第21話 特訓と成果1
新しい糸巻きを受け取ってから一週間が経過。
俺はひたすら練習していた。
今日も朝からカーエンの森で練習だ。
「見た目は完全に籠手だよな」
右腕に装着した糸巻きを眺める。
リーシュが言うには、この糸巻きは指の動きで操作するため、籠手タイプで設計したそうだ。
鎧としての防御効果も高いという。
「意外と操作は簡単だったな」
糸を出す時は拳を握る。
その際、親指を握りながら手首を内側に回すことで発射。
普段親指を握ることはないので、誤操作は起きない。
巻き取る時は、握り込んだ親指を弾くように外へ出して、手首を外側へ回す。
少し変則的な動きが必要だが、自動による発射と巻取りは想像以上に便利だった。
対象に向かって糸を発射するだけであれば、俺はもう完璧にコントロールできる。
だがそれだけではなく、さらに新しい使用方法も発見し練習していた。
糸巻きを頭上に放ち、枝に巻きつける。
糸の先端が枝に絡まったところで巻き取り開始。
強靭な牙蜘蛛の糸は、大人の体重を簡単に引っ張り上げた。
その勢いを利用し、俺は枝の上に着地。
「今までの糸は拘束に使っていたけど、これは移動にも使える」
さらに別の枝へ糸を放ち、枝から枝へ移動した。
「お、白大柚だ」
少し離れた先に白大柚の木を発見。
大きな実をつけている。
俺は白大柚の実に向かって糸を放つ。
巻き取ることで、白大柚の実を手元に引き寄せた。
「拘束だけじゃなく、移動や捕獲もできる。リーシュのやつ、マジでとんでもないものを作ったな」
糸を足元の枝に巻きつけ、ぶら下りながら地上へ降りた。
「次はこれを試すか」
バッグから木製ケースを取り出す。
ケースの中には金属製の鉤、銛、分銅、鉄球など各種パーツが収納されている。
糸の先端は小さなリング状になっており、小さな金具でパーツと糸を繋ぐ。
飴玉ほどの小さな鉄球を取り出し、糸に装着。
少し先の木の幹に発射。
手のひらを叩いたかのような破裂音を発生させ、鉄球は幹にめり込んでいた。
「この威力はヤバいな。リーシュは人の頭くらい飛ぶと言っていたし、気をつけないといかんぞ」
休憩のため、近くの岩に腰を下ろす。
採取した白大柚の皮を剥き、実を口に運ぶ。
甘さの中に程良い酸っぱさが食欲を増進させる。
「この時期の白大柚はうめーな」
白大柚を昼飯代わりにして、その後も日没まで訓練を繰り返した。
——
「ふう。思い通り操れるようになったな」
帰り支度をして、カーエンの森を出た。
市場で晩飯の買い物をしながら自宅へ戻る。
「さて、飯を作るか」
といっても、俺は料理ができない。
さっき買ったばかりの肉と野菜を適当に切り、鍋に入れ煮込むだけ。
味付けは塩と胡椒。
料理なんて言えたもんじゃない。
「えーと塩は。あ、あそこか」
少し離れた位置にある塩の瓶を取るため、俺は右手を握り手首を回した。
「ヤベえ、癖づいちまった。あっはっは」
無意識で糸発射の動作が出た。
この一週間毎日朝から晩まで練習したことで、操作が染みついたようだ。
「これならもう大丈夫だな。明日クエストへ行ってみるか」
俺は手で塩を取り、肉と野菜の適当スープを完成させた。
——
翌朝、冒険者ギルドに顔を出す。
クエストボードの前に立ち、手頃なクエストを物色。
「新しい糸巻きを試したい。簡単なクエストがいいな……」
呟きながらDランクのクエストボードを眺める。
「はああ。マルディン、お前また下位ランクのクエストを見てんのか」
背後から溜め息混じりの呆れたようなが聞こえた。
ギルド職員のパルマだ。
「よお、パルマ」
「お前、この一週間どこへ行ってたんだ?」
「ああ、ちょっとやることがあってな」
「そうか。まあいい。実はお前に頼みたいクエストがあるんだよ」
「俺に?」
「採取クエストだ」
「採取だって?」
数あるクエストの中で、採取が最も簡単なクエストと言われている。
そのため、基本的に採取クエストはDランク以下しかない。
Cランク冒険者の俺は、自身のランク以下のクエストへ行くとこはルール上問題ないのだが、いい顔はされない。
「Dランク以下のクエストへ行くと怒るだろ?」
「まあ普段はそうなんだが、この採取はCランクなんだよ」
「え? 採取でCランク? どういうことだ?」
「この時期だけに生える茸の採取だ」
「茸? 茸って、あの茸?」
「お前、茸以外に茸なんてあるか?」
「そりゃそうだけど、茸を採るだけでCランクってどういうことだ?」
「まあ、これを見てみろ」
パルマが一枚の紙を取り出した。




