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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第九章 夏の終わりの物語

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第294話 失った希望と新たな未来6

 全員の首を落とした俺は、ヴィーディアに駆け寄る。


「大丈夫か?」

「え、ええ……」


 十人もの人間の首が落ちているにもかかわらず、ヴィーディアは妙に冷静だ。


「こいつらは犯罪組織の人間だ。偶然襲ったとは思えない。心当たりはあるか?」


 俺の言葉を無視して、男たちの死体を見つめているヴィーディア。

 普通なら嘔吐してもおかしくない。

 ヴィーディアは死体に慣れすぎている。


「す、凄い……。たった一瞬で……。これが首落とし……」

「ヴィーディア、お前何者だ?」


 俺の裏の名前を知っている。

 間違いなく、ヴィーディアは裏の世界の住人だ。

 こいつらに襲われたのも、その関係からか。

 もう隠す気はないようだ。


 ヴィーディアがゆっくりと立ち上がる。

 破れたワンピースを着ているが、もはや裸と言っていい状態だった。


「とりあえず、それを隠せ」


 俺はタオルをヴィーディアに手渡した。

 ヴィーディアは特に恥ずかしそうな仕草もなく、身体の前にタオルを当てる。


「答えろ。お前は何者だ?」


 俺を真っ直ぐ見つめているヴィーディア。


「私は……。私は犯罪組織にいたわ」

「やはりそうか。こいつらとの関係は?」

「組織のトップだったのよ」

「トップだと? こいつらのボスだったということか?」

「ええ……。だけど、これは下部組織の者よ」

「下部組織?」

「私は黄金の紅玉(フォルケル)を作ったの」

黄金の紅玉(フォルケル)? 初めて聞く名前だな。新しい組織か?」

黄金の紅玉(フォルケル)は……、夜哭の岬(カルネリオ)七組織(セルテ)よ」

「な! なんだと!」


 驚いた。

 驚いたなんてものじゃない。

 まさか、ヴィーディアから夜哭の岬(カルネリオ)の名前が出るとは思わなかった。

 七組織(セルテ)はほとんどが謎に包まれている。

 ヴィーディアがティルコアの警戒網に引っかからなかった理由が判明した。


 しかし、夜哭の岬(カルネリオ)を牛耳る七組織(セルテ)のボスが、なぜこんな町にいるのか。

 しかも最も因縁のある俺に接触している。


「今の技を見て確信したわ。私は戦闘でも、策略でもあなたに敵わない」

「どういうことだ?」


 ヴィーディアの視線は俺を向いたままだ。

 まばたきの回数も少なく、俺のことをただ真っ直ぐ見つめている。


「毒の絵画を覚えている?」

「毒の絵画……。それって画家リメオルか?」


 百年前の絵画に仕込まれた毒の罠で、商人ドルドグムが死亡する事件が発生した。

 俺が調査を担当した事件だ。


「その商人ドルドグムと取引したのが、黄金の紅玉(フォルケル)よ」

「なに?」

「私はドルドグムから商品を購入していたけど、あの男はこちらの足元を見て値段を釣り上げたのよ。だから、絵画と葡萄酒を使って暗殺したわ」

「お前の仕業だったのか!」


 ヴィーディアが小さく頷く。


「それで私はドルドグムが抱えていた仕入れルートを押さえた。でも、それだけでは足りなかった」

「一体何を仕入れていたんだ? 確かドルドグムは食品関係を扱っていたはずだが」

「食品ではないわ。岩虎魚(コルコゼ)よ」

岩虎魚(コルコゼ)だと……。ま、まさか!」

「ええ、そのまさかよ。黄金の紅玉(フォルケル)は毒物兵器を作っていた。だから、直接ティルコアで岩虎魚(コルコゼ)を入手しようとしたの」


 毒の絵画事件とティルコアの毒魚買取事件の黒幕が黄金の紅玉(フォルケル)で、ヴィーディアの仕業ということが判明した。


「ティルコアの漁師に声をかけたのは、黄金の紅玉(フォルケル)だったのか」

「ええ、組織の幹部を派遣したわ。だけど計画はあなたに潰され自害した」


 調査しても届かなかった事件の真相が、皮肉にも今この瞬間に繋がった。

 ヴィーディアの表情は特に変わらず、焦りは見られない。


黄金の紅玉(フォルケル)はこの町の漁師ギルドを手中に収め、この地を毒物兵器の生産地にしようとしたの。私は経済でティルコアを支配しようとしたわ」


 まさかヴィーディアが夜哭の岬(カルネリオ)の、それも七組織(セルテ)のボスの一人なんて想像できるわけがない。

 それほどの人物が、何のために一人でこの町に来たのだろうか。


「ボス自ら俺を殺しに来たのか? それとも、また漁師ギルドに手を出そうとしたのか? もしくは……その両方か?」


 俺は悪魔の爪(ヴォル・ディル)の柄に手を置く。

 今のヴィーディアは丸腰だが、容赦はしない。


「私を殺す?」

「お前の目的は? 理由によってはこの場で殺す」

「いいわよ。どうせ死ぬんだから。好きにして。あなたならいいわ」

「死ぬ?」


 ヴィーディアがタオルを取った。

 透き通るような白い肌に、太陽の光が反射する。


「男なんてみんなそうでしょ?」

「いらん。隠せ。目障りだ。それより目的を話せ」


 ヴィーディアが少し驚いた表情を浮かべ、タオルで身体を隠す。


「……何もないのよ」

「なに?」

「私には、もう何も残ってないの」

「どういうことだ?」

「あなたに潰されたことで、七組織(セルテ)はもう四つしか残ってないわ」

「四つ? 待て。俺が潰したのは怒れる聖堂(ナザリー)凪の嵐(カーラル)の二つだ」


 ヴィーディアが小さく息を吐く。

 溜め息ではなく、何かを諦めたようなそんな印象だ。


「私の計画は全て失敗……。それで黄金の紅玉(フォルケル)は消滅した。いえ、消滅させられた。私も始末の対象となったから、逃げ出したの。でも、逃亡生活に疲れちゃって……。最後にこの町を見て……死のうと思ったの」


 ヴィーディアがこの地に来た理由は、ただ死ぬためだった。

 だが、グレクに接近した理由が分からない。


「なぜグレクに接近した?」

「グレクさん、いい人ね」

「騙したのか?」


 ヴィーディアが首を横に振る。


「信じてもらえないかもしれないけど、本当に港で偶然見かけたのよ。岩虎魚(コルコゼ)がいるかもしれないと思って声をかけただけ。それだけよ。だけど、彼が一生懸命働いてる姿を見ていたら、尊敬するようになったの。そして……」

「たった数日だぞ?」

「人を好きになるのに時間なんて関係ないわ」

「お前の本心か?」

「嘘に見える?」

「信用できるわけないだろ。お前は夜哭の岬(カルネリオ)だ」

「そうね……。私の過去は消せないものね」

「お前たちが巻き込んだティルコアの漁師フスニは、グレクの弟弟子だ。グレクだって被害を受けている」

「そう……なのね。謝らなきゃ」

「グレクに全てを話すのか?」


 ヴィーディアの肩が僅かに震えていた。


「マルディンさん。一つだけ、わがままを聞いてもらっていい?」

「なんだ?」

「明日の夏祭りをグレクさんと過ごしたいの。それが終われば、彼に全てを話す。そして私は罪を精算する」


 罪の精算、それは死ぬことだろう。

 そもそも、死ぬためにこの町に来たというヴィーディアだ。


「そんなことをすれば、グレクが苦しむだけだ」

「そう……よね」

「あいつは……。あいつはお前のことを本気で……」


 俺を見つめているヴィーディアの瞳から、大粒の涙が流れ出した。


「ごめんなさい。本当にごめんなさい。私……どうしたらいいのか分からないの。もう想いを消せなくなっちゃった。私はここで死ぬ。だけど、グレクさんへの想いだけは本当よ。これだけは嘘じゃない」


 ヴィーディアが嘘をついているとは思えない。


 俺はグレクの幸せを心から願っている。

 だが、グレクが好きになった相手は、よりによって夜哭の岬(カルネリオ)だった。

 許せるわけがない。

 怒りが込み上げる。


 しかし……。


 俺は悪魔の爪(ヴォル・ディル)から手を離し、指笛を吹いた。

 黒風馬(ルドフィン)のライールを呼んだ。


「ブルゥゥ」


 ライールの顔を撫でながら、鞍に装着しているバッグからシャツを一枚取り出した。


「これを羽織れ。俺のシャツだから大きいが、隠すにはちょうどいいだろう」

「え?」

「まずはその格好をなんとかする。お前を俺の家に連れていくから、風呂に入って着替えろ。どうするかは、その後に決める」

「はい……」


 俺はヴィーディアをライールに乗せて、自宅へ向かった。

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