
「Aランクの試験が受けられますよ! 凄いです!」
思わず自分の顔を指差す。
どうやら高得点は俺だったようだ。
「九十二点ってことは、Cランクの試験を受けられるんだよな?」
「え? Cランクですか? そ、それは大丈夫ですけど……。Aランクを受けられるんですよ?」
「いや、Cランクでいいんだよ。国境さえ越えられればいいからな」
困惑の表情を浮かべる受付嬢。
「急いでいるんだ。最短でCランクはいつ受けられる?」
「急げば明日には開始できますけど……」
「じゃあ、それをやっちまおうか。逆算すると、えーと、最長でも五日以内には取りたいな」
「わ、分かりました。それでは最速で手配します。でも……、あの体力試験をやってすぐに動けるんですか? 普通は数日動けないのですが……」
「ああ、なんとか大丈夫だよ。こう見えて、一応体は鍛えていたからな。あっはっは」
強がってみせたが腰が痛い。
受付嬢に見えないように腰を擦る。
「では、明日からCランクの討伐試験ができるように手配しますね」
「頼むよ」
「受験料は金貨五十枚ですが……」
「大丈夫だ。即金で払おう」
「分かりました! 準備しますね!」
受付嬢が走って事務所へ向かった。