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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第七章 薫風南より来たる

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第216話 港に来た商人4

 自宅に戻った俺は、サルリオの事件についてシャルクナに確認を取った。

 特殊諜報室(ホルダン)から連絡が入ったばかりだというが、シャルクナも状況は知っていた。


 俺はリビングのテーブルに座る。

 珈琲を淹れてくれたシャルクナも正面に座った。


「マルディン様。今回の件は犯罪組織同士の抗争なので、マルディン様に調査を依頼することはないかと思われます。何かあれば皇軍が対応します」

「そうか。分かった」

「ただ、使用された毒に関しては、以前の商人ドルドグムの事件と関わりが考えられます」

「そうなんだよ。それに関して気になることもあるんだ」


 画家リメオルの毒で死亡した商人のドルドグムは、取引先からの贈り物としてリメオルの絵画と、毒を発生させる鍵となった高級葡萄酒の真紅の森(ロルトーブ)を受け取っていた。

 その取引先は、毒の発生を知りながら送った可能性が高い。

 しかも、その毒の成分は岩虎魚(コルコゼ)の毒だ。


「なあ、シャルクナ。漁師のフスニって奴がいてな……」


 俺はフスニの現状を伝えた。

 シャルクナの表情が、メイドから一流の諜報員に変化していく。

 青紫色の長髪を右耳にかけると、蒼い瞳に鋭い眼光が宿った。


「それはもう間違いないでしょう」

「そうだよなあ。フスニが岩虎魚(コルコゼ)を売ってるのは確実だろうよ」


 俺の嫌な予感は的中してしまっただろう。

 自分の頭を掻きながら、思わず溜め息が出る。


「はあ、面倒なことになったぜ」


 シャルクナの表情は変わらず、冷静かつ冷酷な美しさを浮かべている。


「そうなると、フスニから岩虎魚(コルコゼ)を購入しているのは、ドルドグムの取引先だった商人と同一かもしれません」

「その商人が全ての元凶だろうな。リメオルの絵画の謎を知り、ドルドグムで実験。そしてそれを発展させ、岩虎魚(コルコゼ)から毒物兵器を作っていると……」

「はい。仰る通りかと」

「ふむ……。いや、待てよ……」


 状況を整理して考えていく。

 すると俺の中で、これまでのことが繋がっていった。


 ティアーヌの話によると、今回抗争があった犯罪組織は夜哭の岬(カルネリオ)と関係ないという。

 だが、毒物兵器を取り扱った商人は、夜哭の岬(カルネリオ)と関わりがあってもおかしくない。


「なあ、シャルクナ。仮にその商人が夜哭の岬(カルネリオ)だった場合、ティルコア進出と関わりがあると思うか?」

「え? それはどういう?」

「だからさ、これまでの夜哭の岬(カルネリオ)は、犯罪組織がないこの町で住民を脅し、みかじめ料を払わせたり薬物を売ったりと、犯罪組織らしくティルコアを牛耳るつもりで進出しようとしていただろ?」

「はい。左様でございます」

「だが、ティルコアに利益をもたらす存在だったら? そこから進出を図ったら?」


 シャルクナの動きが一瞬止まった。

 そして、その蒼い瞳を見開き、俺に向ける。


「まさかっ!」

「今はフスニ個人から岩虎魚(コルコゼ)を購入しているが、それをもっと拡大していけば、どうなると思う?」

「次から次へと売りたい漁師が現れると思います」


 俺はいったん珈琲を口にした。

 そして、大きく息を吸う。


「そうだ。ティルコアの漁師たちはこれまで以上に金を手にする。それも、外道と呼ばれる金にならない魚で、簡単に大金を得るんだ。そうなるともう止められない」

「犯罪組織が富をもたらして進出なんて……」


 この話はあくまでも仮定の話だが、概ね間違いはないだろう。

 俺は椅子の背もたれに背中を預けた。

 高級な木の椅子は、深刻な話でも快適さを提供してくれる。


「いきなり漁師ギルドへ話を持ちかけても、岩虎魚(コルコゼ)の売却なんて認めるはずがない。だが、倫理観の低い個人を攻めていけば話は違う。それを拡大していけば一つの勢力となる。しかも、現状は岩虎魚(コルコゼ)の売買に規制はない。もう一つの漁師ギルドが生まれるだろうよ。それを犯罪組織が仕切ったら? いや、それ自体が犯罪組織になるとしたら?」

「ティルコアは犯罪の温床となります」

「そうだ。夜哭の岬(カルネリオ)は、簡単にティルコアを手中に収めることができる。まあ今の段階で夜哭の岬(カルネリオ)とは断定できないがな」

「し、しかし、漁師ギルドや町役場が黙っていないのでは?」

「ますます思う壺だ。対立が生まれれば、つけいる隙ができる。もし衝突するようになれば治安は悪化する。そうなると、武器、麻薬、酒、毒、傭兵、女、何でも売れるぞ?」

「た、確かに……」

「人は金を手にすると変わる。大抵の者は生活水準を落とせない。そして、人は金のために簡単に他人の命を奪う。もう戻れない」


 シャルクナも理解しているようだ。

 小さく頷いた。


「グレクに会ってくる」

「かしこまりました」

「シャルクナは特殊諜報室(ホルダン)に連絡を取ってくれ。毒物兵器を作っている組織を調査してほしい。最優先だ。俺の名前を出していい。ムルグスに伝えてくれ」

「承知いたしました」


 シャルクナが深く一礼する。

 俺はそのままリビングを後にした。


 今回の話は全て憶測に過ぎない。

 だが、このまま放置していたら、ティルコアはいつの間にか乗っ取られたという状況に陥るかもしれない。


 そして、フスニは取り返しがつかないところまで堕ちていくだろう。

 それは以前、夜哭の岬(カルネリオ)怒れる聖堂(ナザリー)に取り込まれ、死んだダムラのように。


「早期に気づいてよかった。対処の方法はいくらでもある。それに……」


 ティルコアの漁師は誇り高い。

 特に若い世代は、漁に人生を捧げたトーラムたちの後ろ姿を見ているはずだ。


 今ならフスニは戻ることができる。


「俺はティルコア漁師を信じるぜ」


 俺は愛馬のライールに跨った。

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