表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第七章 薫風南より来たる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

241/278

第238話 穢れた海の矜持6

 元凪の嵐(カーラル)提督の爺さんが、船を一番艦に近づけてくれた。

 船体を見上げると、まるで砦のようだ。

 海面から甲板までの高さは、十メデルト近くあるだろう。


「これが一番艦か。デカいなんてもんじゃないな」

「ガレオン船で、凪の嵐(カーラル)の旗艦じゃからな」

「この船に二百人の海賊が乗っているのか」

「そうじゃ、しかも一番艦の船員は精鋭中の精鋭じゃ。生半可ではない」

「つまりクズが二百人いるのか」

「まあ……そうじゃな。しかし、厳しい訓練を乗り越えた者たちじゃ。たかが海賊と舐めたら、痛い目に遭うぞ」

「関係ない。それが例え千人いようがな」


 俺は壁のような船腹に目を向けた。


「しかし、マルディン。どうやって乗り込むのじゃ?」

「問題ない。ん?」

「ああ、儂の乗船を許可したのじゃろう」


 一番艦の甲板から、身を乗り出した一人の海賊が縄梯子を投げた。

 とはいえ、俺には不要だ。


「行ってくる。爺さんは港へ帰れ。そして、海賊だった人生を懺悔して、罪を償え」


 そう言い残し、俺は頭上のヤードに向かって糸巻き(ラフィール)を発射。

 (フィル)を巻き取りながら悪魔の爪(ヴォル・ディル)を抜く。


「だ、誰だ……」


 口を開いたまま海賊の首が海に落ちた。

 魚の餌になるだろう。


 甲板に着地と同時に、(フィル)を巻き取る。

 すると甲板にいる数十人の海賊が、一斉に俺へ視線を向けた。


 それが最後の景色となるとも知らずに。


 ◇◇◇


 乗船したマルディンは、糸巻き(ラフィール)を連続して発射。


 驚く暇さえ与えられず、ただ首を落とされる海賊たち。

 マルディンは瞬く間に五十人の首を落とした。


「敵襲だ! 敵」


 ようやく状況を把握した船員だが、叫んだ瞬間に人生を終えた。

 マルディンは手を止めない。

 容赦なく左腕を回す。


「敵襲!」

「敵だ!」

「提督! 敵襲です!」


 しかし、人数で勝る海賊たちは、次々と敵襲を告げる声を上げた。


「お前、誰だ?」


 船尾から歩いてきた男が、マルディンに向かって声をかけた。

 その距離は約十メデルト。

 この男こそがアッディと直感的に理解したマルディンは、即座に糸巻き(ラフィール)を発射。

 躊躇せず殺す。

 それがマルディンだ。


 だが、アッディも武器を放つ。

 お互いの中間地点で武器が衝突。

 強烈な衝撃波が生まれ、甲板に激しい破裂音が鳴り響いた。

 すぐそばにいた数人の海賊たちは、その衝撃で顔面を失ったほどだ。


重鞭(クヌート)か」


 マルディンが呟く。


「お前のそれは何だ?」


 声を出した瞬間、アッディが重鞭(クヌート)を振った。

 質問しながらも、マルディンの答えを待つつもりはない。


 危険を察知したマルディンは、右前方へ飛び込んでいた。

 

「避けただと?」


 マルディンの顔があったはずの空間で、衝撃波が発生。

 アッディの重鞭(クヌート)は、長さが十数メデルトもある(ウィップ)だ。

 素材は海首竜(レシオクルス)のなめし革で、細鞭(フルスタ)より二回りも太い。

 重鞭(クヌート)の中でも超重量級だ。

 もし顔面に直撃すれば、首から上は簡単に吹き飛ぶ。


 マルディンは起き上がると同時に悪魔の爪(ヴォル・ディル)を抜き、付近にいた二人の海賊を切り捨てた。

 隙があれば敵の人数を減らしていくマルディン。

 そして、アッディに向かって糸巻き(ラフィール)を発射。


 マルディンの起き上がりを狙っていたアッディは、重鞭(クヌート)(フィル)を叩き落とした。


「この(フィル)……。待てよ……。お前、首落としか!」

「貴様が提督アッディか」


 ここで初めてお互いが手を止め、視線を交わす。

 もちろん、いつでも攻撃ができる姿勢は崩さない。


 アッディの身長はマルディンとほぼ同じくらいだ。

 引き締まった肉体に端正な顔立ち、黒い短髪と程よく焼けた肌は、爽やかな海の男に見える。

 重鞭(クヌート)を右手に持ちながら、アッディは苦笑いを浮かべた。


「糸使いのマルディン。裏の世界では首落としか。ったく、うちの可愛い船員たちをこんな姿にしやがって。みんな首がねーじゃねーかよ」


 アッディはマルディンへの警戒を解かずに、周囲を見渡す。


「サベーラの様子から誰かが来るとは思ったけど、よりによってお前かよ。それに、爺さんまでも利用しやがって」


 この短時間で、船員の四分の一を失っていた。

 大きく溜め息をつくアッディ。


「おい、首落とし。お前、サベーラに何を吹き込んだ?」

「貴様、サベーラに会ったのか?」

「まあな。質問に答えろよ」

「別に何も言ってない。サベーラが自分で決めたことだ」

「マジか? あいつは生きることにしがみつく人間なんだぜ?」


 先代提督から、現在の凪の嵐(カーラル)は足を洗うことが許されないと聞いていたマルディンは、サベーラの安否が気になった。


「サベーラはどうした?」

「生まれ変わるとか突然言い出したから驚いたけど、まあ特例で許してやったよ」

「サベーラは外海に出たのか?」

「あ? 今頃、海を彷徨ってるだろうよ。ったくよ、お前のせいで腕のいい船乗りを失ったぜ」


 アッディの言葉に、マルディンの右の眉が僅かに反応した。


「殺したのか?」

「そんな物騒な言い方するなよ。仲間を殺すわけないだろう? 希望を聞いてやっただけだ。生まれ変わりたいっていうな。しっかりと生まれ変わればいいけどな」


 言い方が違うだけで、マルディンは意図を読み取った。


「貴様!」


 激昂したマルディンは、左腕を鋭く回す。

 同時にアッディも重鞭(クヌート)を放つ。


 お互いの中間地点で衝突すると、強烈な破裂音を生んだ。

 威力に勝る重鞭(クヌート)は、(フィル)を弾き返し、マルディンに迫る。


 だが、衝突したことで、重鞭(クヌート)の速度と威力は僅かに落ちていた。

 マルディンは重鞭(クヌート)の軌道を見切り、叩き切らんと悪魔の爪(ヴォル・ディル)を振り下ろす。


「ちっ!」


 思惑が外れ、思わず舌打ちするマルディン。

 アッディが瞬時に重鞭(クヌート)を引き戻したことで、悪魔の爪(ヴォル・ディル)が空を切ったからだ。


 少し遅れて、重鞭(クヌート)の空気を引き裂く甲高い音がマルディンに届いた。


「音切りのアッディ……か」


 音切りは、サベーラから聞いていたアッディの二つ名だ。

 アッディの重鞭(クヌート)は空気を切り、音を置き去りにする。

 攻撃された者は、その音を聞く前に死んでいく。


 糸巻き(ラフィール)重鞭(クヌート)の威力を比較すると、糸巻き(ラフィール)が僅かに不利だ。

 そういう意味では、マルディンにとって相性が悪い相手だった。


「威力が落ちたとはいえ、これを見切るのかよ。お前、マジでバケモンだな」


 アッディは引き戻した重鞭(クヌート)に視線を落とす。

 (フィル)との衝突で、鞭の先端の革が僅かに裂けていた。

 そして、あのまま引き戻さなければ、悪魔の爪(ヴォル・ディル)重鞭(クヌート)は切られていただろう。


(フィル)と剣を使い、どちらも一流。厄介だな」


 アッディもまた、マルディンとの戦いに危機感を覚えた。


 ◇◇◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ