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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第六章 春の新生活

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第200話 故郷の調べをあなたに1

「マルディン、一週間後は何してますか?」


 冒険者ギルドのロビーに入ると、アリーシャが声をかけてきた。


「一週間後? えーと、確か……」


 俺はギルドハンターの仕事で、珍しく遠出をする予定だ。

 予定としては明日から一週間。

 ただ、仕事が早く終われば、その分帰還も早い。


「用事があってな。戻るのは一週間後の予定だ」

「そうですか……」

「何かあるのか?」

「実はフェルリートの誕生日なんです」

「そうか。そういや春だったな」


 俺がフェルリートの誕生日を知ったのは、昨年の誕生日を過ぎた後だった。


「今年こそあの娘にとって、思い出が上書きされる誕生日になると思うんです」

「上書き?」

「フェルリートのご両親は、フェルリートの誕生日に亡くなってるんです」

「え? 原因は台風だったんだろ? この季節に台風なんてあるのか?」

「当時はまだ水竜ルシウスがいたので、季節を問わず台風が発生していたんです」

「そうだったのか」


 竜種は生物の頂点に立つ神の如き存在と言われている。

 その一柱である水竜ルシウスは、数年前にラルシュ王国のアル陛下によって討伐された。

 それもたった一人で討伐したという。

 箔をつけるためのよくある嘘だと思っていたが、実際にお会いして納得した。

 あの方は正真正銘の化け物だ。


「フェルリートはご両親と自宅で料理を作っていました。だけど、調味料が切れていることに気づいて、ご両親は雨の中買い物へ出たのです」

「外は台風だったんだろう?」

「その時はただの雨だったんです。商店街も普通に営業していました。しかし、竜種の台風は予測不可能で……」

「なるほど」

「あの娘は料理を作りながら、両親が帰ってくるのをずっと待っていたんです」

「そうだったのか……。フェルリートが料理を作って誰かの帰りを待っているのは、そのためか」

「はい、そうです」


 アリーシャの視線が足元を向く。

 表情は見えないが、声が僅かに震えていた。


「あの娘が一人になってから、誕生日は毎年私が一緒に過ごしてきました。今年はマルディンにも一緒にいて欲しくて……」

「分かった。なんとか帰ってくるようにしよう」

「本当ですか!」

「ああ、フェルリートには世話になってるしな。俺も祝いたい」

「ありがとうございます!」


 満面の笑みを浮かべ、深く頭を下げるアリーシャ。


「アリーシャは優しいな」

「そ、そんなことないです! でも、私はあの娘のためなら何でもしますから」

「本当の姉妹以上だな」

「はい!」


 二人の関係は、血の繋がりをも超えている。

 きっとたくさんのことを二人で乗り越えてきたのだろう。

 俺も力になりたい。


「じゃあ、フェルリートの誕生日パーティーは家でやろう」

「いいんですか?」

「もちろんさ。メイドのシャルクナにも伝えておく」

「ありがとうございます。」

「酒は家にあるから、食材を用意してくれ」

「はい、たくさん作りますね。フフフ」

「フェルリートには伝えていいのか?」

「ええ。もう驚かせるようなものでもないので、みんなでパーティーするって伝えてあげましょう」

「そうだな。分かった」


 俺たちは食堂へ移動した。

 ホールに入ると、テーブルを片付けているフェルリートと視線が合う。


「あ、マルディン!」

「よう、フェルリート。この間はありがとな」

「ううん、大丈夫だよ。シャルクナさんと一緒に料理したり楽しかったよ」

「そりゃ良かった。また遊びに来てくれ」

「うん」


 フェルリートはテーブルを拭き、食器をトレーに乗せた。

 歌を口ずさんでいて機嫌が良さそうだ。


「マルディン、今日は何か食べていく?」

「ああ、明日から遠出をするからな。お前の飯を食って出かけるよ」

「え? そ、そうなんだ」


 フェルリートは笑顔を浮かべているが、少しだけ表情が曇った。

 誕生日のことを気にしているのだろうか。


「一週間以内には帰ってくるよ。お前の誕生日は、みんなを集めて俺の家でパーティーしよう」

「い、いいの?」

「当たり前だろう」

「ありがとう。嬉しい」


 フェルリートが、滲んだ大きな瞳をそっと拭う。


「お前の料理も食いたいからな。主役だけど、作ってくれよ?」

「もちろんだよ! たくさん作るからね!」

「楽しみだよ。あっはっは」


 ――


 ギルドで飯を食った後、俺は調査機関(シグ・ファイブ)へ足を運んだ。

 ティアーヌとギルドハンターの最終打ち合わせだ。


「マルディンさん。明日の件はよろしくお願いします」

「ああ、任せてくれ」

「ターゲットはCランクの冒険者二人です」

「討伐リストはチェック済みだ。問題ないよ」

「現地で治安機関(シグ・スリー)の職員がサポートします」

「分かった。助かる」


 俺はティアーヌが用意した契約書にサインした。


「ところで、ティアーヌ。一週間後は空いてるか?」

「一週間後ですか? はい、大丈夫ですよ」

「フェルリートの誕生日パーティーをやるんだ。良かったら、お前も来てくれ」

「わあ、いいんですか?」

「もちろんさ。俺の家でやるから来てくれ」

「でも、一週間後だと……」

「絶対に帰ってくるさ」

「分かりました。では、無理しないように、無理してくださいね」

「なんだそれ?」

「マルディンさんって、フェルリートさんのことになると凄く真剣になるんですもの」

「そんなことはないが……。いや、まあそうかもな」

「羨ましいなあ」

「何言ってんだよ。お前だって大切な仲間だぞ」

「仲間ねえ」

「な、なんだよ」

「別にー」


 テーブルの書類を片付けながら、頬を膨らませるティアーヌだった。

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