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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第七章 薫風南より来たる

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第246話 暴走の後始末6

 俺の心を読んだかのように、王妃が笑みを浮かべた。


「『冒険者ギルドとしては、マルディンを全面的に支持する』そうよ」

「え? 支持……ですか?」

「ええ、そうよ。国際的な冒険者ギルドとはいえ、他国に干渉することはできないわ。でも、犯罪組織の壊滅は、現在のギルドの使命でもあるのよ。それに、あなたはこれまで、ギルドのために数々の難しいクエストをこなしてくれたもの。今度はギルドがあなたを全面的に支援するということよ。ちなみに、そのギルドの本国ってどこか知ってる?」

「まさか!」


 冒険者ギルドの本国はラルシュ王国だ。


「公式には言えないけどね。ラルシュ王国も可能な限りあなたに協力するわ。私もね、騎士団長時代は犯罪組織と戦ったのよ。数々の組織を潰したわ。私の立場ではもうできないけど、今でも現場に出たいと思っているのよ。うふふ」


 さすがは世界三大剣士の一人だ。

 美しい見た目とは裏腹に、驚くほど武闘派だった。

 背後に立つリマとウィルが、苦笑いしている。

 そういえば、騎士団長時代の王妃は、犯罪組織にかけられた懸賞金が最高額だったと聞いたことがある。


「キルスとの会談内容に入ってないけど、その点も話すつもりよ」

「そうでしたか。お手数をおかけして申し訳ございません」

「国家間の交渉事があったら、協力するから遠慮なく言ってね」

「も、もったいなきお言葉、感謝申し上げます」

「もう、普通にしてって言ったでしょう」


 少しだけ頬を膨らませる王妃。

 威厳に満ちているとはいえ、美しさの中に可愛らしさが見える。


「ところで、レイ陛下のティルコア来訪を知る者はいるのですか?」

「キルス陛下だけだよ」


 答えたのはリマだった。


「このギルドには、ウィルが立ち寄ることしか伝えてない」

「なるほどね。では、俺が今日この場でレイ陛下に謁見した事実はないということか」

「理解が早くて助かるよ」


 リマが片目を閉じて、笑みを浮かべた。


「さて……」


 正面に座る王妃が姿勢を正すと、途端に部屋が張り詰めた。


「ねえ、マルディン」

「はっ!」


 王妃の表情が引き締まった。

 細身の身体から発せられるオーラとでも言うのだろうか、見えない圧倒的な迫力を感じる。

 達人は周囲の空気すら支配するというが、まさにそれを体現している王妃。

 少しでも気を抜くと、飲まれそうだ。


凪の嵐(カーラル)へ乗り込んだ状況は聞いたわ。でも、自分を犠牲にするようなことはやめなさい。あなたの帰りを待つ人たちがいるの。それを忘れないで」

「かしこまりました」

「勇敢と無謀は違うわ」

「はい。肝に命じます」


 王妃が手を叩いた。

 先ほどとは打って変わって、女神のような優しい微笑みを浮かべている。


「さあ、硬い話はここまでよ。美味しいフリッターを食べに行きましょう。それが楽しみで、この町に来たのだから」

「無理です」


 リマが呆れた表情で即答した。


「リマのケチ」

「買いに行かせてますので、それで我慢してください」

「分かったわよ。お店で食べたかったなあ」

「また今度です」

「またっていつよ? いつもそうやってはぐらかすじゃない」

「立場を考えてください」


 王妃が溜め息をつきながら、立ち上がった。


「はあ、仕方ないわね。自由に動けるマルディンが羨ましいわね」


 そう呟きながら、フードを被る。


「じゃあ、マルディン。私たちはタルースカへ行ってくるわね」

「かしこまりました。道中の安全を祈っております」

「ありがとう」


 ムルグスが帰還する理由は、王妃の来訪に違いない。

 今頃皇都では、入念な準備が行われているのだろう。


「またね。マルディン」

「はっ!」


 俺は扉まで王妃を見送る。

 部屋を出る直前で立ち止まった王妃は、俺の肩に手を置いた。


「マルディン。今度招待するから、遊びに来なさい。アルも会いたがっていたわよ」

「か、かしこまりました」

「その時は、糸巻き(ラフィール)悪魔の爪(ヴォル・ディル)を忘れないでね。たくさん稽古しましょう。うふふ」


 王妃の瞳が一瞬だけ剣士のそれになった。

 どうして、こうも戦い好きな君主が多いのだろう。


「その時は、よろしくお願いいたします」


 俺が一礼すると、リマが先導して王妃が退室した。

 続いてウィルが俺の肩に手を置く。


「マルディン。言いたいことはたくさんあるが、ひとまずお前たちが無事でよかったよ」

「心配かけてすまなかったな」

「いいさ、オイラでもそうしただろうし」

「はあ? じゃあ、なんであんなに怒ったんだよ?」

「オイラにも立場ってもんがある。お前が自由にやりすぎるから、たまには怒っておかなきゃな。ははは」

「ちっ。まあ気をつけるよ。今度ゆっくり飲もうぜ」

「ああ、お前の奢りでな」

「もちろん、そのつもりさ」

「ティアーヌの処遇は追って連絡する」

「寛大な処置を頼むよ」


 ウィルもティアーヌを伴って退室した。

 極秘の来訪ということで、王妃たちの見送りは不要だという。

 郊外に、ラルシュ王国の旗艦である旅する宮殿(ヴェルーユ)を停泊させているらしい。


 二階の支部長室の窓から外を眺めると、王妃は白駿馬(スヴィン)に跨った。

 王妃が自ら乗馬するなんて信じられないが、この人はなんでもありだ。


「ほら、エルウッド。行くわよ」

「ウォン!」


 白駿馬(スヴィン)が歩き始めると、銀色の狼牙(ファルン)が王妃のあとをついていく。

 俺の視線に気づいた王妃に、俺は焦って一礼した。


「恐ろしいお人だ……」


 ラルシュ王国の一行を窓から見送ると、シャルクナが隣で俺に会釈した。


「私は屋敷に戻ります。マルディン様は、レイリア様の病院へ向かってください」

「そうだったな。忘れていたよ」


 顔の傷は応急処置のままだ。

 俺はシャルクナと別れ、レイリアの診療所へ向かった。

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