第20話 天才少女の開発3
「すみません!」
大きな声で謝るリーシュ。
予想はつく。
「これほどの装置だ。予算オーバーしたんじゃないのか?」
「そ、それはその……。自分で出そうと思っていて……」
「いくらオーバーしたんだ?」
「あの……。金貨五枚……です。すみません! もちろん私が出します!」
「そんな大金を子供が払えるわけないだろ? その分も払うから安心しろって」
「で、でも!」
「気にすんな。この糸巻きがあれば、すぐに元が取れるよ。あっはっは」
俺たちの会話を聞いていたグラントが、俺の肩に手を置いた。
「マルディン。もしこれを量産して販売するなら、お前の収入は凄まじいものになるぞ。金貨数千枚は軽く超えるはずだ。大金持ちだぞ? どうする?」
「俺は大金なんていらないよ。悪いがこの一台だけに留めてくれ」
「分かった。だが、いつか誰かが似たような装置を開発するだろう。国際特許だけでも取っておけ。使わなくてもいい。いつか役に立つはずだ」
「ああ、分かった」
「手数料をもらうが、こっちで申請するぞ? マルディンとリーシュの名前で取る」
「全て任せるよ」
結局、今回の開発で金貨十五枚を支払った。
さらに特許申請の費用で金貨三枚。
合計金貨十八枚の費用だ。
大幅に予算オーバーしているが構わない。
命を守る道具だ。
それに一度全ての財産を没収されている俺は、金に執着心がない。
それよりも、こうして金を使うことで、リーシュの才能を伸ばすことができて嬉しい。
「さて、せっかくだから飯でも食いに行くか。リーシュ、完成祝いで好きな物を奢るぞ」
「え! いいんですか?」
「もちろんだ! 旨いもん食おうぜ!」
「やったー!」
両手を上げて飛び跳ねて喜んでいるリーシュ。
天才と言われても、まだ十八歳だ。
喜び方は少女そのものだった。
「グラント、リーシュを連れていくぞ?」
「ああ、今日はもう上がっていいぞ」
――
俺はリーシュを連れて、イレヴスの商店街へ向かった。
隣を歩く小さな少女。
まだ若いのに、特許が取れるほどの開発を一人で行ったリーシュ。
俺は少し興味が湧いた。
「リーシュはいつから開発機関で働いてるんだ?」
「今年の春からです。学園を卒業したタイミングで、叔母さんに声をかけてもらいました」
「叔母さんって、開発機関の局長か?」
「そうです!」
「発明は叔母さんに教わったのか?」
「いえ。叔母さんは鍛冶師なので。でも、小さい頃はよく工房へ遊びに行ってました」
「なるほど。少なからず叔母さんの影響があるんだろうな」
「はい! 尊敬してます!」
身内だから声をかけたわけではないだろう。
リーシュの柔軟で斬新な発想力は、開発者に相応しいと思う。
「さて、そろそろ商店街に着くぞ。リーシュは何が好きなんだ?」
「お肉です!」
「あっはっは。若者は肉が好きだな。いいぜ、好きなだけ食べろ」
「はい! ありがとうございます!」
商店街を歩いていると、店の入口に黒森豚の剥製が置いてある食堂を発見。
恐らく肉料理が豊富だろう。
「ここが良さそうだな」
「いらっしゃいませ! お二人ですね!」
店員に案内され、窓際のテーブルにつく。
「さあ、何でも食べろ」
「はい!」
店員を呼び、壁にかけられてるメニューを指差すリーシュ。
「えーと、黒森豚のスペアリブ、牛鶏の窯焼き、南洋鴨の香草焼き、巻角山羊のシチュー。あ、茶毛猪の炭焼きは自分で焼きます」
「マ、マジで遠慮しないな……。あっはっは。おもしれー。いいぞ、好きなだけ食え」
次々に運ばれる料理を勢い良く口に運ぶリーシュ。
「まるで暴王竜だな」
何でも喰らうと言われ、食物連鎖の頂点に立つAランクモンスターの暴王竜。
身体は小さいリーシュなのに、食欲は大型モンスターの暴王竜のようだった。
リーシュの気持ち良い食いっぷりを眺めながら、俺は葡萄酒を飲み、目の前で焼いている茶毛猪の肉をつまむ。
「マルディンさん! まだ早いです!」
「ん?」
肉を取ろうとする俺の箸を、両手で塞ぎ阻止したリーシュ。
「何だよ。腹に入っちまえば同じだろ?」
「違います!」
リーシュは肉の焼き加減にうるさかった。
開発者ってのはこだわりが強いのだろうか。
「あとちょっとで最高の状態になるんです!」
「あーそー」
「まだです!」
「あっはっは。いただきー」
その後もリーシュに怒られながら肉を食った。




