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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第七章 薫風南より来たる

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第223話 海の魅力と恐ろしさ3

「おはよう、マルディン」


 船内からフェルリートが姿を見せた。


「久しぶりに海から日の出を見ようと思いまして。フフフ」


 その後ろにアリーシャがいた。

 さらにラーニャ、リーシュ、ティアーヌも出てきた。

 ティアーヌは地元民じゃないが、もうすっかりティルコアの住民だ。


「マルディン、そろそろだよ」


 フェルリートが俺の隣に立ち、日の出の方向を指差した。


 ティルコアの東側は陸地のため、町から日の出を見ると陸地から顔を出す。

 だが、海に出れば水平線から日が昇る。

 雲一つない空が黄金に輝き始め、海面にその光を反射させた。


「これは……凄まじいな。綺麗だ。それ以外の言葉が出ない……」

「そうだね。マルディンは運がいいよ。これほど綺麗に海から出る太陽は珍しいもん」


 穏やかに海面に一本の光の道が生まれた。

 その光の道を、太陽に向かって羽の生えた魚が飛び跳ねている。


「マルディン! 青羽魚(イリーバ)の群れだよ!」

「あれが青羽魚(イリーバ)か。魚なのに本当に飛ぶんだな」

「風に乗ると二百メデルトは飛ぶらしいよ」


 フェルリートと話していると、背後から気配を感じた。


青羽魚(イリーバ)が出ると釣れるぞ。しかもこの群れの規模なら期待できそうだな」

「イスムか。おはよう」

「おう、おはよう。眠れたか?」

「いや、少し興奮してたみたいでな。寝つけなくて起きてたよ」

「そうか。これから外洋に出るから少し揺れるぞ。睡眠不足だと酔うからな。気をつけろよ。がははは」


 イスムが豪快に笑いながら、操縦室へ向かった。


 ――


 俺たち釣り組は、船内の食堂で朝食だ。

 今回はフェルリートとアリーシャ、そしてシャルクナが、漁師の分も合わせて大量に弁当を作ってきてくれた。


 朝食のメニューは、アリーシャ特製の干し肉と野菜のサンドだ。

 柔らかく濃厚な黒森豚(バクーシャ)の肉と、酸味のある赤熟茄(ポモーロ)と、みずみずしい緑爽(レテュ)の組み合わせが絶妙だった。

 だが、船酔いのことも考えて、俺は食べすぎないように注意した。


「外洋に出たようじゃな」

「分かるのか、アラジ」


 食後を終えると、徐々に船が揺れ始めた。


「もちろんじゃ。今向かってる漁場も知っておる。儂も昔はよく行った場所じゃ」


 元漁師のアラジが懐かしそうな表情を浮かべていた。


「しかし、さすがイスムじゃな」

「どういうことだ?」

「もし船長がイスムじゃなければ、船はもっと揺れとる。それこそ立ってられないほどにな」

「なるほどな」


 アラジの説明によると、今この船は波に対して常に斜めに進んでいる。

 風を読み、波を見て、帆を操作し、極限まで揺れを軽減しているそうだ。

 伝説の漁師は、船乗りとしても一流だった。


 俺たちはしばらく食堂で待機。


「ん? 揺れが収まってきたか?」

「漁場に着いたみたいだね。錨を下ろしたんだよ」


 フェルリートが話しながら、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。


「マルディン、体調は大丈夫?」

「ああ、酔いはないよ」


 酔い止め薬のおかげで問題ない。

 もし薬がなかったら、俺はきっと釣りどころではなかっただろう。


 食堂の扉が開き、グレクが姿を見せた。


「みんな、漁場に着いたぞ」


 甲板に出ると、眼前には濃紺色の海が広がっている。

 日が昇ったばかりの眩しい空との明暗が激しい。

 これほど濃い海の色は初めて見た。

 この周辺は相当な深海なのだろう。


「さあ、準備ができたらどんどん釣っていけ!」


 イスムが大声を張り上げた。

 その右手には、フェルリートから受け取った朝食のサンドを握っていた。

 漁師たちもその場でサンドを頬張っている。

 これを見越して、手で持てる朝食にしたのかと感心した。


「マルディン……」


 一人の漁師が俺に声をかけてきた。

 神妙な表情を浮かべている。


「フスニか」

「迷惑をかけて申し訳なかった」


 漁師のフスニが姿勢を正し、深々と頭を下げてきた。

 フスニは岩虎魚(コルコゼ)の件で謹慎中のため、事件以降、顔を合わせるのは初めてだった。

 フスニの年齢は、確か俺の一つ下だったはず。

 身長は俺よりも拳二つ分ほど低いが、体格はしっかりしている。

 日に焼けた肌は漁師の証だ。


「お前、謹慎中なのに呼び出されたんだな」

「イスムさんやグレクさんの配慮だよ。感謝してる」


 フスニは猛毒の岩虎魚(コルコゼ)を商人に売っていた。

 現在事件に関して調査中だが、その岩虎魚(コルコゼ)から毒物兵器が開発されていたことは間違いないだろう。

 毒物兵器を開発するほどだから、フスニだけではなく、他からも入手はしていたはずだ。

 フスニ一人を責めるべきではない。

 それに、フスニが卸していた時は、岩虎魚(コルコゼ)の売買は法令に抵触するものではなかった。

 何よりフスニは自ら過ちを正そうとしたし、今も猛省している。

 漁師ギルドが下した謹慎一ヶ月は、妥当な判断だと思う。


 誰でも一度くらい過ちはある。

 過ちを犯したあとの行動が大切だ。


「今日はフスニも釣りするのか?」

「ああ、俺たち漁師はみんなの邪魔にならないように釣るよ。イスムさんの船代くらいは稼ぐさ」

「そうか、漁師の腕を期待してるぜ。っていうかお前、岩虎魚(コルコゼ)ばかり釣るなよ。あっはっは」

「ちぇっ、言ってくれるぜ」


 船の後部へ移動すると、リーシュが竿を用意していた。

 リーシュはティルコアの開発機関(シグ・ナイン)に異動となったことで、ティルコアに住んでいるが、釣りをしたなんて聞いたこともない。


「なあ、リーシュ。釣りなんてできんのか?」

「できます!」


 右手を真っ直ぐ挙げ、元気に返事をするリーシュ。


「あらあら、マルディンは知らないのね?」

「うわっ!」


 突然、耳元で囁く声が聞こえた。

 気配を消して俺に近づき、こんなことをするのは一人しかない。


「な、なんだよラーニャ」


 ラーニャがいつもの妖艶な笑みを浮かべていた。

 マジで何を考えているのか分からない女だ。


「リーシュちゃんはねえ、休みの日は朝から釣りに出かけるほどの釣り好きよ。しかも、大物狙いで有名なのよお?」

「そうなのか?」

「ええ、この間も私と二人で釣りに行ったもの。巨大な棘白鯛(トルグス)を釣ったのよお?」

「マジかよ」

「マジよ、マジ」

「というか、二人は仲がいいんだな。年齢は倍も違……」


 ラーニャの額に血管が浮き出た。

 顔は笑っているが、恐ろしいほどの殺気を出している。


「死にたい?」

「ちちちち違うって! 違うんだよ! そういう意味じゃないんだ! あっはっは」


 笑って誤魔化したが、危うく魚の餌にされるところだった。

 俺は何事もなかったかのように、リーシュに視線を向ける。


「ん? リーシュ。そのリールはやけに大きくないか?」

「はい! アガス叔父さんが新たに開発したリールです!」


 リーシュの叔父アガスは、飛空船を製造しているラルシュ工業の最高責任者だ。

 しかも発明家で、釣り竿のリールを開発した人物だった。


糸巻き(ラフィール)の構造を取り入れていて、少ない力で大物を釣り上げることができるんです。試作品でいくつかもらったので、みなさんに配りました。マルディンさんの分もあるので使ってください」

「お、いいのか! ありがとう。アガスさんにお礼を伝えてくれ」

「はい!」


 リーシュからリールを受け取り、俺も釣りの準備を開始。

 隣でシャルクナも準備をしている。

 初心者のシャルクナに、フェルリートが色々と教えてくれていた。

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