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第23話 亡き恋人に捧ぐ剣1

 季節は初夏。

 俺は強い日差しを避けるように、まだ太陽が低い午前中から冒険者ギルドに顔を出す。


「おーす、パルマ。今日はあちーな」

「何だよ、マルディン。今日なんてまだ涼しい方だぞ?」

「マ、マジかよ……」


 雪国出身の俺は南国に憧れていたが、この暑さは想像以上だ。

 とはいえ、この町に来たことは後悔してない。


「さて、クエストへ行くか」

「お前、最近は妙に真面目じゃん」

「おいおい、俺はいつも真面目だろーが」

「あっそ……」


 新しい糸巻き(ラフィール)の開発で、かなりの貯金を使った。

 命を守る装備は金がかかるため、金を使うことは問題ない。

 だが、多少なりとも蓄えは必要だ。

 そのため、俺はクエストの回数を増やしていた。


「お前、低ランクのクエストばかり行ってるけど、報酬の高いクエストへ行けよ」

「危険だろ」

「当たり前だ。だけど、皆危険を承知で金を稼ぎに行ってるんだ」

「それは向上心がある奴らだろ?」

「まあ確かに名をあげたい奴らばかりだが」

「俺はのんびり暮らしたいんだよ」


 危険なクエストへ行き、実績を作り、自分の名前を広める。

 冒険者は皆そうやって活躍していく。

 だが、俺は生活に困らないだけの金が稼げれば良い。

 むしろ名前が広がることを避けたいと思っている。


「まったく、活躍したくない冒険者なんてお前だけだよ」

「あっはっは。俺は万年Cランクのおっさん冒険者だ。それに落ちこぼれだ。現状維持ができれば満足さ」

「よく言うよ。お前って、ちゃんとやれば良い冒険者になると思うんだがなあ」

「あっはっは。買い被り過ぎだ」


 俺の前職はバレていない。

 このまま大人しくするつもりだ。


 クエストボードの前に立ち、依頼を眺める。


「今日はいいクエストがないな……」


 ひとまずバーカウンターへ移動。


「どうすっかな。採取クエストでも行くかな」

「マルディン。お水だよ」

「お、ありがとう。フェルリート」


 フェルリートがグラスに注いだ水を出してくれた。

 一気に飲み干すと、乾いた畑が水を吸うような勢いで喉が潤う。


「あー、うめー」


 美味いが正直ぬるい。

 夏は冷たい水が飲みたくなる。

 しかし、この南国では無理だ。

 冬でも雪なんて降らないし、氷だって作ることができない。


「この地方には氷がないんだよな?」

「そうだね。私は見たことがないよ。一度でいいから見てみたいなあ。マルディンは見たことあるんだよね?」

「ああ、故郷は雪国だからな。冬になると池や川は凍るし、家の中の水ですら凍ることもあるぞ」

「川が凍るって凄いね」

「タオルも凍るんだぜ」

「え? タオルが凍る? どういうこと?」

「濡らしたタオルを外に出すと、すぐに凍るんだよ。丸めて棒状にすると剣になってな。ガキの頃はよく騎士ごっこをしたもんだよ」

「へえ、いいなー。楽しそう」

「寒すぎで凍傷になるやつもいるんだぞ。指が取れるんだ。寒さは過酷だぞ?」

「え! そ、そうなんだ。雪国って怖いね」

「まあいつかフェルリートにも雪や氷を見せてやるよ」

「本当に! 嬉しい!」


 フェルリートと話していると、誰かが俺の肩に手を置いた。


「マルディン。おはよう」

「お、ヴェルニカか。おはよう」


 声をかけてきたのは、Cランク冒険者のヴェルニカだった。

 年齢は二十五歳。

 小柄でしなやかな細身。

 鮮やかな青色の短髪が特徴的だ。

 日差しが強いこの南国において、真っ白な肌はとても冒険者に見えない。


「ん? どうしたんだ?」


 神妙な表情を浮かべ、俺の顔を見つめているヴェルニカ。


「お願いがあるの」

「お願い?」

「一緒にクエストへ行って欲しいの」

「クエスト?」

青吐水竜(アズプレシウス)の討伐よ」

青吐水竜(アズプレシウス)って。お、お前……」

「そう。仇を取るわ」


 三ヶ月前、このヴェルニカの相棒で恋人のラクルが、Cランクモンスターの青吐水竜(アズプレシウス)討伐クエストを受注。

 ラクルはBランク冒険者に昇格したばかりで、数年ぶりにこの町からBランク冒険者が誕生したと期待されていた。

 誰もが簡単にクエスト完了すると思っていたが、クエストは失敗に終わりラクルは死亡。

 そして討伐対象だった青吐水竜(アズプレシウス)は姿を消した。


「あの青吐水竜(アズプレシウス)が姿を現したの」

「なんだと!」

「私が依頼主となって、ギルドへクエスト依頼を出す。そして私が受注する」


 依頼主はギルドへ依頼金を支払い、クエストを依頼する。

 ギルドは仲介料や経費、税金などを差し引いた金額で冒険者へクエストを発注。

 最終的に冒険者が受け取る報酬は、依頼金の半分くらいと言われていた。


「それって、お前大損だろ?」

「いいのよ。お金じゃない。ただ仇を取りたいだけ」


 冒険者は緊急時以外、無許可によるモンスターの狩猟が禁じられている。

 過剰な狩猟はモンスターたちの生態系を壊すからだ。

 それに高価な素材を狙った密猟が横行する。

 また、無許可の狩猟で無理をして、命を落とす冒険者があとを絶たなかったことも理由の一つだった。


「そのクエストを俺に手伝えと?」

「ええ、ラクルが言っていたの。マルディンは実力を隠している。本当は凄い冒険者だって。だからいつかマルディンとクエストへ行くのが夢だって」

「買い被り過ぎだ」

「お願い。あなた以外に頼めないの」

青吐水竜(アズプレシウス)か……」


 俺はモンスター事典を思い出した。


 ◇◇◇


 青吐水竜(アズプレシウス)


 階級 Cランク

 分類 竜骨型脚類


 体長約三メデルト。

 小型の脚類モンスター。


 長い尻尾でバランスを取りながら移動する二足歩行モンスター。

 足は太く歩行や走行に特化している反面、手は使用しないため短く退化している。


 吐水竜プレシウスの亜種で、マルソル内海南西部の沿岸のみに生息する固有種。

 通常種の吐水竜プレシウスよりも二回りほど大きな体格を持つ。


 海水を飲み込み圧縮して吐き出し獲物を気絶させる。

 足の指の間にはヒレがついており泳ぎが可能。

 魚や海のモンスターを狩る。

 そのため、漁師や釣り人が襲われることがある。


 ◇◇◇


「このチャンスを逃すと、次はいつ現れるか分からないのよ」

「まあそうだよな。ラクルには世話になったし。……分かった、いいぞ」

「あ、ありがとう。じゃあ依頼してくるね」


 ヴェルニカがクエスト依頼窓口へ走った。

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