表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第八章 真夏の大冒険

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

291/308

第285話 青髪の女は帰郷する4

 俺はみんなに声をかけ、繁華街の酒場を予約した。

 ヴェルニカの帰郷だ。

 盛大に歓迎会を行うことにした。


 日没を迎えると、続々と参加者が姿を見せる。

 フェルリート、アリーシャ、ラミトワ、リーシュ、レイリア、ラーニャ、ティアーヌ、シャルクナ、パルマ、ジルダ、グレクといったいつものメンバーに加えて、冒険者たちや漁師など、ヴェルニカの顔なじみも大勢集まった。

 ヴェルニカの人気の高さが伺える。


 全員が揃ったところで、盛大な乾杯だ。

 そして、ギルドの支部長であり、ヴェルニカの師匠でもあるラーニャが挨拶することになった。


「ヴェルニカちゃんが帰ってきたわ。みんな待っていたでしょう? ヴェルニカちゃんはもうこの町から出ないわよ。そして独身。私の言いたいことが分かるかしら? うふふ」

「な、なんつー挨拶だよ」


 俺は呆れながら周囲を見渡す。

 どうせみんなも呆れているだろうと思ったのだが、ラーニャの意図を汲んだ男どもが目の色を変えていた。


「ヴェルニカ! 俺と結婚しろ!」

「いや、俺だ!」

「バカ! 俺がいるだろ!」

「貯金して待ってたんだぞ!」


 一気に熱量が上がる会場。

 ラーニャが満足げな表情を浮かべ、ヴェルニカの肩に手を置く。


「ほら、ヴェルニカちゃん。ちゃんと会場を温めておいたわ。どう?」

「もう、ラーニャさん……。相変わらずなんだから。ふふ」

「うふふ、いいじゃないの。それじゃあ、挨拶お願いね」


 ラーニャがヴェルニカに挨拶を促すと、ヴェルニカが会場の中心に進んだ。


「みんな! 帰ってきました! やっぱり故郷は最高ね!」


 全員から拍手と歓声が上がる。


「落ち着いたら、私はバーを開くわ! みんな飲みに来てね!」

「マジか! 行くぞ!」

「酒なんて飲み尽くしてやる!」

「店ごと買うぞ!」


 歓喜する男ども。

 この様子を見れば、繁盛は間違いないだろう。


「あともう一つ聞いてほしいの! 大事な話よ!」


 騒いでいた男どもが黙る。

 すると、ヴェルニカは大きく息を吸い込んだ。

 視線はなぜか俺を向いている。


「私、マルディンと結婚する! みんなよろしく!」


 突然の宣言に、静寂が会場を支配した。

 そして、すぐにどよめきに変わり、怒号が飛ぶ。


「ぶー!」


 俺は盛大に麦酒を吹き出してしまった。

 周りにいた娘たちが、俺の顔を見つめている。


「え? マルディン、本当なの?」

「マルディン、どういうことですか?」

「おい、おっさん! ふざけんなよ!」

「わー、結婚! 凄い!」

「ふーん、そうなんだ」

「あらあら、婚約者は私なのに?」

「えー! 私じゃダメですか?」

「それでも私はついていきますが……」


 娘たちがそれぞれ勝手なことを言いながら、俺に冷たい視線を送っている。

 俺には全く身に覚えがないし、そもそもヴェルニカと結婚するわけがない。


「ちげーよ! どう考えたって冗談だろ!」


 全力で否定したが、俺は荒くれどもに囲まれてしまった。

 男どもの最前列にいる二人。


「てめえ、ぶっ殺してやる!」

「マジで何なんだよ! てめえ!」


 ジルダとグレクの眉間に、血管が浮き出ていた。

 他の冒険者や漁師たちも同じだ。


 俺はヴェルニカを睨みつけた。


「ヴェルニカ! お前なんつーことを!」

「嫌なの?」

「そういう問題じゃねーだろ!」


 ジルダが俺の胸ぐらを掴む。


「てめえ! 表に出ろ! 今日という今日はもう許さん!」

「ちっ、いいだろう。面倒だからまとめてやってやる。全員表に出ろ!」


 男どもが怒号を上げながら、続々と扉へ向かう。

 俺も扉へ進むと、レイリアが俺の肩を軽く叩いた。


「ねえ、ほどほどにしなさいよ。私の仕事を増やさないでね」

「おいおい、どう見ても俺のせいじゃねーだろ」


 扉に手をかけると、フェルリートが俺の顔を見上げていた。


「マルディン。大丈夫?」

「こんなの遊びだよ遊び。ヴェルニカが帰ってきて、みんな嬉しいのさ」


 俺はフェルリートの頭に、そっと手を乗せた。


 すると、背後から強烈な殺気を感じた。


「マルディン様、私が相手をしましょうか?」

「や、やめろ! お前がやると洒落にならん! 殺気を出すな!」


 シャルクナの表情は真剣そのものだ。

 必死にシャルクナを説得して表に出ると、数十人の男どもが立っていた。


「てめえ、Aランクだからって調子に乗ってんじゃねーよ!」

「フェルリートを返せよ!」

「いいや、こいつはアリーシャと仲が良すぎるんだよ!」

「ラミトワは別にいいが、美女を独り占めしすぎだろ!」

「俺はティアーヌさんが好きなんだよ!」

「シャルクナさんを俺にくれよ!」


 騒ぎ立てる男どもをかき分け、ジルダとグレクが先頭に立つ。


「おめーら! マルディンに勝って、好きな女を奪い返せ!」

「「「おー!」」」


 ◇◇◇


 店の窓から、ラーニャが楽しそうに様子を眺めている。

 まるで心配していない。

 そんなラーニャに、部下であるパルマが近づいた。


「支部長、止めなくていいんですか?」

「あなたに止められる?」

「い、いえ、こうなったらもう無理です」

「みんな楽しんでるんだからいいじゃないのよ」

「楽しんでるって……。多勢に無勢ですよ?」

「大丈夫よ。そもそも手を抜いた状態ですら、マルディンに敵う者はいないもの」

「言われてみれば、そりゃそうですね。はは」

「あ、でも、マルディンが敵わない相手もいるわねえ」

「え? 誰ですか? そんな実力者がうちにいましたっけ?」

「いるわよう。それもたくさんね。うふふ」


 ラーニャはこれから起こることを予想して、微笑みながら葡萄酒を口にした。


 ◇◇◇


 次々と俺に挑んでくる男ども。

 俺は手加減しながら、素手で沈めていく。


「ぐうう。強すぎる……」

「この化け物が……」

「Aランクはやべえって」


 全員が腹を抑え、地面にうずくまっている。


「ったく、どうしていつもこうなるんだ。飲み直しだ」


 俺は扉へ向かう。

 しかし、入口には一人の娘が立っていた。


「次は私が相手だよ?」

「お、おい、フェルリート」

「もう許さないんだから!」

「許さないって、お、お前……」


 フェルリートが両手を腰に当て、立ちふさがり、珍しく俺を睨みつけている。


「フェルリート! 私も手伝う! こんなおっさん、やっちまおーぜ!」


 ラミトワが便乗してきた。


「ま、待て!」


 ヴェルニカに視線を向けると、肩を丸め萎縮していた。


「ラーニャさん、ごめんなさい。これほど大事になるとは思わなくて」

「そうねえ。でも、これはヴェルニカちゃんが悪いんじゃなくて、マルディンが悪いのよ」


 レイリアがヴェルニカの肩に手を置いた。


「そうよ、ヴェルニカ。誰かさんが、いつまでもはっきりしないからよ」


 レイリアが冷たい視線を俺に向けている。

 絶対に悪ノリして楽しんでいるようだ。

 普段のレイリアは、こんなことを言わない。


「ちょっと! マルディン! どこ向いてるの! ほら、かかってきなさい!」

「かかってこいよ! おっさん!」


 フェルリートとラミトワが拳を構えた。

 その姿を見て、俺は両手を上げて降参する。


「まいったよ。俺の負けだ」

「負けってなによ! まだ勝負はついてないよ!」

「なに! おっさんの負け! じゃあ飛空船ちょうだい! ちょうだい!」


 喜びの舞と叫びながら、センスのない踊りを披露するラミトワ。


 俺はフェルリートの肩に手を置く。


「ま、まあ、ほら、飲み直そうぜ」

「もうそうやっていつもはぐらかす! マルディンのバカ! ふん! ふん!」


 フェルリートが俺の腹を何度も殴ってくる。

 もちろんフェルリートは加減しているし、俺も全く痛くない。

 子どものかわいい喧嘩のようだ。


「ラミトワ! 踊ってないでフェルリートを止めろ!」

「飛空船くれたらいいよ」

「ふざけんな!」


 なんとかフェルリートをなだめ、俺は会場に戻る。

 しかし、アリーシャ、レイリア、ティアーヌが腕を組んで立っていた。


「私たちとも勝負しますか?」

「負けないわよ?」

「真剣勝負です!」

「マ、マジかよ。もう無理だって……。勘弁してくれ……」


 三人とも絶対楽しんでいる。

 その証拠に、表情は明るい。


 それにしても、ヴェルニカの帰郷は嬉しいが、これほどの騒動を起こすとは思わなかった。


「はあ、とんでもない奴が帰ってきちまったぜ」


 俺は三人をなだめようと近づく。

 すると、背中を二回叩かれた。


「マルディン、助けてあげるわよう?」

「助かるぜ」


 振り返るとラーニャの姿があった。

 嫌な予感しかしない。


「その代わり、私と勝負してね」

「お、お前は無理だ! マジで死んじまう!」


 ラーニャの勝負は、いわずもがな酒だ。

 マジで命に関わる。


 俺はヴェルニカに視線を向けた。


「ヴェルニカ! お前のせいだぞ! 責任取れ!」

「え? じゃあ、責任取って……」

「ま、待て! その先は言わなくていい! やめろ!」


 俺が頭を抱えると、娘たちが全員で声を出して笑い出した。


「マルディンに勝った!」


 大騒ぎする娘たちに、溜め息しか出ない。

 まあでも楽しそうで何よりだ。


 ヴェルニカが、葡萄酒のグラスを俺に手渡してくれた。


「マルディン、ごめんなさい」

「マジで勘弁してくれ。だが、帰郷は心から歓迎するよ。おかえり、ヴェルニカ」

「あ、ありがとう……」


 俺は改めてヴェルニカと乾杯した。

 

 そして、復帰してきた男どもと大騒ぎしながら、夜は更けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ