表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
幕間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

294/306

第287話 旅の終わりと新たな出会い

 ◇◇◇


 ヴェルニカがティルコアを旅立って一年が経過した。


 ヴェルニカは亡き恋人ラクルの夢を叶えるために、ラクルの形見である長剣(ロングソード)とともに世界を回った。


 まず皇都タルースカで数カ月暮らして、冒険者ギルドの発祥の地である世界最古の国家、フォルド帝国へ入国。

 さらに葡萄酒の名産地であるエ・ス・ティエリ大公国へ渡り、そこから南下して列国最強の騎士団を擁するイーセ王国を縦断。

 そして、現在の冒険者ギルドの本国であるラルシュ王国を訪ねた。


「ラクル、あなたが見たがっていた世界はどうだった? 喜んでもらえたかしら」


 一軒のバーで、ヴェルニカは葡萄酒を注文した。

 バーのマスターに許可を得て、カウンター席の右隣にラクルの長剣(ロングソード)を立てかけている。

 

「ねえ、ラクル。私……、そろそろ旅を終えてもいいかな?」


 グラスを手に取り、エ・ス・ティエリ大公国産の葡萄酒を口にする。


「あなたとの思い出は大切だけど、私も前に進まなきゃ……。いいよね? あなたにも納得してもらえると思う」


 ヴェルニカはラルシュ王国から帰国していた。

 そろそろ故郷のティルコアへ戻るつもりだ。

 皇都の繁華街のバーで、ラクルの剣といつものように酒を楽しんでいた。


「姉ちゃん、一人か?」


 酒に酔った男が、ヴェルニカに声をかけた。

 身長は二メデルトもあろう大男だ。


「どうだ、一緒に飲まねえか?」

「間に合ってます。恋人がいますので」

「恋人? どこにいるんだよ」

「隣にいるわ」

「はあ? 隣って剣だぞ?」

「そうよ」

「ぎゃはははは!」


 大男が笑い飛ばした。


「こいつは失礼した。剣が恋人か。悪くはない。だがな……」


 そう言いながら、大男がヴェルニカの肩に手を置く。


「本物の人間のほうがいいだろ? 楽しませてやるよ」


 ヴェルニカの美しい青髪に、酒臭い顔を近づける大男。


 引退したとはいえ、ヴェルニカは元Cランク冒険者だ。

 こんな男に後れは取らないと、大男の手を強く払い除け、立ち上がった。


「バカにしないでくれる?」

「おいおい、俺とやろうってのか?」

「こう見えて元Cランク冒険者よ?」

「Cランクだと? そりゃすげー。ますます気に入った」


 大男は再度ヴェルニカの肩に手を置く。

 そして、強く肩を掴んだ。

 テーブルのグラスが倒れ、葡萄酒がこぼれる。


「痛っ」

「もう我慢できねー! こっち来い!」


 ヴェルニカは、もう一度大男の手を払いのけようとするも、全く動かない。


「ちなみに、俺はBランクだ」


 CランクとBランクでは、実力の差は明白だ。

 Bランク以上を上位ランクと呼び、Cランク以下を下位ランクと呼ぶほどに。


「くっ」

「おい、店の奥の部屋を借りるぞ!」


 大声を出す大男に対し、バーのマスターは恐怖で動けなくなっていた。


「や、やめて!」


 ヴェルニカの言葉を無視する大男。

 店の奥に連れて行こうと、ヴェルニカの首に腕を回した。


「くくく、いい匂いだぜ!」

「貴様、女性は嫌がっているだろう?」


 突然、一人の男が大男の腕を掴む。

 黒い顎髭と鋭い眼光が特徴的な、精悍な顔つきの中年男性だ。


「ぐっ、何だてめえ? いて、いてててて」


 腕を掴まれた大男は、ヴェルニカの肩から手を離し、その場にうずくまる。


「私が相手をしてやろうか?」

「離せ! 離せって!」

「みっともない真似はよせ」

「わ、分かったから! 離せって! いてーよ!」

「分かった? 舐めた口を利くな。ここで殺してもいいんだぞ?」


 黒髭の男の声が低く響くと、全身から殺気が溢れた。

 Bランクの大男は、それを感じ取る。


「ま、待て! す、すまなかった!」

「何だその謝罪は? 死にたいのか?」

「いてーって! いてーから! 折れるって!」

「口の利き方を知らぬようだな」

「や、やめてください! お願いします! お願いします!」


 黒髭の男が手を離すと、大男は床に土下座した。


「すみませんでした! もうしません!」

「女性の分も払っていけよ」


 Bランクの男はカウンターに金を投げるように置き、扉へ走っていった。


「大丈夫だったか?」

「あの……。ありがとうございます」

「礼には及ばんよ。皇都で観光客に迷惑をかける輩は許さないだけだ。わははは」


 豪快に笑いながら、黒髭の男はマスターに視線を向けた。


「店主、女性に一杯出してくれ」

「か、かしこまりました」


 マスターは素早くテーブルを拭き、新しいグラスに葡萄酒を注いだ。

 黒髭の男はカウンターに座り、ヴェルニカに視線を向ける。


「皇都の者が迷惑をかけた。これは詫びだ。飲んでくれ」


 まるで自分が責任を取るといった発言だ。

 助けてくれたこともあり、ヴェルニカは黒髭の男の隣に座ることにした。


「本当にありがとうございました」


 それに黒髭の男は、なぜだか人を惹きつける魅力があった。

 まるでマルディンのようだと、ヴェルニカは少しだけ懐かしさを感じていた。


「この剣は?」

「恋人の形見なんです」

「形見か。そうか……。いい剣だな」

「ありがとうございます」


 黒髭の男も葡萄酒を注文し、二人は乾杯した。


「おぬしは先ほど元冒険者だと言っていたが、今は違うのか?」

「はい。引退しました」

「その剣と関係があるのだな」


 ヴェルニカは引退の経緯を伝えた。

 この男になら話しても大丈夫という安心感があったからだ。

 ただ、マルディンのことは伏せていた。


「そうか。亡き恋人の仇を取って引退したのか」

「はい。この剣と一緒に世界を回ったので、そろそろ故郷へ帰ろうかと思ってます」

「故郷に帰って何をするのだ? 冒険者に戻るのか?」

「冒険者には戻りません。故郷でバーを開こうと思ってます」

「バーか。それはいいな。おぬしなら客も入るだろう」


 黒髭の男が葡萄酒を口にする。


「ところで、おぬしの故郷はどこだ?」

「ティルコアです」

「なんだと!」


 これまで冷静だった黒髭の男が、目を見開いた。


「あの、ティルコアがなにか?」

「ティルコアで冒険者……。おぬし、もしかしてマルディンという男を知っておるか?」

「マルディン! 知っているもなにも……」


 ヴェルニカは、最後のクエストがマルディンと一緒だったことを伝えた。


「そうか、あやつとクエストへ行ったのか」

「はい。当時のマルディンは実力を隠していたようですが、今ではAランクだそうです」

「Aランクどころではないぞ。おぬし、世界三大剣士は知っておるか?」

「もちろんです。ラルシュ王国にも行きましたし、何より我が国の皇帝陛下です」


 世界三大剣士は、ラルシュ王国のアル国王、レイ王妃、そしてエマレパ皇国のキルス皇帝だ。


「ここだけの話だが、マルディンはエマレパ皇帝と戦って、勝利したのだぞ」

「え? だ、だって、キルス皇帝陛下は世界三大剣士ですよ?」

「嘘ではないぞ。あやつの実力には本当に驚いたものだ。わははは」

「……まるで、ご自身が経験したようですね。ふふ」


 ヴェルニカが、笑みを浮かべながら葡萄酒を口にする。

 黒髭の男の話は冗談だと分かっているが、マルディンであれば、皇帝陛下に勝っても不思議ではないと思ったからだ。


「おぬし、面白い女だな。名はなんという?」

「ヴェルニカです」

「そうか、ヴェルニカ。明日も皇都にいるのか?」

「はい、もう少ししたらティルコアへ戻るつもりです」

「分かった。ヴェルニカ、明日宮殿に顔を出せ」

「え? 宮殿ですか?」

「来れば分かる。ティルコアでバーを出すなら、ヴェルニカに頼みたいことがあるのだ」

「わ、分かりました」


 宮殿に来いなんて、冗談にもほどがある。

 だが、ヴェルニカは信用することにした。

 黒髭の男は、そう思わせる圧倒的な存在感を放っていたからだ。


 その後も少しだけ話して、男は店を出た。

 もちろん、飲み代は全て黒髭の男が払っている。

 しかも多めに置いていった。


「なんだか、凄く不思議な人だったなあ。少しマルディンに似てたし……」


 宮殿へ行って何もなかったとしても、それはそれで笑い話になると考えていたヴェルニカだった。


 そして翌日、ヴェルニカは言われた通り宮殿に足を運んだ。

 そこで見たものは……。


 ◇◇◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ