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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第八章 真夏の大冒険

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第264話 見つけに行こう11

「で、何で分かるんだ? 位置は正確なのか?」


 ラミトワが立ち上がり、両手を腰に当てる。

 少し呆れた表情を浮かべながら、小さく溜め息をついた。


「あのねえ、私は運び屋だよ。こういった場所では常に歩数を数えているの。私の歩幅は基本六十五セデルト。これで移動距離が分かるでしょ。方位計で正確な方向を確認。最新の地図は記憶してる。さらに今は携帯時計も持ってる。これで分からないほうがおかしいよ」


 移動中に、これほどのことをしているとは気づかなかった。

 この年齢でBランクの運び屋は凄いとは思っていたが、正直ここまで凄いとは驚きだ。


「お前って……マジで凄いんだな」

「当たり前だ! だからもっと褒めろ!」


 ラミトワが両足を広げ、鼻高々に上体を反らした。


「ラミトワちゃんは本当に凄いですね。この暗闇でそれができる運び屋は、Aランクでも少ないですよ」

「はい。一流の諜報員でもいません」


 ティアーヌが微笑みながら小さく拍手し、シャルクナが笑顔で同意した。

 しかし、シャルクナの感想は……。

 諜報員って……。

 俺はバレないか冷や汗をかいた。


「諜報員? 私、スパイになれるってこと?」

「なれるわけねーだろ」

「なんでだよ! こんな美人なのに! 私の魅力で男を落としていくんだ!」

「お前……スパイを勘違いしてるって……」


 その後も間違ったスパイ妄想を垂れ流すラミトワに、ティアーヌとシャルクナは楽しそうに耳を傾けていた。


 ――


 夕食を終え、ラミトワが改めて地図を広げる。

 ラミトワが新たに描いた洞窟内の地図だ。

 これまでのルートを立体的に記している。

 驚くほど画力が高い。


「マルディン。私の予想だと、明日には岬の先端に到着するよ」

「洞窟の先が分かるのか?」

「そこまでは分からないけど、これまでのルートからこの洞窟の癖みたいなものは掴んだよ。私の予想と、そう大きくは外れてないと思う」


 ラミトワが地図を指でなぞる。

 数回蛇行して岬の先端を指差した。

 予想したルートだろう。


「予定よりもだいぶ早いな」

「マルディンのおかげだね」

「俺の? どうしてだ?」

糸巻き(ラフィール)だよ。亀裂や岩壁が行く手を阻んでいたけど、糸巻き(ラフィール)のおかげで全く苦にならなかった。だって本来なら、初日の亀裂を越えることすら難しかったんだよ。この大荷物を持って、いとも簡単に越えちゃうんだもん。本当に凄いよ」

「ってことは、今までの亀裂や岩壁は、全部仕組まれていたのか?」

「うん。この宝の地図の制作者は、自然の姿をそのまま罠にしたんだ。難易度は相当高いよ」

「なるほどな。じゃあ、ここまで来れたのはリーシュのおかげだ。帰って肉を奢ってやるか」

「そうだね。私も行くよ」

「いいけど、お前は自腹だぞ」

「なんでだよ! 私もお肉食べたい!」

「おいおい、宝が手に入るんだぞ? 金持ちになるんだろ?」

「違うんだなー。マルディンはまるで分かってない。マルディンに奢ってもらうお肉が美味しいんだ」


 ラミトワが大きな溜め息をつき、肩をすくめている。

 こいつは堂々と何を言っているのだろうか。


「分かります。私もマルディンさんがご馳走してくださるご飯が、この世で最も美味しいと思ってます」


 ティアーヌが食後の珈琲を飲みながら呟いた。

 カップを両手で持ち、少し微笑みながら遠くを見つめている。

 仕草も表情も美しいが、言ってることは最低だ。


「では私も一緒に行きます」


 シャルクナまでもが同意した。

 このままでは、また全員分を奢らされる。


「今日も疲れたぜ。さて、寝るか」


 俺は何も聞いていないかのように、娘たちを無視してテントに潜り込む。

 ラミトワが騒いでいるが、気にせず就寝した。


 ――


 翌朝、キャンプ地を出発。

 これまで以上に険しくなった洞窟内を進む。

 ここでも糸巻き(ラフィール)が大活躍だ。

 もし糸巻き(ラフィール)がなければ、洞窟攻略は無理だっただろう。


 道は徐々に平坦になっていき、横幅は五メデルト、天井までも五メデルトとかなり広い空間に出た。

 これは初日に上空から見た洞窟の形状と同じだ。

 僅かに波の音も聴こえる。

 このまま真っすぐ歩けば海に出るのは明白なのだが、まるで蓋をされたように岩壁が反り立つ。


「マルディン、もう岬の先端だと思うよ」

「だが、行き止まりだぞ」


 ラミトワが立ち止まり、ランプで正面の壁を照らす。


「ねえ、マルディン。この壁って擬岩蟲(ビボッタ)じゃない?」

「そうだと思うが、なんかおかしくないか?」


 擬岩蟲(ビボッタ)の体長は一メデルトほどだ。

 しかし、壁の高さは五メデルトもある。

 何匹も積み重なっているようには見えない。


「もしかして……。これって一匹なんじゃないですか?」

「はい。私もそう思います」


 ティアーヌとシャルクナもランプをかざし、壁を見上げていた。


「調べてみる。お前たちはここで待て」


 俺は娘たちに近づかないように指示を出し、岩壁に接近した。

 岩に見えるが、擬岩蟲(ビボッタ)の外殻で間違いない。


「確かに……擬岩蟲(ビボッタ)だな」


 擬岩蟲(ビボッタ)は外殻に触れると細い針を出す。

 その針で生物の体液や血液を吸う。

 外殻に触らなければ無害だ。


 俺はランプをかざし、外殻を見上げた。

 外殻は通常の擬岩蟲(ビボッタ)と同じでも、驚くのはその大きさだ。

 縦横五メデルトの半円状で、洞窟との隙間はなく、まるで一体化しているかのような完璧に適合した形状だった。


「長き年月を経て、この形状になったのか?」

擬岩蟲(ビボッタ)にネームドはいないけど、これはネームドに匹敵すると思うよ」


 振り返るとラミトワが俺の背後に立ち、擬岩蟲(ビボッタ)を見上げていた。


「近づくなって」

「大丈夫だよ。触らなければ害はないもん」


 ティアーヌとシャルクナも、こちらに歩いてきた。

 ティアーヌが外殻の前で片膝をつき、触れないように観察している。


「ちょっと失礼しますね。外殻を少しだけ削ります」


 重槌(マルテッロ)を構え、岩壁を削るように砕いた。

 そして、地面に落ちた破片を拾い上げ、凝視している。


「嘘でしょ……。これ……恐らく数千年生きてます」

「す、数千年だと!」

「はい。これ見てください。何重もの層になってますよね」


 ティアーヌが言う通り、外殻の断面が樹木の年輪のように層を重ねていた。

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