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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第八章 真夏の大冒険

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第263話 見つけに行こう10

 夕飯は干し肉のスープと乾燥パンだ。

 大量の汗をかいたため、塩は多めに入れている。


「それにしても、この洞窟はヤバいな。人工的な罠はなく自然の迷宮だ。何より蟲が多い。なんだったら引き返してもいいぞ? どうする、ティアーヌ」


 硬いパンをスープに浸しながら、俺はティアーヌを見つめた。


「ここまで来たんです。もちろん進みます」


 ラミトワとシャルクナも強い眼差しで頷き、ティアーヌに同意した。

 娘たちが行く気であれば俺は止めない。


「宝の内容が、この探索に見合うといいな」

「マルディンってロマンがないよね。宝は内容じゃないんだよ。宝を探すことに価値があるんだよ」

「そうか。ラミトワさんは宝の内容に興味がないのか。じゃあ、宝はもらうぞ」

「ふざけんな! 宝は私のものだ!」


 立ち上がって大声を上げるラミトワ。

 俺を見下ろすように睨みつけている。


「ったく、うるせーな。蟲にビビってたくせによ」

「な、なんだと! ビビってねーよ!」


 拳を握りながら頬を膨らませるラミトワ。

 俺はその姿を見て安心した。

 まだ余裕がある。

 これなら大丈夫だろう。


「ふふふ。ラミトワちゃんは元気だなあ」


 ティアーヌが笑いながら俺に視線を向けた。


「ところでマルディンさん、今の時間は分かりますか? 夕方くらいだと思いますが」


 暗闇の中を進んでいたため、正確な時間が分からない。

 だが、俺は最新の時計をラミトワに預けていた。


「ラミトワ、時計は?」

「えーと、今は十七時だね」


 ラミトワがリュックから、手のひらに収まるほどの小さな四角い箱を取り出した。

 これはラルシュ工業と開発機関(シグ・ナイン)が共同開発した携帯型の時計だ。

 一日を二十四で区切り、針が一周すると一日が経過する。


 これまでの時計はかなり大掛かりな装置なため、大きな都市にしかない。

 そのため庶民は、太陽、月、星の位置や、日時計で一日の時間を把握していた。


 それが持ち運べる大きさにまでなったことで、国家機関や貴族、豪商などが携帯時計を導入。

 とはいえ、あまりにも高価で民間には流通していないそうだ。

 俺は冒険者ギルドの上層部から、試作品として特別に支給された。


 この携帯時計の原動力は『竜光石』だ。


 数年前に竜種の住処で発見された竜光石。

 鉱石の珍しさを示すレア度は、十段階中の九と非常に珍しく高価だ。

 それもそのはず、竜光石は自ら発光する石だった。

 当初は富裕層が照明として利用していたが、ラルシュ工業がとんでもない発明をした。


 これに雷を流すと、動力を生み出すそうだ。

 俺の糸巻き(ラフィール)も、実はこの竜光石が原動力だという。

 糸巻き(ラフィール)の竜光石は一年に一回ほどの頻度で、交換する必要がある。


 どうやって鉱石に雷を流すのかは分からないし、動力の原理も分からない。

 ただ、世の中には信じられない天才がいることだけは分かる。

 糸巻き(ラフィール)を開発したリーシュもその一人だ。


「十七時ですか。マルディンさん。今日はもう少ししたら寝て、明日の早朝に出発しましょう」

「分かった。見張りはどうする?」

「順番はラミトワちゃん、シャルクナさん、私、マルディンさんです」


 ティアーヌはリーダーとして、最も辛い順番を選んでいた。

 その責任感はさすがだ。


「いや、ティアーヌと俺が変わろう。お前はゆっくり寝るんだ」

「でも……」

「気にすんな。俺は慣れてる。知ってるだろ?」

「そ、そうですね。では、お言葉に甘えて……。マルディンさん、ありがとうございます」


 騎士時代は過酷な任務が多かった。

 寝ずに見張りをするなんて当たり前で、僅かでも寝られることのほうが珍しい。

 こういったことには慣れている。


 俺たちは食事の片付けをして、眠りについた。


 ――


「皆さん、起きてください」


 ティアーヌの声で目を覚ました。

 テントは二つ設置しており、一つは女性陣、もう一つが俺用だ。

 さすがにこの狭いテントで、娘たちと寝るのは無理がある。


 俺のテントを開けたティアーヌが、笑顔を浮かべていた。


「おはようございます」

「おはよう、ティアーヌ。問題なかったか?」

「時折、千脚甲蟲(ペミード)が天井を通り過ぎたくらいですね」

「大丈夫だったか?」

「はい。単体でしたので。ふふ」


 ティアーヌが、口に手を当てながら笑っていた。


 俺はテントから出て、大きく伸びをした。

 無事に朝を迎えたわけだが、洞窟内は暗闇だ。

 早朝の爽快感はない。


「朝かどうかも分からんな。はは」


 携帯時計がなければ、完全に時間が分からなくなっていただろう。


 ティアーヌが朝食を準備してくれていたため、すぐに飯を食ってキャンプを片付けた。


「出発しましょう」


 ティアーヌの掛け声で、二日目の探索を開始。


 入り組んだ洞窟は、まさに天然の要塞だ。

 そして、とにかく節足型モンスターが多い。

 岩壁に擬態する擬岩蟲(ビボッタ)

 天井を埋め尽くす千脚甲蟲(ペミード)

 岩を走り回る磯蛆蟲(シラッタ)

 岩の隙間に潜む赤百足(プエレラ)

 他にもまだまだいる。

 さらには、それらの節足型モンスターを喰らう海甲蛙(トラコス)

 食べかすや死骸を拾う寄生貝蟹(パログル)など、洞窟内は食物連鎖が構築されていた。


赤百足(プエレラ)だ!」


 俺は悪魔の爪(ヴォル・ディル)を抜き、姿を現した赤百足(プエレラ)の首を切り落とした。

 体長二メデルトほどの身体が、身をよじりながら痙攣している。

 このまま放置しても問題ない。

 他のモンスターが死骸を食い尽くすだろう。


「ったく、悪魔の爪(ヴォル・ディル)が体液まみれだぜ」


 本来は糸巻き(ラフィール)で離れたモンスターを切断したり、撃ち抜きたいところだが、俺は(フィル)に体液がつくことを嫌った。

 切れ味が落ちるし、何より手入れが大変で、最悪(フィル)を交換する必要が出てくる。

 俺が現在使用している(フィル)は特別だ。

 そう簡単に手に入る物ではない。


「また赤百足(プエレラ)です!」


 シャルクナが両断剣(ツヴァイヘンダー)を抜き、赤百足(プエレラ)を縦に両断した。


 節足型モンスターは正直気持ち悪いが、不思議なもので討伐していくうちに慣れていった。

 娘たちもそれなりに対応している。

 こんな暗闇で、気持ち悪い蟲どもを相手によくやっていると思う。


「マルディン。次に広い空間があったら、そこでキャンプしよう。そろそろ夕方だよ」

「分かった」


 ラミトワが携帯時計を確認していた。


 しばらく進むと丁度いい広さの空間に出たため、テントを設置。

 すぐに焚き火を焚いた。


 シャルクナが食事を作っている隣で、ラミトワが地図に行程を記入している。

 そして地図を指差した。


「マルディン、ここが現在地だよ」

「何で分かるんだ?」

「え? マルディンは分からないの?」


 ラミトワが瞳を大きく見開き、不思議な表情で俺を見上げている。


「マルディン隊長は分からないの? どうして? 騎士だったんでしょ?」


 不思議なふりをして、完全に俺をバカにしている。

 蟲の時の仕返しだ。


「はいはい。ラミトワさんには敵いませんよー」

「なんだよ、相手してよ」

「おじさんはね、疲れてるの」

「ったくよー、これだからおっさんはよー」


 ラミトワが諦めたように肩をすくめた。

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