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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第八章 真夏の大冒険

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第262話 見つけに行こう9

「湿度が高いな……」


 洞窟の入口から十歩ほど進むと、明らかに空気が変わった。

 密林内も湿度は高かったが、洞窟内はその比ではない。

 身体にまとわりつく不快極まりない湿度は、容赦なく体力を奪っていく。


「お前たち、水分はこまめに取るように」

「「「はい」」」


 水は十日分を用意している。

 俺が半分の量を背負い、残りの半分を娘たちが三等分して持つ。

 もし誰かに何かあっても、全てを失うことはない。

 四人の中でラミトワの体格が最も小さいが、それでも重いリュックを背負っていた。


「ラミトワ、重くないか?」

「うん。大丈夫だよ」

「無理するなよ」

「え? う、うん。ありがとう。優しいね」

「体力配分が大切だぞ。疲労で動けなくなることもある。足手まといになるとパーティーが危険になるからな」

「なんねーよ!」


 ラミトワが俺の腹を何度も殴ってきた。


 岬の先端までは直線距離でたったの五キデルトだが、洞窟内はどのような経路になっているのか分からない。

 曲がりくねっている可能性は高いし、高低差もあるだろう。

 なにせ古代王国時代に作られた宝の地図だ。

 簡単に攻略できるはずがない。


 二千年前に滅びた古代王国は、世界中に遺跡が残っている。

 その中に、古代迷宮というものが存在するそうだ。

 約八千年も続いた古代王国は、中期から後期にかけて民衆を相手にした迷宮探検が流行。

 古代の王たちは、この迷宮で民衆の支持を得ていたという。


 つまり、この洞窟も古代迷宮の一つかもしれない。

 そのため意図的な危険が仕掛けられている可能性もある。

 もちろん、二千年以上も経過していることで、正常に稼働しない可能性のほうが高いだろうが、警戒は必要だ。


「だいぶ暗くなってきましたね」


 ティアーヌが振り返り、入口を見つめた。

 辛うじて光は届くが、すでにランプがないと足元は見えない。

 四人がそれぞれランプを持っている。


「慎重に進むぞ」

「ぎゃああああ!」


 言ったそばから、ラミトワが悲鳴を上げた。


「どうした!」

「マ、マルディン……。上、上、上」


 ラミトワの顔をランプで照らすと、苦虫を噛み潰したような表情で俺を見つめながら、人差し指だけを天井に向けている。


「きゃっ!」

「んっ!」


 俺が反応するよりも前に、ティアーヌとシャルクナが声を上げた。

 俺は天井にランプをかざす。


「こ、これは……」


 天井を見上げた瞬間、三人の娘たちが俺を囲むようにしがみついてきた。


「離れろって! 危ねーだろ!」

「無理無理無理無理!」

「気持ち悪い!」

「怖がってません!」


 シャルクナは発言と行動が伴っていない。


「くそっ! 離れろって!」


 娘たちが俺から離れない。

 仕方がないので、俺はそのまま天井を観察した。

 

千脚甲蟲(ペミード)か!」


 天井には無数の千脚甲蟲(ペミード)が蠢いている。

 千脚甲蟲(ペミード)はEランクの節足型蟲類モンスターで、体長は一メデルト、幅は三十セデルトだ。

 丸太を半分に切ったような体節は二十から三十もあり、一つの体節に四十から五十の足が生えていると言われている。

 名前の通り、千本の足を持つモンスターだ。


 甲殻は黒紅色で光沢を持つため、ランプの光を反射している。

 久しぶりに光に当たった影響なのか、千脚甲蟲(ペミード)たちは激しく動いていた。


「こ、こりゃ気持ち悪いな。だが……」


 千脚甲蟲(ペミード)は腐肉食のため人間を襲うことはない。

 毒もないし、危険はない。


「人に害はない。進むぞ」


 俺は確かに節足型モンスターが嫌いだ。

 見た目がとにかく気持ち悪い。

 だからといって、蟲ごときを恐れる俺じゃない。

 嫌いと怖いは違う。


「おや? 君たちは怖いのかな? ん?」


 さっきと立場が逆転したようだ。


「そ、そんなことないっつーの!」

「うう、大丈夫です……」

「私は怖がってません」


 俺が先に進もうとすると、両腕にしがみついてくる。

 ただでさえ重い荷物を持っているというのに、これでは体力を消耗してしまう。


「早く行かないと落ちてくるぞ?」

「「「っっっ!」」」


 三人が言葉にならない悲鳴を上げていた。


 ――


 その後も洞窟を進むたびに、節足型モンスターが姿を見せる。

 単体のものや、群れているものなど多種多様だ。

 初めて目にするモンスターもいた。

 基本的に襲ってくるモンスターはいなかったが、中には毒を持つモンスターがいたため仕方なく俺が討伐。

 剣に付着した体液を何度も拭うも、キリがないので諦めた。

 帰ったらリーシュに手入れしてもらう。


 洞窟内は複雑に入り組んでおり、ラミトワが記した地図で確認すると、上下左右に大きく蛇行していた。

 地面の亀裂や、ロープを使わないと登れないような壁もあり、その都度、俺は娘たちを抱えて糸巻き(ラフィール)で移動した。


「マルディン。今日はここでキャンプしよう」


 少し広めの空間に出たところで、ラミトワがリュックを下ろした。


「そうだな。ティアーヌ、いいか?」

「はい。そうしましょう。すぐに火を焚きますね」


 ティアーヌがランプ内で火がついた燃石を一つ取り出し、地面に置く。

 そして、リュックから燃石を取り出し、燃える燃石の上に積み上げると、すぐに火がついた。

 洞窟内に枝なんてないし、あったとしてもこの湿度では使い物にならない。

 燃石は非常に便利だ。

 唯一の欠点は重いことなのだが……。


「洞窟内にも質の良い燃石があるな。持ってきた燃石はここに置いて、現地調達するか」

「ええ、そうしましょう。数日分とはいえ、燃石の重さは軽視できませんからね」


 ティアーヌが壁際に立ち、採取短剣(コルテッロ)で岩壁を削り始めた。

 岩の破片を掴み、観察している。


「マルディンさんの仰る通り、品質は良いですね。これなら問題ないです」


 ティアーヌが破片を焚き火に投入すると、橙色の炎が上がった。


 こうして俺たちは、初日のキャンプ地を決めてテントを張った。

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