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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第七章 薫風南より来たる

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第247話 暴走の後始末7

 診療所へ入ると、すでに診察は終わっており、待合室の片付けを行っているレイリアの姿があった。


「ただいま、レイリア。心配かけたな」


 声をかけると、レイリアがゆっくりと俺に視線を向けた。

 いつもの優しい笑みを浮かべている。


「おかえりなさい」


 俺の正面に立つレイリア。

 手を後ろに組み、俺の顔を見上げている。


「無事……ではなさそうね。その頬の傷は?」

「切創だ。剣で切られた」

「診るわね」

「ああ、頼むよ」


 俺たちは診察室へ移動した。

 レイリアが包帯を取り、診察している。


「鋭い傷ね。でも、これだけ鋭いと、逆に傷跡は残らないわ」

「相手は達人だったからな」

「そっか……。顔の傷だけで済んでよかったわ」

「そ、そうだな。すまん」


 レイリアに余計な心配をさせてしまったかもしれない。

 命をかけた戦いなんて、医師としては許せないだろう。

 目線だけでレイリアの顔を見ると、表情は変わらず淡々と診察していた。


「応急処置も素晴らしいわね」


 麻酔薬を浸した綿を傷口に塗り込んだ。


「少し染みるわよ。あと傷口を縫うから、少し痛むわ。我慢してね」

「大丈夫だ」

「さすがね」


 傷口を消毒してから、専用器具で縫い始めた。

 手術の音だけが診療室に響く。


「はい、終わったわよ。一週間は安静にしなさい」

「すまんな。ありがとう」

「もしかしたら熱が出るかもしれないから、解熱の薬草を出すわね」


 レイリアは机に向かい、診療録に診療結果を記入している。

 俯いた顔に美しい黒髪がかかると、左手でそっと耳にかけた。

 自然な仕草なのに、つい見惚れてしまう。


「なあ、レイリア」

「なあに?」

「その……何も言わないのか?」


 レイリアは、普段と様子が全く変わらない。

 正直、猛烈に怒られると思っていた。


「どうせみんなに怒られたんでしょ?」

「そうだな。人生で一番怒られたよ」

「じゃあ、私が言うことはないわ。言いたいことは、みんなと同じだもの」

「そ、そうか」

「それに、あなたの顔を見たら、怒る気がなくなったわ」

「なんでだよ」

「あなたが無事に帰ってくるだけで嬉しいのよ。たくさん心配もしたし、ずっと怒ってたけどね。不思議なものね」

「すまん」

「別にいいのよ。あなたと結婚したら、もっと大変なこともあるでしょうしね。これくらいは我慢するわよ」

「そ、それは……」

「うふふ、意地悪しちゃった」


 レイリアが顔に包帯を巻いてくれた。

 息づかいも聞こえるほど、美しい顔が近い。


凪の嵐(カーラル)は壊滅したよ」

「壊滅……。あなたって、本当に凄い人なのね」


 レイリアは、俺が壊滅させた怒れる聖堂(ナザリー)の件も知っている。


 今回の件で、ティルコア近海の海賊は一掃されたはずだ。

 漁師の娘であるレイリアは、平和な海になったことを喜んでくれた。


「これでまた一緒に船釣りへ行けるわね」

「もう……行かんよ」

「釣れなかったから拗ねてるの?」

「そ、そんなんじゃねーし」

「今度は釣れるわよ」

「行かないね」

「どうして? 船酔いでもしたの?」

「う、うるせーな」

「ちゃんと酔い止め薬を出すわよ」

「俺は釣るより食うほうが好きだ」

「はいはい。自分で釣った魚の味は格別なのよ?」


 俺の話を全く聞かないレイリア。

 何度やっても魚は釣れないのに、海賊を釣ったなんて笑い話にもならない。

 もう釣りは懲り懲りだ。


「そういえば、フェルリートはずっと泣いてたわよ。あんな可愛い娘を泣かせちゃダメでしょう?」

「そうだったのか……。悪いことをしたな」

「あなたが町のことを考えてくれているのは、とてもよく分かるの。だけどね、怒れる聖堂(ナザリー)の時と同じよ。自分を犠牲にするようなことはやめてね」

「そうだな。気をつけるよ」


 レイリアが俺の腕に、陶器のような美しい手を乗せた。

 とはいえ、もしまた同じようなことがあれば、俺は繰り返すかもしれない。

 それは自分を犠牲にするわけではなく、心からこの町を守りたいからだ。


「でも、マルディン。本当にありがとう。あなたのおかげで、この町の治安は保たれているわ」

「そう言ってくれると救われるよ」


 レイリアの言葉は、いつも俺に安らぎを与えてくれる。

 そして、その眼差しは慈愛に溢れていた。


「すみませーん!」


 突然、待合室から声が聞こえた。

 若い娘の声だ。

 診療は終わっているのだが、急患だろうか。


「あら、フェルリートの声じゃない?」

「確かにフェルリートだな」


 レイリアが対応して、フェルリートを診察室に招き入れた。

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