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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第七章 薫風南より来たる

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第242話 暴走の後始末2

 海賊たちとの話し合いが終わると、俺はすぐにティアーヌとシャルクナと合流し、一番艦に移動。


 アジトに滞在する間、俺たちは一番艦で過ごすことにした。

 恐らくここが最も安全な場所だろう。

 一番艦の船員たちが船内の死体を片付け、アジトの墓地へ埋葬。

 甲板も清掃済みだ。


 豪華な装飾を施された艦長室で、俺たち三人はテーブルについた。

 ようやく気が抜ける。


「二人とも、大丈夫だったか? 砦はどうだった?」

「副提督を始末して、関係書類もすでに入手しています」


 ティアーヌが、大きなリュックを指差した。

 リュックははち切れんばかりだ。


「このアジトに乗り込んで、僅かな時間で任務完了か。二人ともさすがだな」

「一番艦の帰還が重なったことで、砦が手薄になったんです。それと、今まで一度も侵入者がいなかったようで、防衛意識が全くありませんでした」


 笑顔を浮かべるティアーヌ。

 この娘の明るさには、いつも助けられている。


「そうは言ってもな。お前たちじゃなければ、これほど早く制圧はできなかったさ」

「マルディンさんが、アッディを討ったからです。本当に凄いです」


 ティアーヌの隣に立つシャルクナが、心配そうな表情で俺を見つめていた。


「あの……。マルディン様、お顔が……」

「ん? ああ、大丈夫だ」

「いえ、これは縫わないと、またすぐに血が出る傷です」


 アッディの仕込み杖(ソードスティック)で頬を抉られていたが、血が乾いていたため気にしていなかった。


「応急処置をします。ティルコアに戻ったらレイリア様に治療していただきましょう」

「分かった。そうするよ」


 シャルクナが塗薬を塗布し、包帯を巻いてくれた。


「大げさじゃないか?」

「いえ、傷が残ってしまうので、応急処置はしっかりと行います」

「傷なんて構わんよ。男だぞ?」

「ダメです。傷が残ったら、皆様に怒られてしまいます」

「怒る奴なんていないさ」


 シャルクナが俺を見つめながら、いつもより少しだけ瞳を見開き、小さく溜め息をついた。

 シャルクナにしては珍しい態度だ。


「な、なんだよ?」

「無自覚……ですか」


 隣りでティアーヌが、口を手で抑えて笑っていた。


 ――


 一通りの治療を終え、俺は甲板に出た。

 サベーラの七番艦が戻ってきたか確認するためだ。

 すると背後から、珈琲の香りが潮風に乗って鼻をくすぐった。


「マルディンさん、サベーラたちはどうなったのでしょうか?」


 ティアーヌとシャルクナだ。

 ティアーヌから珈琲カップを受け取り、少し冷まして口をつけた。


「サベーラたちはアッディに見つかったが、生きているそうだ」


 俺はアッディから聞いた内容を説明した。


「そうだったんですね。良かったです」

「アッディなりに、部下のことを考えていたようだ」


 俺は舷墻(げんしょう)に手を置き、外海に視線を向けた。

 右隣でティアーヌも同じように外海を眺めている。


「マルディンさん、アッディはどうでした?」

「そうだな。恐ろしく強かったよ。これほどの傷をつけられたのは、本当に久しぶりだし」

「音切りと呼ばれていたのですよね?」

「ああ、重鞭(クヌート)使いだった」


 人間相手にここまで傷を負ったのは、いつ以来だろうか。

 まさしく強敵だった。


 シャルクナが左隣に立ち、俺を見つめていた。


「あの、マルディン様。重鞭(クヌート)相手にどうやって戦ったのですか? マルディン様の糸巻き(ラフィール)と間合いが被るのでは?」

「ああ、普通に戦えばそうだな。しかも威力は重鞭(クヌート)が上だ。だから、モンスターとの戦い方に切り替えたんだよ」

「え? モンスターとの戦い方ですか? それはどういう?」

「知りたいか?」

「はい」


 俺はどんな状況でも、対人戦闘では負けるつもりはない。

 だが、この糸巻き(ラフィール)と、モンスターとの戦闘経験がなければ、勝負はどうなったか分からない。

 つまり、俺は冒険者になったおかげで、アッディに勝てたと言っても過言ではないだろう。

 冒険者になったおかげで、リーシュに糸巻き(ラフィール)を開発してもらい、新しい戦い方を会得した。

 騎士を続けていたら、得られなかったものだ。


 俺はシャルクナの瞳を見つめた。


「いつかな」

「え?」

「いつか教えてやるよ。あっはっは」


 右隣に立つティアーヌが、突然俺の右腕を強く掴んだ。


「えー! 意地悪しないでくださいよ!」

「バカだな。手の内を晒すわけがないだろう?」

「そこまで言っておいて! ずるいですよ!」

「お前たちと戦うことになったら、俺が不利になるだろ?」

「なっ! 戦うわけないじゃないですか!」


 今度はシャルクナが、俺の左腕に軽く触れた。


「それでは、今確かめてもいいですか?」

「は? お、お前……」

「戦えば教えてくださるという意味で理解しました」

「ま、待て!」


 シャルクナの表情は真剣だ。

 この娘は、冗談なのかいつも分からない。


「シャルクナさん! もうやっちゃってください!」

「煽るなっつーの!」


 ティアーヌが素早い動きでシャルクナの背後に回る。

 まるで後押しするかのように、シャルクナの両肩に手を乗せていた。


「私はいつでも戦えます」

「私も手伝いますよー!」

「やめろっつーの!」


 広い甲板に、俺たちの声が響き渡った。

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