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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第七章 薫風南より来たる

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第245話 暴走の後始末5

 特殊諜報室(ホルダン)の飛空船に便乗した俺とティアーヌとシャルクナは、ティルコアに帰還した。

 俺たちを自宅で降ろすと、ムルグスはすぐに出発すると言う。


「ティルコアには滞在しないのか?」

「ああ、早急に帰還しなければならない案件があるんだ」

「そうか、残念だ。ムルグス、今回は本当に世話になった」


 俺はムルグスに頭を下げた。


「結果的には全てが丸く収まった。それでよしとしよう」

「そう言ってもらって助かるよ」

「では、マルディン。シャルクナをよろしく頼む」

「ああ、任せてくれ。じゃあな」


 ムルグスに別れを告げ、俺はまず漁師ギルドへ向かった。

 ムルグスの手配で、俺の状況は伝わっていたそうだ。

 ギルマスのイスムには散々怒られたが、凪の嵐(カーラル)の壊滅によって、ティルコア近海での海賊行為が激減することは感謝してくれた。


「この年齢になって、こんなに怒られるとはな……」

「自業自得です」

「ぐっ……」


 隣を歩くシャルクナの言葉に、反論することもできない。

 両断剣(ツヴァイヘンダー)使いらしく、俺の心を両断した。


 続いて、冒険者ギルドへ足を運ぶ。

 ラーニャに説明しなければならない。


「あら、マルディン。帰ってきたのね」

「ああ、色々と迷惑かけたな」

「迷惑だなんて。町のためを思った行動でしょう? 感謝してるわよ」

「そ、そうか……」


 珍しく、ラーニャの態度に嫌味がない。

 いつもこうあってほしいものだ。


「状況は伺ってるわ」

「そうなのか?」

「ええ、ティアーヌちゃんから報告が入っていたもの。でも、本当に無理はしないでよ」

「ああ、分かってるよ」

「そうそう、マルディンに来客よ。間もなくいらっしゃるわ。私の言いたいことを言ってくださると思うから、私からは以上よ」


 応接テーブルには焼き菓子が置かれている。

 そしてラーニャが立ち上がり、珈琲ポットを用意した。


 支部長室の扉をノックする音が響く。

 入室してきたのはティアーヌだ。


「マルディンさん。お疲れ様でした」

「来客って、ティアーヌか?」

「いえ、私はお迎えに行ってきたんです」

「お迎え?」

「どうぞ、お入りください」


 扉を開いたまま、ティアーヌが廊下に向かって声をかけた。

 すると、一人の男が入室。

 身長は低く、金色の短髪は無造作で、笑顔を浮かべた男。

 腰に二本の両刃短剣(グラディウス)を吊るしている。


「お前! ウィル!」

「やあ、マルディン。元気かい」

「あ、ああ。おかげさまで……」


 ウィルが妙に明るい。

 本来はもっとやる気がなさそうな、気だるい印象だ。

 ウィルが笑顔のまま、ラーニャに視線を向けた。


「ラーニャ支部長。恐縮だが、ちょっと席を外してもらえるかな?」

「かしこまりました、ウィル様」

「申し訳ないね」

「とんでもないことでございます」


 ラーニャが一礼して退室した。

 部屋に残ったのは、俺、シャルクナ、ウィル、ティアーヌだ。


「さて……」


 ソファーに飛び込むように座るウィル。

 背もたれに身体を預けたまま、大きく息を吸い、俺を見つめた。


「てめえ! なにやってんだよ!」


 突然まくしたてるウィル。

 この態度こそ、いつものウィルだ。


「な、なんだよ」

「海賊のアジトに一人で乗り込むやつがいるか! バカが! もっとよく考えろ!」

「し、仕方ないだろ……」

「お前の実力は知ってる! 海賊の一つや二つ、簡単に壊滅させるだろうよ! だがな、あまりにも軽率過ぎる!」


 何も言い返せない。


「ティアーヌまで巻き込みやがって!」

「そ、それは申し訳ないと思ってるよ」

「仮にも騎士隊長だっただろうが! 部下の安全を考えろよ!」


 ティアーヌはウィルの直属の部下だそうだ。

 大切な部下を危険にさらされたら、俺だって怒る。

 ウィルに対し、改めて謝罪の言葉を考えていると、扉がゆっくりと開いた。


「ウィルには言われたくないわよねえ。あなただって相当無茶してきたでしょうに」


 一人の女性が声をかけてきた。

 フードを被った女性は、気配も足音も感じさせずに入室。

 続いて赤髪の女が部屋に入ってきた。

 この赤髪の女は知っている。


「あ、あんたは! リマ団長か!」

「やあ、マルディン。久しぶりだな。アタシの美貌を覚えていたかい?」


 リマはラルシュ王国の騎士団長だ。

 この赤髪の騎士団長は、王妃から離れないことで知られている。

 ということは……。


 ティアーヌが床に跪く。

 ウィルは立ち上がり、フードの女性に対し、両手を大きく振った。


「ちょっと! 早いですよ! これからもっと追い込むんですから!」

「いいじゃない。時間もないことだし、早々に要件を済ませましょう」


 女性がフードを取ると、美しく輝く金色の髪が、流れる水のように舞い落ちた。

 後頭部で一つに結わっているその髪は、金細工師が一本一本作り上げたかのような繊細さだ。

 肌は雪よりも白く、切れ長の瞳は紺碧に染まり、通った鼻筋に、桃色の薄い唇。

 まさに、地上に舞い降りた女神だった。


「う、嘘でしょう……」


 思わず呟いてしまったが、俺は即座に起立し、そして跪いた。

 シャルクナも同じく隣で跪いている。


「ちょうどタルースカでキルスと会談があってね。ウィルがティルコアへ行くというから、私の警護として同行させたの。だから今回は、リマとウィルが揃っちゃったわ。うふふ」


 目の前にいるのはラルシュ王国王妃、レイ・パートその人だ。

 世界三大美女の一人で、世界三大剣士の一人でもある。

 世界に影響を与える大物中の大物。

 こんな田舎のギルドに来るような人物ではない。


「マルディン、座って」

「はっ!」


 王妃に促され、俺はソファーに座った。

 対面にレイ王妃が座ると、背後にウィルとリマが立つ。

 ティアーヌとシャルクナは扉の前に立ち、部屋の警護に当たる。

 シャルクナは王妃の来訪を知らなかったが、さすがの立ち回りだ。


「事情は聞いたわ」

「はっ!」

「そう緊張しないで。普通に接しなさい」

「そ、そうは言っても……」


 緊張するなというほうが無理だ。

 王妃は俺よりも若いのだが、威厳に満ち溢れている。

 元騎士団長というが、それだけでこれほどの威厳が身につくものだろうか。


「私は立ち寄っただけなの。オルフェリアから伝言を頼まれてね」

「オルフェリア殿からですか?」

「そうよ」


 オルフェリアは冒険者ギルドのギルドマスターだ。

 やはり今回のことで、迷惑をかけたのだろう。


 また……、怒られるというわけか……。

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