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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
幕間

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第286話 副団長の憂鬱

 ◇◇◇


 ラルシュ王国の王都アフラに建つ騎士団本部。

 副団長室で、机に向かって書類を確認している一人の男性がいた。


 ラルシュ王国騎士団副団長で、冒険者ギルドのギルドハンター顧問の肩書きを持つウィル・ラトズだ。

 世界最高の双剣使いとして知られるウィルは、双竜という二つ名で呼ばれている。


「あー、書類仕事めんどくせーよ。何でオイラがやんなきゃいけないんだよ。ムカつく」


 今確認している書類は、騎士団長に予算の承認を求めているのだが、団長であるリマ・ブロシオンは皇后陛下の警護で不在だ。

 副団長のウィルは、団長と同等の決裁権を持っており、代わりに承認することができる。

 そのため、書類の全ての項目に目を通さなければならない。


「リマのヤツ、レイ様の警護でほとんど本部にいねーしよ。オイラだって陛下の護衛っていう仕事があんだよ」


 とは言うものの、国王は世界三大剣士の一人であり、その強さは突出している。

 正式な外交時以外、警護は全く不要だった。

 その国王アル・パートは現役Sランク冒険者でもあり、現在は一人でクエストへ出ている。

 いや、正確には始祖二柱と竜種一柱と一緒だ。

 これだけで一国の戦力を遥かに凌駕する。

 そのため、警護は必要ない。


 副団長室の扉をノックする音が響いた。


「ウィル副団長、ご機嫌いかがかな?」

「リックさんか。いいわけないっしょ。見てよこれ、リマの尻拭いだよ」

「はは。そうは言っても、ウィル君も団長と同等の権限があるんだ。君の仕事でもある」

「ちぇっ、簡単に言ってくれるよ」


 部屋を訪れた男性は、調査機関(シグ・ファイブ)局長兼冒険者ギルドサブマスターのリック・ライトだ。

 世界的な組織である冒険者ギルドにおいて、ギルマスに次ぐ地位にいる。

 リックの年齢は五十九歳で、ウィルとのつき合いは長い。


「ところで、君に任せたティアーヌの処遇は決めたか?」

「え? なに? そのためだけに騎士団本部まで来てくれたんだ。言ってくれればギルドへ顔を出したのに」

「構わんよ。リマがいないから忙しいと思ってたしね」

「なるほど。オイラのこの惨状を予想していたと……」

「そういうことだ。はは」


 凪の嵐(カーラル)のアジトへ乗り込んだことで、ティアーヌには処罰を科すことが決まっていた。

 もちろん、その原因はマルディンである。


「色々と考えたんだけどさ。ティアーヌは三週間の謹慎にしようと思ってるんだ。どうかな?」

「なるほど。仕事が生きがいのティアーヌには厳しい処分だ」

「アイツ、ずっと働いてきたっしょ? せっかく南国にいるんだし、ここら辺で一回ゆっくり休ませなきゃ。趣味すらないんだぜ? 浮いた話も聞かないし、年頃の娘なのにヤバいっしょ」

「ヤバいかは分からないが、謹慎は適切な判断だ」

「マルディンのバカも巻き込んで、ゆっくりしてくれるといいけどね」

「報告書を読んだが、マルディン殿も夜哭の岬(カルネリオ)との戦いやギルドハンターで、相当疲弊しているようだしね」

「そういうこと」

「では、調査機関(シグ・ファイブ)として、正式に通告するよ」

「ああ、お願いするね」


 本来の要件はこれで終わりなのだが、リックは一つだけ確認したいことがあった。


「ところで、ウィル君。これは仮定の話なのだが……。もしティアーヌがギルドを退職したいって言ったらどうする?」

「え? なに? そんなこと言ってんの?」

「いや、何も言ってない。ただ……」

「マルディンの元で働きたいって?」

「その可能性はあるだろう。現に特殊諜報室(ホルダン)のシャルクナ殿も、マルディン殿のために設立された中央局調査室(ブレッサ)に、期間限定で異動したようだ」

「そうなの? ムルグスも思い切ったことすんな。断罪のシャルクナって言やあ、黒の砂塵(アルドバ)でも一、二を争う諜報員じゃん。もったいねー」

「確かにそうなのだが、マルディン殿にはそういう魅力があるようだ」


 ウィルが頭の後ろで両腕を組み、椅子の背もたれに全体重をかけた。


「アイツって、部下の扱いがすげー上手いんだよ。オイラも見習ってる部分があるもん。騎士団時代はマジでいい上司だったんだろうね。まあ、団長候補だったくらいだし」

「セーム港の赤い海事件か……。あれがなければ、今頃は団長だったと言われているが……」

「結局内乱があったから分からないけどね。まあ結果的に、あの国家戦力がギルドに来てくれたんだ。マルディンにとって追放は悪夢でも、こっちは幸運だよ。はは」


 ウィルの言葉にリックは首を縦に振り、その言葉に同意した。


「で、ウィル君。ティアーヌはどうするつもりだ?」

「どうしても退職したいって言うなら許可するよ。だけど、マルディンと働くっていう理由なら、ギルド職員のままでいいっしょ。できれば手放したくない」

「その場合の待遇はどうするつもりだ?」

「リックさんには悪いけど、調査機関(シグ・ファイブ)から外す。独自の予算を持たせ自由にやらせる。唯一の命令は、マルディンとギルドを繋ぐこと」

「つまり、マルディン殿のパートナーを務めるというとこかな?」

「そうだね。ティアーヌの実力なら申し分ない。今回の凪の嵐(カーラル)の件で改めて分かったよ。ティアーヌはマルディンについていける」


 予想していた答えとはいえ、リックは小さく溜め息をついた。


調査機関(シグ・ファイブ)としてティアーヌを失うのは痛いが、それも仕方がない。認めよう」

「でもさ、仮の話だよ。もしそうなったら、だもん。大丈夫じゃない?」


 リックも昔は調査機関(シグ・ファイブ)の諜報員だった。

 人の機微な感情を読み取ることに長けており、ティアーヌの心の動きを感じ取っていた。


「……そうだな。そう願うよ。はは」


 要件を済ませたリックは、ウィルに背を向け扉へ向かう。


「では、ウィル副団長。嫌いな仕事を頑張ってくれ。ははは」

「くそっ!」


 リックの退室を見てから、ウィルは机から離れ、窓際に移動した。

 窓から入る夏の熱風が、身体にまとわりつく。


「ティアーヌの長期休暇か。とりあえず、資金を送ってやるか。旨いものでも食って、楽しんでくれるといいね」


 これはマルディンの真似だ。

 口は出さず金を出す。

 自分が金を出したことも伝えない。

 そうすることで、ティアーヌが変な気を使うこともない。


 だが、この時のウィルは、まさかティアーヌが古代迷宮の宝探しに行くとは想像もしていなかった。

 もし知っていたら……、ウィルも行きたがっていただろう。

 もちろん、多忙なウィルには無理な話だが。


「はあ、仕事すっか」


 溜め息をつき、机に向かった。


 ◇◇◇

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